フォワーダーのためのQ&A

2000年7月号以来、「JIFFA NEWS」に掲載が続いている「フォワーダーのためのQ&A」。
この度、これまで掲載してきた第1回から第60回の内容を、フォワーダー業務において日々起こる実務的な問題の解決のサポートになることを目指して、 より実践的に活用できるよう見直し、問題のカテゴリー毎に整理をし、ポータビリティを考えたB5版というサイズとして2017年3月に冊子化するに到りました。→JIFFA NEWS紹介記事
業務に携わる皆様 “一人に一冊”、を目指して作成されたものであります。
是非ご活用頂ければ、と考えております。

※当HPに於いては、第61回からを掲載する事と致します。



当ホームページよりご購入いただけます。

クリックすると「質問」とその「回答」が表示されます。

第110回 255号 2025年3月
    「コンテナ貨物の汗濡れ損害とフォワーダーの賠償責任について」

質問:
 当社は、顧客である飲料メーカーAより、⽇本からロッテルダムへ輸出するワインの輸出梱包、通関とCFSからロッテルダムの受荷主倉庫までの運送を委託されました。当社混載CFS(実際の作業は下請が⾏っている。)に飲料メーカーが持ち込んだカートン⼊りワインを、パレタイズの上、ラップで巻いた上からバンドで固縛し、コンテナに積み込みました。梱包については、荷主から特段の仕様指⽰はなく、⾃社規定により行いました。またカートンは、飲料メーカーAのものを、そのまま使⽤しております。
 その後、ロッテルダムでコンテナを引き取りCFSにてデバンニング、搬⼊後、トラックにて受荷主倉庫まで配送、引き渡しをしたところ、カートンに⽔が濡れた跡が発⾒され、ワインのボトルのラベルにも⽔濡れの跡とカビの付着損害が確認されました。このため、受荷主は商品価値がなくなったとして、当社に対して全額の弁償を求めてきました。
 揚げ地CFSでデバンニングしたコンテナの状態を確認したところ、天井に⽳あき等は確認できませんでした。また、受荷主が現地で⼿配したサーベイの結果、濡れた跡から塩分は計測されませんでした。さらに貨物から取り外したパレットを調べたところ「使⽤されていた⽊製パレットの⽔分含有率に問題があった可能性がある。また、貨物全体をラップ巻きしていたことから、輸送中にラップの内側で湿気が凝固して、結露につながったものと考えられる」との⾒解がなされました。
 当社はこれまでも当該貨物を同様の梱包⽅法で運送しており、結露等の事故はこれまで発⽣していないことから、受荷主のクレームを拒否したいと考えていますが、どのような点に留意し、対応すべきか、または、当社は責任を負担することがあるのか、アドバイスをお願いいたします。

回答:
1.事故原因の考察及び対応の留意点について
 まずは責任の所在を明らかにするために、事故原因を考察する必要があります。ご質問の内容から、外部から海⽔や⾬⽔が浸⼊した形跡がないことから、なんらかに起因した「汗濡れ」が、事故原因であると判断されます。荷主側のサーベイレポートによると、汗濡れの原因は、「使⽤されていた⽊製パレットの⽔分含有率」とされておりますが、過去の複数回に渡る同ルートの輸送において⼀度も汗濡れが発⽣していないことからこのような指摘は疑問です。受荷主のクレームを拒否するためには、事故原因をさらに詳細に考察することが必要です。例えば、以下の内容を調査・確認することが考えられます。

(1)受荷主に対し、カートンの⽔分含有率に問題がなかったか、確認を依頼する。
 カートンに⽔濡れが発⽣していたため、貴社が⼿配したパレットではなく出荷主が⼿配したカートンの水分含有率に問題があった可能性も否定できません。特にカートンが段ボールの場合は、⽔分を多く含んでいた場合も考えられます。受荷主に対し、出荷主へ確認いただくよう依頼します。

(2)受荷主に対し、ラップの外側やコンテナの天井に⽔濡れがなかったか、確認する。
 仮にラップの外側やコンテナ天井に⽔濡れが発⽣していた場合は、パレットの水分含有率ではなく、コンテナ内部の空気に起因する汗濡れ損害の可能性も考えられます。

(3)積み地CFSに対し、使⽤したパレットに問題がなかったことを確認する。
 積地CFSが「パレットの水分含有率に問題はない」ことを確認している場合は、事故原因の再考が必要となるため、エビデンスの提出を依頼します。エビデンスの例としては、積み込み時のパレットの写真、パレットを乾燥させるフローチャート、積み込み時のパレットのチェックシート等が挙げられます。

2.貴社の責任及び対応の留意点について
 続いて、上記調査・確認された事実関係から貴社の責任の有無について考察します。 貴社にはCFSから受荷主倉庫まで輸送を扱う運送⼈(NVOCC)としての⽴場と、梱包とコンテナ作業の⼿配を⾏うフォワーダーとしての⽴場がありますので、それぞれの⽴場から考察します。

(1)海上輸送を扱う運送⼈(NVOCC)としての⽴場
 「1.事故原因の考察及び対応の留意点について」にて記載の通り、汗濡れがパレットではなくカートンの⽔分含有率に起因したことが確認できた場合、荷主の梱包材に原因があったことになるため、JIFFA MT B/L 約款第22条(運送⼈の責任)第2項(c)および(d)を援⽤して運送⼈の責任は免除されます。また、コンテナ内部の空気に起因する汗濡れ損害であった場合、使⽤したパレットの水分含有率に問題はないことが確認できた場合も同条(h)に該当し運送⼈の責任は免除されることとなり、受荷主のクレームを拒否できるでしょう。

第22条運送⼈の責任
(2)運送⼈は、滅失、損傷⼜は引渡しの遅延が次の事由により⽣じたものであるときは、滅失⼜は損傷の責任を免除される。
(c)運送品の固有の瑕疵⼜は性質
(d)包装の不完全⼜は記号の不⼗分
(h)運送人が避けることができない原因または事件であって、相当の注意を尽くしても、その発生を防ぐことができない結果

(2)フォワーダーとしての責任
 他⽅、貴社は梱包を請け負っており、荷主から特段指⽰はなく、貴社独⾃の規定により貨物のラップ巻きがなされております。仮に貴社が⼿配したパレットの⽔分含有率に起因して汗濡れ損害が発⽣した可能性が⾼い場合、運送⼈としての⽴場としては責任を免れるものの、フォワーダーとしての⽴場では、パレットを⼿配した貴社が責任を負う可能性があります。梱包を請け負ったフォワーダーとしては、貨物に損害が発⽣しないような適切な素材のパレットを使⽤する義務があると考えられるからです。
 そのため、貴社としては、実際に作業を行った積み地CFSへの再求償を検討し、以下の点に関して当該CFSに対処しておくことが必要です。

①クレーム通知と損害賠償請求権の留保
 本件では、貴社は契約しているCFSでカートンをパレタイズしました。そのパレットの⽔分含有量が⾼かったことが結露の原因であると荷主は主張しているので、このクレームをそのままCFSに通知して、貴社もCFSに対してクレームを通知すべきです。CFSにはパレタイズの指⽰に対して適切なパレットを提供する義務があります。

②当該貨物のバンニングレポートの提出および使用パレットの選別・管理に関する書面回答の依頼
 事故発⽣から時間が経ってしまうと、バンニング時の記録などが散逸してしまい、当時の状況を確認することが難しくなることがあります。そうなると、CFSは貴社の通知が遅かったことを理由に、クレームを謝絶してくることもあり得ます。このような事態を避けるために、作業時の記録を収集して保存することは⾮常に重要です。

 このように仮に海上輸送を担う運送⼈としてではなく、フォワーダーとして責任を負担する場合、B/Lの責任制限は適⽤されないリスクがあります。そのため、事前に荷主と別途責任の範囲を明確にさせておく必要があります。このような問題を解決するために、JIFFAでは標準取引約款を策定しており、最新のものはJIFFA 標準取引条件(2020)として、頒布しております。詳細は『フォワーダーのためのQ&A 改定版』p.215「物品の国際輸送に関連して、フォワーダーが提供するサービスと標準取引条件」にて解説しておりますので、併せてご確認ください。

【参考】汗濡れの防⽌策について
 汗濡れに伴うダメージは、様々な要因に起因して発⽣するため、責任の所在の特定が複雑となるケースが多くなります。このようなケースを回避するため、汗濡れ防⽌策を何点かご紹介します。

(1)コンテナについて
・積み込み前に、コンテナの扉を開放し周囲の空気とコンテナ内の空気の温度差を解消する。または、FCLの場合であればリーファーコンテナを使⽤する。
・積み込みする製品は早めに倉庫から搬出し、事前に周囲の空気との温度差を解消する。
・コンテナ内の乾燥が⼗分であることを確認する。

(2)使⽤するパレットについて
・パレットは、⽊製ではなく出来る限りプラスチック製を使⽤する。
・やむを得ず⽊製のものを使⽤する場合は、⼗分に乾燥させたものを使⽤する。

(3)その他の対策について
・梱包仕様を打ち合わせする際に、パレットを含めずにシュリンクラップを⾏うことについて、顧客に申し⼊れを⾏う。
・気密性を保持できるバリアラップを施して、内部の空気を抜く。
・適切な量の乾燥材を⼊れる。
・梱包依頼を受けた際に、万が⼀の事故発⽣時の責任の所在を明確にする。

第109回 254号 2025年1月
    「日本の荷主を仲介者とする米国向け三国間輸送 −Switch B/LとFCRの発行−」

質問:
 JIFFA会員である当社は、JIFFA運送書類を使用して利用運送事業(NVOCC)を行っていますが、この度お客様より次のような三国間輸送の依頼を受け、その構築に取り組んでいます。

A社:某国(*)サプライヤー、商材の製造・供給元
B社:日本国内商社、仲介貿易を行なう本件の依頼主
C社:米国内バイヤー、商材の荷受人
X社:海外某国フォワーダー、当社の契約代理店
Y社:米国フォワーダー、当社の契約代理店

(*)出荷地を「某国」とするのは、国ごとの制度・規則の多様性について今回の検討対象外とするためであり、一般的な三国間輸送のNVOCCの手順にフォーカスするため特定の国名を設定しておりません。

 仲介貿易業者のB社は、A社との間で商材調達のため売買契約を工場渡し条件(EXW条件)で締結し①、またC社との間で商材販売のための売買契約をCIF条件で締結します②。商材自体は海外某国から米国への海上輸送(直送)③を予定しています。これに伴って、当社は、シッパーB社、コンサイニーC社とする某国から米国までの運送書類を日本においてB社宛てに発行するよう依頼を受けています(運賃はPrepaidとしB社より収受)④。
 当社は、運送書類発行者として、B社への販売運賃決定および船社運賃の仕入を行なう一方で、某国および米国でのNVOCCにかかわる発地業務⑤および着地業務⑥はそれぞれの国の契約代理店X社、Y社に委託し、当社から指示を出すこととしました。


 NVOCCとしての本件三国間輸送の取り扱いに関して、次の点を含め、一般的な手順と注意すべき点をアドバイスいただきますようお願いいたします。

(1)B社からは、A社をシッパーとする某国~米国間を輸送範囲とした運送書類をA社に発行することを求められていますが、発行しても良いでしょうか。この運送書類は、AB社間の商流決済のみに使用され、決済終了後は、当社が発行するBC間の運送書類に切り替え(B社をシッパーとする“SWITCH B/L”を発行する)、実際の輸送および着地米国での貨物引き渡しにはこのSWITCH B/Lが使用されることになります。
(2)今回、米国向けの三国間輸送となりますが、米国連邦海事委員会(FMC)規則あるいは事前マニフェスト登録制度(ACE送信)などの実施上の留意事項はあるでしょうか。

回答:
(1)SWITCH B/Lの取扱い
 A社は商材を供給する生産者・製造者の立場であり、輸出・船積手続きには関わらないことから、基本的に当社あるいはX社がB/Lなどの運送書類を発行することは不要です。
 しかし、A社あるいはB社から、AB間の商取引決済に使用することなどを目的に、何らかの書類をA社へ提示することを要求されることが想定されます。本件の場合は、X社からA社に対してFCR(Forwarder’s Cargo Receipt)を発行し、これをもって要求される書類に充てることをB社に提案することを推奨します。荷主企業ではFCRに馴染みがないことが多いため、X社のブランクフォームやサンプルを取り寄せて書面をもってあらかじめ趣旨を説明するとともに、X社から直接A社へも説明を行うなどの工夫をしたほうが良いでしょう。FCRの取り扱いについては、2020年6月に当協会が発刊した『やさしいJIFFA FCRの手引き』がありますので、そちらをご参照ください。
 また、EXW条件であっても、輸出国となる某国の法規や慣例によっては、次のようなケースでA社に対して運送書類を発行せざるを得ない場合もあり得るので、X社と相談しながら対応する必要があることを予めご承知おきください。
(a)非居住者であるB社がシッパー/輸出者名義(輸出通関申告者)になり得ない場合がある。
(b)A社が、内国税の減免や輸出奨励等の補助金、助成金の交付を受ける、もしくはAB社間の海外決済に際して銀行経由で受金するなどの必要性から、A社名義の輸出実績を示す書類(運送書類等)を求められる場合がある。
 いずれにしても、A社、B社からのご要望を精査し、それを受け入れる前に、X社を交えて発地国の規則とその手順を慎重に確認しなければなりません。お客様がご要望される商流上の手続きにおいて、FCRが有効なドキュメンテーションとなり得るかどうかをまずは検討されることを推奨します。
 それでもなお、SWITCH B/Lの取り扱いが必要な場合には、お客様の与信、運送書類の全通回収、運賃等の収受確認などの取り扱い上の注意点を整理し、発生しうる全てのリスクの可能性を理解したうえで、X社と連携しながら自らの責任において適正に業務を実行することに取り組まなければなりません。

(2)米国向けNVOCC取扱い上の注意点
 まず、米国連邦海事委員会(FMC)規則の概要について整理しておきます。これは、連邦規則タイトル46(Code of Federal Regulations Title46)で規定されています。
・NVOCC業者は、FMCからOTI(Ocean Transportation Intermediaries)ライセンスの認証を受けているか、もしくは、米国外企業であれば外国事業者登録(Non-US based Registered NVOCC)の認可を受けていなければならない。
・NVOCC業者がお客様に提供する海上輸送(NVOCC)は、連邦規則に基づいてその運賃を公示するなどの、適正な運用を実行しなければならない。
・FMCはこうしたNVOCCの活動を監視・監査する権限があり、違反行為に対して罰則(罰則金課徴、社名公表、ライセンス・登録の剥奪等)を科す権限を有する。
 発地側でA社に対してFCRを発行する場合、FCRおよびFCRの発行者はFMC規則の対象にはなりません。しかし、貴社がB社に某国~米国間の運送書類を発行する場合、貴社にFMC規則へのコンプライアンス責任は帰属します。貴社はNVOCCの販売を自らのOTIライセンスまたは外国事業者登録のもとで実行し、お客様から運賃等(着地料金等を含む)を適切に収受しなければなりません。また、運送書類におけるCRC(Cargo Release Contact、米国内の貨物引き渡し代理店)となり得るY社も、在米企業としてOTIライセンスを保有していることが必要であり、運賃等の収受では貴社と同等のコンプライアンス責任を負います。
 一方で、FCR発行を行わずにSWITCH B/Lの取り扱いを行う場合には、A社に発行する運送書類もFMC規則の対象となり、発地側でそれを発行するX社もOTIライセンス(または外国事業者登録)を保有している必要があります。また、X社が発行するAB間の運送書類は、実際の輸送には使用されず、お客様(A社またはB社)からの運賃等の収受ができないことになります。このため、NVOCCを販売しているのに運賃の不収受と見なされ、コンプライアンス違反を疑われる可能性もあります。こうした状況から、米国向けNVOCCを行う上でSWITCH B/Lの扱いはFMC規則においてはコンプライアンス違反のリスクが高いと考えられます。
 また、ACE送信については、通常は、米国内で輸入通関申告に使用される運送書類の発行者がACE送信をすることになりますが、SWITCH B/L取扱いの場合は複数の運送書類・運送人が同一の輸送に関与することになるため、誰がどのタイミングでACE送信するかをあらかじめ確認し、確定することが必要です。送信漏れや重複誤送信など、CBP(Customs & Border Protection合衆国税関国境警備局)から罰則金が科されるような事例が少なからず発生しており、滞貨・遅延などの原因となるので注意が必要です。

 今回、問い合わせをいただいた事案のように、貴社、X,Y,A,B,C各社と登場人物が多くなる三国間輸送の取り扱いにおいては、ビジネスオーナー的立場の貴社にとっては、確認、調整、指示など広範な業務負担が多いことにはなりますが、想定されるコンプライアンスリスクを分析しながら、よりリスクが低い「FCRを活用した適正な取扱」に関係者をリードすることをアドバイスさせていただきます。

第108回 253号 2024年11月
    「米国地域約款と米国向けの輸送における法律の適用について」

質問:
 当社は、JIFFA MT B/Lを発行し、NVOCC業務を行っています。私は、これまでアジアを中心とする輸送の実務を行ってきましたが、米国発着の複合輸送を扱う係に異動となりました。これまでJIFFA MT B/Lの米国地域約款についてあまり気にすることがなかったのですが、約款を一読して疑問に感じましたので、問合せ致します。
 米国地域約款について、どのような内容か、またどうして米国地域約款がJIFFA MT B/Lの約款として規定されているのか教えてください。

回答:
 米国地域約款を規程した意義と背景は次のとおりとなります。

1.米国地域約款とはどのような内容か
(a)米国地域約款とは
 米国地域約款とは、米国発着貨物に特定した運送に関する約款です。JIFFA MT B/L約款において、第35条に規定されています。参考訳は以下のとおりです。

裏面約款第35条(参考訳)
(1)本運送証券に基づく運送が米国の港もしくは地点へ/からの、もしくは経由の運送である場合には、本運送証券は、1936年4月16日に承認された米国海上物品運送法(US COGSA)に準拠するものとし、同法の規定は本約款に摂取されたものとみなし、かつ、海上又は内陸水上運送を通じて、かつ、米国の臨海ターミナルにおいて船積前または荷揚後、運送または全ての下請人の実際の管理下にある全期間を通じて至上約款とする。
(2)US COGSAが適用されたときは、運送人の責任は、1包又は慣習的な運賃単位につき、500米ドルを越えないものとする。但し、本運送証券の表面に運送品の種類及び価額が通告された場合は、本運送証券第23条によるものとする。
(3)省略

(b)US COGSAとは
 次に、JIFFA MT B/L約款の第35条第1項に出てきた、US COGSAについて触れます。
 US COGSAは、Carriage of Goods by Sea Act of United Statesの略称であり、米国海上物品運送法のことです。1924年8月に制定された船荷証券に関する規則の統一のための国際条約であるヘーグ・ルールに準拠して米国が1936年に制定した米国国内法です。米国に発着する海上輸送貨物に関する荷主と船社の権利および責任を規定した法律です。
 その中で、運送人の責任の制限や適用範囲、例外規定が定められています。

2.どうして米国地域約款がJIFFA MT B/Lの約款として規定されているのか
(a)米国だけ地域約款を備える意義
 損傷や滅失が発生した場合などで、訴訟が外国で提起された場合、日本の国際海上物品運送法を援用している至上約款が常に外国でも認められるとは限りません。日本の国際海上物品運送法や米国海上物品運送法(US COGSA)は、輸出B/L以外に、輸入B/Lにも適用する旨規定しています。従って、輸入国が米国の場合には、US COGSAの序文の、「外国貿易であって、船積港または荷揚港を米国の港とする海上物品運送契約の証拠である船荷証券」として、輸入B/LがUS COGSAの適用対象となります。
 仮に輸入B/Lに、US COGSAを至上約款とする地域約款が無い場合、米国の裁判所により日本の国際海上物品運送法が否定されたとき、全面的に米国の国内法が適用される可能性があります。即ち、運送人がB/L約款上の免責や責任制限のみならず、ヘーグ・ルール立法に定められた免責や責任制限の権利を主張することができなくなる恐れがあるということです。
 このような事態に備えるため、米国に関して、JIFFA MT B/L約款第35条の地域約款をもって、米国の輸出入貨物の輸送についてUS COGSAの適用があることを予め明示しています。JIFFA MT B/L約款において、米国地域約款を備える意義は大きいと言えます。

(b)米国の内国運送に関する法規
 US COGSAが適用されない場合には、米国の法律に基づいて判決が下されることになる可能性があり、例えば米国には以下のような内国運送に関する法規があります。

ハーター法(Harter Act)
 1893年に制定された法律。US COGSAの適用により、米国内の貨物の船積前及び荷揚後の間を規律し、運送人と荷主との間の責任や義務を規定したもの。貨物の損傷や紛失に対する運送人の責任を大幅に制限する免責条項が一般的に使用される等、当時の海上輸送における不均衡を是正する法律(運送人が責任を完全に免除する契約条項を禁止している)。一方で、免責規定が設けられ、航行中の船員の過失や火災による損害について、運送人が義務を果たした場合には免責となる場合がある。ハーター法では、運送人が負う具体的な賠償責任の金額について制限を明示していないため、個別の事案に応じて賠償額が決定される。

カーマック修正(Carmack Amendment)
 州際通商法(ICA)に修正が施されたもの。Carmackは、鉄道または、鉄道および水運による運送が、米国内地と外国地との間の米国内運送を含む継続的運送または発送であって、共通の管理または手配の下にあるときに適用される法規。当該法規の趣旨は、貨物の州際運送に携わる多数の運送人の中から特定の有責運送人を探し出す困難から荷主を救済することにあり、荷主はCarmackによって最終運送人と船荷証券を発行した運送人を相手に、滅失または損傷による損害を回収できることになった。また、Carmackは運送人に対して厳格責任に近い責任を課している。

スタッガーズ鉄道法(Staggers Rail Act of 1980)
 当該法規に、鉄道運送人の責任を定める条項が設けられている。財物を引渡し、連邦陸上運輸委員会(STB:Surface Transportation Board)の管轄に属する運送と用役を提供する鉄道運送人は、船荷証券または受取証による賠償責任権者に責任を負う。当該規定に従い課せられる責任は、財物の実際の損失額または損害額である(Carmack条項)、と定められている。
 鉄道運送人は、Carmack条項に従い、荷主に財物の実際の損失額または損害額を担保する選択権を提示しなかったときには、荷主は運送人を訴えることができる。

 このように、US COGSAが適用されない場合には、米国の法律に基づいて判決が下された場合、運送人が不利な立場となる可能性があります。

3.複合運送証券の約款とカーマック修正の関係
 日本から米国内陸向け複合一貫輸送において、米国内の鉄道輸送中に貨物損害が発生した場合に、US COGSAが適用されるのか、上記カーマック修正が適用されるのかが争いとなった米国判例があります。この事案では、米国最高裁判所は、貨物がThrough B/Lに基づいて海外で受けられる場合には適用されず、同B/L約款が適用されると判断しています。以下紹介しますが、今後も米国地域約款、US COGSA、米国内陸輸送法規との関係には注意が必要です。
(a)事案の経緯
 中国から海上輸送された貨物が、米国西海岸で荷揚げされ、その後鉄道により内陸輸送中に脱線事故が発生。日本の船会社が最終仕向け地までのThrough B/Lを発行。

(b)争点
 Through B/L発行下での鉄道輸送中の事故にもUS COGSAが適用され海上運送人の責任が制限されることになるか。
 海上運送人によって海外で発行されたThrough B/Lの条項は、連邦法であるカーマック修正の規定に反するとしても、下請鉄道運送人によって行われる国内運送部分に適用されるか。

(c)経緯
 米国内での控訴審において、US COGSAは海上輸送には強行適用されるが、外国からの輸送の一部である陸上輸送には契約上任意に適用されるものにすぎず、陸上輸送には連邦法である州際通商法のカーマック修正とそれに関連するスタッガーズ鉄道法が適用される、即ち船会社の東京地方裁判所管轄条項は無効であり、US COGSAの適用を否定。

(d)結論
 米国最高裁は、カーマック修正は、Through B/Lの下での海外からの輸送には適用されないとして、控訴審での判決を破棄し、船会社のThrough B/Lの東京地裁裁判管轄条項を認める判決を下した。
 カーマック修正は、輸送が運送証券を発行する鉄道運送人によって開始される場合に適用されるものであり、貨物がThrough B/Lに基づいて海外で受け取られる場合には適用されない。海上運送人が、海外より米国内陸地までの一貫輸送を請け負ってThrough B/Lを発行した場合、米国内の鉄道輸送中に事故が発生したとしても、カーマック修正は適用されず、Through B/Lの約款が有効に適用されると判断された。

第107回 252号 2024年9月
    「外国の代理店にMT B/Lを代理発行させる場合の注意点」

質問:
 当社顧客のタイ子会社が、米国発日本向けの複合運送に当社のMT B/Lを発行して欲しいと要請してきました。当社は米国に現地法人がありませんので、現地の提携先である代理店に当社MT B/Lを発行させる予定です。また、タイなど、米国以外の国についても同様のスキームを採ることを検討していますが、問題ないでしょうか?

回答:
 結論から申し上げますと、米国やタイなど外国の代理店にMT B/Lを発行させること自体は可能です。ただし、下記に説明しますとおり法的なリスクや運用上の様々な課題が生じるため、実施の可否については慎重にご検討いただく必要があります。
 また、それらのリスクに鑑みると、自社グループ外の事業者またはグループ会社であっても本社との関係性が薄い事業者に貴社のMT B/Lの代理発行を委託するかどうかは、当該事業者との関係や契約形態などに拠って判断が分かれるものと思います。
 実際、会員企業の中には、会社の方針や社内規則で、外部の事業者によるMT B/L代理発行を認めていないケースもあるようですので、これを行うにあたっては、社内の法務部門や契約管理部門等に事前に相談することをおすすめします。

1.MT B/L発行国における許認可等
 まず、貴社が外国で自社のMT B/Lを発行する場合、当該国の許認可等が必要となる可能性がある点に注意が必要です。日本ですと、海外のフォワーダーが日本でMT B/Lを発行し複合運送を取り扱う場合、国土交通省から利用運送事業(外航)の登録または許可を取得しなければなりません。
 海外にも類似の規制が存在する国があるため、外国で自社MT B/Lを発行する場合は、事前に現地の専門家に相談し、しっかりと規制内容を確認するようにしてください。

2.法的リスク
 つづいて、貴社MT B/Lを外国の代理店に発行させる場合の法的なリスクについてお話します。
 ご承知のとおり、MT B/Lは運送契約の証拠となります。外国の提携先にこれを代理発行させた場合、運送契約が成立したとみなされるわけですが、その契約の当事者は代理店ではなく、運送人たる貴社であり、従って同契約に基づく権利及び義務は貴社に帰属します。つまり、代理店が貴社MT B/Lを発行した国際輸送の途上で事故が発生した場合、荷主に対する責任は貴社が負うこととなります。
 また、代理店が有価証券でもある貴社名義のMT B/Lを発行した場合も、その発行主体は貴社となりますので、券面に記載された内容について貴社が責任を負うこととなります。つまり、貨物の実際の内容や状態と券面に記載された内容に齟齬がある場合、貴社がその責任を負うわけです。

3.運用上の課題
 上記の法的リスクに鑑みると、MT B/Lの発行を委任する代理店は、貴社が十分に信用をおける会社でなくてはなりません。すなわち、MT B/Lの代理発行を任せる相手は、それなりの年数に亘って提携関係にあり、信頼関係が築かれている提携先であるべきでしょう。さらに言えば、日常的なサービスの内容や品質だけでなく、これまでのトラブル発生時の対応にも問題ないか確認しておくべきです。
 また、仮に会社として信用できる相手であっても、従業員の不正やミスは避けられないものです。したがって、信頼関係だけに頼るのではなく、貴社と代理店との間で責任関係を明確にしておく必要があります。

①MT B/L代理発行に関する契約
 貴社と代理店との間の関係を明確にする具体的な方法として、貴社と代理店との間の相互代理店契約等において、MT B/Lの代理発行を委託する旨記載のうえ、代理店によるMT B/L発行時の不正やミス、または次段に述べる運用ルールの違反等によって貴社に損害が生じた場合、代理店が損害賠償責任を負う旨を定めるなどしておくと良いでしょう。

②運用ルールの策定
 MT B/Lの発行を代理人に委託する場合、代理店が貴社とは関係ない自社の顧客のために貴社MT B/Lを発行してしまう可能性や、杜撰な管理によって貴社MT B/Lのブランクフォームを紛失したりする可能性もあるため、それらを防止するための運用ルールを取り決めることも重要です。
 具体的には、貴社と代理店の間の相互代理店契約等において、以下のようなルールを定めることをおすすめします。
・貴社が代理店に別途依頼した輸送に限り発行可能であること
・MT B/Lの発行を台帳等に記録すること(台帳への記載事項も指定)
・MT B/Lブランクフォームの在庫(使用枚数/未使用枚数)を適正に管理すること
・MT B/Lブランクフォームは、鍵のかかる保管庫やキャビネットで保管すること
・発行実績を定期的に(毎月または四半期毎など)報告すること
 (MT B/Lブランクフォームの欄外に連番を印刻すれば記録・管理もやり易くなるでしょう)
 また、日本向けに限定された船積みであるならCargo Release Agent 名の記載欄(JIFFA MT B/Lフォームでは“Party to contact for cargo release”欄)に貴社の名称・所在地・連絡先を予め印刷するのも有効な対策となるでしょう。

③賠償責任保険
 貴社では発行したMT B/Lにかかる賠償責任をカバーする物流事業者賠償責任保険(いわゆるMT B/L保険)を契約されているものと思います。しかし、貴社が契約している当該保険が、代理店の発行する貴社MT B/Lに適用されない可能性もあります。従って、事前に保険会社に保険を適用するための手続を確認、実施しておく必要があります。

④マスターB/L上の記載
 MT B/Lを外国の代理店に代理発行させる場合において、船社から発行されるマスターB/L上の荷送人欄に、当該代理店名だけを記載していることがあります。
 輸送途上で事故が発生し、MT B/L上の荷受人が運送人であるNVOCCに損害賠償を求めてきた場合、NVOCCは、実運送人である船社に再求償するのが一般的です。しかし、マスターB/L上の荷送人欄に代理店名のみ書かれていると、貴社と船社との間に運送契約の証拠がなく、船社に対して直接再求償できない可能性があります。
 そのような事態を避けるため、マスターB/L上の荷送人欄に「代理店名 on behalf of(またはas the agent of)貴社名」などと記載するのも一案です。ただし、輸出先での手続上の都合等からそのような記載ができないケースもありますので、上に述べた代理店との契約の中で、損害発生時のクレーム対応についてもしっかり定めておくことをおすすめします。

 なお、本論とは離れますが、危険物輸送の場合、海上輸送の途上で当該危険物を原因とする火災等の事故が発生し、同船に積まれていた他の貨物や船体に損害が生じると、原則としてマスターB/L上の荷送人が損害賠償請求を受けることとなります。そこに貴社名が表示されていると、仮に代理店が危険品の通知を怠った場合でも、貴社がそれらに関する損害賠償請求を受けるリスクが高まります。そういった点も考慮のうえ、マスターB/L上の記載をどうするか検討する必要があります。

第106回 251号 2024年7月
    「国際輸送における海上貨物と航空貨物に適用される法律・条約及び相違点について」

質問:
 日本における国際貨物の輸送方法は海上輸送と航空輸送の二種類だけとなりますが、多様化する荷主のニーズに対応するため、また自社の収益を拡大・安定させるために、国際海上貨物だけでなく国際航空貨物も取り扱われているNVOCCが今では多数となっております。そのような環境の中で、長年海上貨物だけを担当していたベテランのスタッフが初めて航空貨物の部署に配置転換されるケース、またはその逆のケースも多くあることと思われます。同じ国際貨物輸送でありながら、海上と航空とでは適用される法律や条約が異なることから、貨物の取扱い方法があまりに相違するため、配置転換後にとまどう人が多く出ていることと推察いたします。
 今回はそのような方達が、新たな部署での業務に適用される法律や条約の内容について正しい知識を身に付けていただくことを目的として、表題の内容についてまとめましたので、是非ご利用願います。

回答:
1.適用される法律・条約の相違点
 先ず日本発着の国際海上貨物輸送に適用される国内法は国際海上物品運送法(国際海上物品運送法、及び同法がその条項の中で一部適用するとしている商法の条項も含めて、以下「法律」とします)です。これは日本が1992年に批准した、「船荷証券に関するある規則の統一のための国際条約の1979年改正議定書」であるヘーグ・ヴィスビー・ルールを日本で法制化したものになります。
 一方、日本発着の国際航空貨物輸送においては国内法は存在しないため、日本が1992年に署名し2003年に発効した、「国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約」であるモントリオール条約(以下「条約」とします)がそのまま適用されることになります(ただし、ケースとしては少ないが、航空貨物輸送の相手国がモントリオール条約を批准していない場合は、相手国と日本が批准している同一かつ最新の条約が適用されることになる)。
 この二つの「法律」と「条約」の内容がどのように異なるか、それによって実務を行う方達がどのような点に注意すべきなのかを以下に述べて行きたいと思います。

2.「法律」と「条約」の適用範囲に関する相違点

※ここで注意すべき点は、国際海上輸送の場合、運送品の「受取」から「引渡」までの輸送が「法律」の適用範囲となることです。その「受取」と「引渡」とはB/L面上の「船積港」と「荷揚港」間の海上輸送だけではなく、「荷受地」と「荷渡地」、具体的にはCY又はCFS間の輸送もその範囲になると一般的に考えられています。 それに対して、国際航空輸送の場合は、「航空運送中」という条件があるため、「発地空港」から「着地空港」までの航空輸送の部分だけが適用範囲となることです。
3.運送人の責任に関する相違点

※ここで注意すべき点は、国際海上輸送の場合、損害・遅延に関する運送人の責任は「過失責任」となります。 それに対して、国際航空輸送の場合、「損害」に関する運送人の責任は「厳格責任(無過失責任)」であり、「遅延」に関してのみ「過失責任」となっていることです。 貨物損害の場合、国際海上輸送においては、運送人が自身に過失が無かったことを証明できればその責を免れることができるのに対して、国際航空輸送においては、原則として、運送人に過失が無くても航空輸送中に損害が発生したという事実だけでその責めを負わされることになります。
4.運送人の免責事由に関する相違点

※ここで注意すべき点は、国際海上輸送の場合は上記11の免責事由が存在し、それが貨物損害または遅延の原因であったことを証明できれば、運送人はその責めを免れることができます。 それに対して、国際航空輸送の場合は僅か4つの免責事由しかないことです。しかも、対象となるのは貨物損害だけです(遅延損害について免責事由はありません)。 この相違点により、運送人に大きな影響が出たケースがあります。 2018年に関西を襲った台風21号により、海上貨物と航空貨物、共に大きな水濡れ被害を受けました。「法律」には免責事由として「天災」が含まれていますが、「条約」にはそれがありません。海上貨物においては「天災」を理由に多くの運送人はその責を免れることができましたが、航空貨物においては多くの運送人がその責を負う結果となりました。
5.運送人の責任制限に関する相違点

※ここで注意すべき点は、国際海上輸送の場合、貨物損害又は遅延に関する運送人の責任は、関係する貨物の個数にSDR666.67/pkg or unitを乗じて得た金額、若しくは関係する貨物の重量にSDR2/kgを乗じて得た金額のいずれか多い金額を限度としています。 それに対して国際航空輸送の場合、運送人の責任は、関係する貨物の重量にSDR22/kgを乗じて得た金額だけを限度としていることです。 2024年5月末時でのSDR666.67は14万円弱となりますので、個数の多い海上貨物の場合は運送人の責任制限が高くなる可能性があります。
6.苦情の通知期限に関する相違点

※ここで注意すべき点は、荷受人が貨物受領後に貨物損害を発見した場合の苦情の通知期限が、国際海上輸送と国際航空輸送で異なるだけでなく、その期限を過ぎた場合の運送人の賠償責任に大きな違いが生じることです。 国際海上輸送では、運送人が3日の損害通知期間を過ぎて、荷受人から書面による損害通知を受取った場合、運送品が滅失・損傷なく引き渡されたと推定(「一応の証拠」)してクレームを拒絶することは可能ですが、それだけでは運送人は免責されません。もし荷受人が、運送人によって運送品が受取られてから引渡されるまでの間にその滅失・損傷が生じたことを証明できれば、その「一応の証拠」を覆すことができ、その場合運送人は、無過失の事実を証明するか、免責事由に該当することを証明しなければならなりません。 それに対して、国際航空輸送では、条約で「その期間内(貨物損害は14日以内、遅延損害は21日以内)に苦情の申し立てがない場合には」「運送人に対するいかなる訴えも受理されない」と規定されており、苦情の通知期限が過ぎたことによって運送人は一切の責任を免責されるということになります。
7.出訴期限(損害賠償請求権の消滅)に関する相違点

※ここで注意すべき点は、出訴期限が国際海上輸送の場合は「運送品の引渡しがされた日」から1年であるのに対し、国際航空輸送の場合は「到達地への到達の日、航空機が到達すべきであった日又は運送の中止の日」から2年となっていることで、内容が異なるということです。また、国際海上輸送では両者の合意により期限の延長が可能となっているのに対して、国際航空輸送において期限の延長はできません。

第105回 250号 2024年5月
    「共同海損の手続きに参加を拒む荷主」

質問:
 当社は、欧米やアジアの主要国へ海上貨物を引き受ける利用運送事業者で、JIFFA M/T B/LとJIFFA Waybillを使用しています。3ヶ月前に荷主X(機械製造会社)より横浜CFSからロッテルダムCFSまで、商品サンプル1ケースの運送を受託しました。当社は当該貨物を他の荷主3社の貨物と一つのコンテナに梱包して、船社Aに横浜CYからロッテルダムCYまでの運送を委託し船積み後、船社AからWaybill(Master Waybill)の発行を受けました。
 ところが3週間ほど前になって、船社Aより、本船は地中海航海中に火災が発生し航行不能となったので、タグボートで曳航してバルセロナ(スペイン)で修理することとなり、その結果、当事故について共同海損を宣言すると通知してきました。そして船主より選任されたという共同海損精算人(以下、「精算人」)から連絡が入り、船社Aが当社に発行したWaybillの約款に従って各荷主が共同海損の手続きに加わり、必要な書類を提出するよう要請がありました。船社AのWaybillの約款では、共同海損は、JIFFA Waybillと同様、1994ヨークアントワープ規則に従い精算することを確認し、直ちに実荷主4社に、共同海損を宣言したことを伝え、精算人の指示に従って手続きを進めるよう求めました。
 4社のうち3社からは、貨物海上保険を付保した保険会社に対応させると連絡がありましたが、残る荷主Xは、①輸送した貨物に貨物海上保険を付保していなかったこと、②対象貨物の価額が20万円と少額であることを理由に、共同海損の手続きに参加する意思はなく、貨物は運送人である当社で処分して、もし処分費用が掛かったら後日請求するよう連絡してきたのを最後に、当社の連絡に対して返答が得られなくなりました。
 一方、船社Aからは、本船は修繕を終え航海に復帰しており、数日のうちにロッテルダムに到着する予定であると連絡がありました。このままでは、ロッテルダムでコンテナが陸揚げされてもコンテナの引き取りが許されず、他の3社への貨物引き渡しも更に遅延することになるため、対応に苦慮しています。
 担当者の私は、海上運送上のトラブルを担当する現在の部署に異動して来たばかりで、共同海損について理解が十分でなく、実荷主が共同海損への対応を拒んだ場合、どのように対処すべきか分かりません。共同海損の要点と本件の対応についてアドバイスをお願いします。

回答:
 我が国の商法では、「船舶及び積荷等に対する共同の危険を避けるために船舶又は積荷等について処分がされたときは、当該処分(中略)によって生じた損害及び費用は、共同海損とする。」(商法第808条1項)と規定しています。つまり、船舶が危険に遭遇した際に発生した損害(費用)を、事故処理の結果残った(助かった)財産の所有者が負担するものです。
 一般に、共同海損については、貨物の所有者である実荷主が付保する貨物海上保険会社が対応することから(※)、利用運送事業者自身が精算等に関わることは稀です。利用運送事業者の重要な役割は、精算人から来る情報を迅速かつ正確に実荷主に伝えることとされています。しかし、質問の例のように、実荷主が適切に対応しない場合は、運航船社が発行したMaster B/L上の荷主である貴社が積極的に対応すべき場合もあります。以下では、共同海損の仕組みを簡単に説明した後、本件において貴社が取るべき対応について検討します。
(※)貨物海上保険は、保険会社等の間でリスクを相互に分担するために、貨物海上保険契約の内容を国際的に統一しています。保険契約がカバーする内容により、ICC(A), ICC(B), ICC(C)の3つの分類がありますが、そのいずれも、共同海損の分担額及び救助料は、貨物保険による支払いの対象となっています。

1.共同海損とは
 まず、共同海損について説明します。

 英国の海上保険法(Maritime Insurance Act 1906)によれば、『損害』は『全損』と『分損』に分けられ、更に『分損』は『単独海損』と『共同海損』に分けられます。
 船舶及び貨物等を共同の海上危険から救うために支出された費用や損害を、無事に仕向地に到着した船舶及び積荷等の価額(負担価額)に応じて公平に分担する制度が『共同海損』であり、共同海損に該当しない分損が『単独海損』です。
 共同海損の考え方は、ローマ時代に記録の残る非常に古い歴史があります。その後も類似のルールが多くの国や地域ごとに定められ適用されてきました。そして19世紀の後半に、海上運送によるリスクを管理し、海上貿易を更に発展させたいというニーズが高まり、1890年にリバプールで『1890ヨーク・アントワープ規則』が制定されました。同ルールは幾度かの改訂を経て国際的な標準(De Facto Standard)となり、現在では船社や利用運送事業者等ほとんどの運送人が発行する運送書類(船荷証券等)が1994ヨーク・アントワープ規則(以下、『YAR 1994』)を運送約款に摂取しています。
 YAR 1994では、共同海損の成立には、以下の要件が必要としています。
(1)船舶および積荷等に共同の危険があること
 共同海損の成立には、船舶及び積荷にとって「共同の危険」が存在することが要件となります。つまり、船舶は保存されたが積荷は全て失われた場合は、共同海損は成立しません。1点注意すべきは、危険の発生原因は問われないということです。仮に船舶の所有者などの利害関係人の過失によって生じた事故でも共同海損は成立します(YAR 1994 D条)。この場合、損失を分担した他の関係者は共同海損の精算に参加したのちに、その利害関係人に対して損害賠償を起こすことになります。
(2)船長による故意かつ異常の処分があること
 故意の処分とは、船舶または積荷に対して、船長の本来の意思に基づかない行為をすることで、具体的には、座礁した船舶を離礁するために意図的に積荷を投棄するとか、避難のため又は修理のため予定外の港(避難港)に入港するなどが挙げられます。
(3)損害または費用が発生すること
 共同海損の成立には、船長の処分によって犠牲損害(General Average Sacrifice)と費用(General Average Expenditure)の発生が要件となります。波浪によって甲板上に積んだ貨物が流出しただけでは共同海損は成立せず、避難港への入港費用や、曳航費用や救助料の発生を必要とします。
(4)船舶または積荷の保存
 船長の処分の結果、船舶または積荷が保存されることが必要とされています。船舶や財貨の全てが失われては、分担すべき財産がなく、共同海損は成立しません。

 更に、今日のYAR 1994で注意すべきは、それが国際物品運送を規定するヘーグ・ヴィスビー・ルールのように各国に批准され強制力を持つ国際条約ではなく、公益法人である万国海法会(Comite Maritima International = CMI)が改訂等の管理をしていることです。また、同規則は2004年と2016年に改訂が行われていますが、ほとんどの運送人は依然、YAR1994を適用しています。このため、YAR1994を確実に援用するため、B/L等の運送契約には、「『1994ヨーク・アントワープ規則』を適用する」と明記して混乱を防ぐようにしています。

2.YAR 1994による精算
 YAR 1994では、共同海損における具体的な精算の方法を定め、その適用は船主が宣言するとしています。質問の例では、航行不能により船舶を曳航した費用や修繕に要した費用、修理の為に離路した際に消費した燃料費その他が共同海損の精算の対象となり、これらの費用を、修繕後に残った船舶(船舶所有者の財産)、貨物(荷主の財産)、船舶に積み込んでいた燃料油や荷役資材(運航船社の財産)などの所有者が、各々の財産の価値で按分して負担します。
 例えば、以下の条件における関係者の分担は以下の通りとなります。
 ①共同海損費用:2億円
 ②貨物の価額:600億円
 ③船舶の評価額:390億円
 ④燃料油:10億円
 共同海損により発生した費用2億円を、残余(無事に残った)の財産価額の比率(600:390:10)で按分して、各々の分担額を算定します。
 荷主負担額:1億2千万円
       (=2億円×(600億円÷1,000億円))
 船主負担額:7千8百万円
       (=2億円×(390億円÷1,000億円))
 船社負担額:2百万円
       (=2億円×(10億円÷1,000億円))
 なお、上記の荷主負担分は全荷主が負担する額の総額ですから、当然ながら、各荷主は自身の貨物の価額相当分のみを負担します。

3.荷主の参加
 共同海損の精算には早くて数ヶ月、大規模なものなら数年掛かります。一方、船主は貨物を精算結了まで引き留めておくことはできないので、貨物引き渡しの前に、荷主から共同海損分担金を分担することを保証する書面(保証状)の差し入れを求めます。精算人が必ず提出を求める書類は、以下の3点です。
・共同海損盟約書(Average Bond)
・価額申告書(Valuation Form)
・共同海損分担保証状(Average Guarantee)(または、現金差入れ(Cash Deposit))
 更に状況によっては、運送人が実荷主に発行したHouse B/L(Waybill)の写しや貨物のInvoiceの提出等を求められることもあります。また、荷主に委任されて共同海損に対応する貨物海上保険会社は、その他にも船積み書類等を求める場合がありますが割愛します。

4.貴社の採るべき対応
 既に述べた通り、JIFFA MT B/Lの裏面約款では、共同海損が宣言された場合は、荷主は共同海損精算人の求めに従って、共同海損を分担する旨の保証状(L/G)を差し入れるかインボイスに記載された貨物の価額に応じて現金を差し入れることが定められています。従って、貴社は荷主Xに対して約款に従って義務の履行、つまり書類や保証状の差し入れを後日の法定対応も意識して書面で強く求め続けるべきです。
 それでも荷主Xが督促に従わない場合でも、貴社は状況を放置すべきではありません。その理由は、質問にある通り全ての荷主が保証状を差し入れなければ、当該コンテナの引き取りが出来ず、同梱している他の貨物の引き取りが遅延するからです。また、船主との関係では荷送人である貴社は、共同宣言の手続きに加わる義務を負っており、対応しないことで精算人に追加の事務手続きや費用が発生した場合、貴社はそれらの費用等の補償を求められる可能性があることで、想定できないリスクを負うことになります。そのため、貴社が荷主Xに代わって必要な保証等を差し入れることにより、船主に対する貴社の義務を果たすとともに、他の荷主に対して負う貨物の引き渡し義務を履行すること出来、貴社が予期せぬリスクの回避を図ることとなります。
 いずれにしても、荷主Xはヨーク・アントワープ規則の不知を理由に、精算人の指示に従わず更に貨物を放棄することはできません。貴社は、この点を荷主Xに繰り返し説明し、後日荷主Xが必要な保証等の書類を差し入れてきたら、貴社が差し入れた書類と差し替えることを精算人に求め、貴社は共同海損費用の負担を回避することができます。

第104回 249号 2024年3月
    「L/I(補償状)と引き換えにCLEAN B/Lを発行するよう依頼を受けた場合の
    対応について」

質問:
 当社はJIFFA MT B/Lフォームを利用してNVOCC事業を展開しております。このたび当社顧客より、香港向けLCL貨物の輸送業務を受託しました。貨物は顧客手配のトラックで指定のCFSまで輸送されたのですが、貨物引き渡しの際に外装のカートンに水濡れダメージが見つかったとの報告をCFSから受けました。
 顧客にダメージの連絡を行い、このまま出荷するのであればリマーク付きのFOUL B/L(故障付船荷証券)を発行することになると告げたところ、L/C決裁につきFOUL B/Lは銀行に受理されないため、補償状(Letter of Indemnity, L/I)を差し入れるのでリマークは記載せず、CLEAN B/L(無故障船荷証券)を発行するよう依頼を受けました。
 貨物そのものにダメージが及んでいる様には見えず、かつL/Iには、いかなる責任も顧客が負うとの文言が付されているため、依頼に従ってCLEAN B/Lを発行しようと考えておりますが、到着地で貨物ダメージが判明した際に当社に責任が及ばないのか不安に感じています。L/Iと引き換えにCLEAN B/Lを発行することに問題はないでしょうか?

回答:
 結論から申し上げますと、L/Iと引き換えにCLEAN B/Lを発行することには問題があります。以下にその理由をご説明します。

 「荷為替信用状に関する統一規則および慣例」の2007年改訂版(UCP600)第27条において、銀行は無故障運送書類のみを受理すると規定していますので、顧客はこの規定を基に貴社に対してL/Iと引き換えにCLEAN B/Lの発行を要求しているものと思われます。
 同条の英語原文及び参考和訳は下記の通りです。(国際商工会議所日本委員会刊行の「ICC荷為替信用状に関する統一規則および慣例(UCP600)2007年改訂版」から引用)

Article 27 Clean Transport Document
A bank will only accept a clean transport document. A clean transport document is one bearing no clause or notation expressly declaring a defective condition of the goods or their packaging. The word “clean” need not appear on a transport document, even if a credit has a requirement for that transport document to be “clean on board”.

第27条 無故障運送書類
銀行は、無故障運送書類(clean transport document)のみを受理する。無故障運送書類とは、物品または物品の包装の瑕疵ある現況を明示的に宣言した条項または付記(clause or notation expressly declaring a defective condition of the goods or their packaging)を表示していない運送書類を意味する。たとえ信用状が、運送書類は「無故障での積込(clean on board)」であるべきことを要件としている場合であっても、「無故障(clean)」という語が運送書類上に現れる必要は無い。

 そこでまず、CLEAN B/LとFOUL B/Lについてご説明します。

 CLEAN B/Lとは、顧客から受け取った貨物の数量の過不足や外観に異常がなくリマークの記載がないB/Lのことをいいます。対してFOUL B/Lとは、顧客から受け取った貨物の数量や外観に異常が認められた場合に、船会社やNVOCCがその異常(リマーク)があった旨を記載したB/Lのことをいいます。L/C取引では、輸入者が損傷のない貨物を受領するために、上述したUCP600第27条で規定されている通りFOUL B/Lは銀行から買い取りを拒否され、リマークの記載のないClean B/Lが要求されます。

 JIFFA MT B/Lの表面約款の冒頭には、“Received by the Carrier from the Shipper in apparent good order and condition unless otherwise indicated herein”(本運送証券に別段の記載がない限り、外観上良好な状態で荷送人から受け取り)と記載されています。つまり、今回のケースのようにダメージがあるにも関わらずリマークを付さないとCLEAN B/Lとして扱われることになります。

 ご質問にある、運送人への引き渡し時にダメージがあるにもかかわらずそのリマークを付さないで出荷しようしている今回の対応は、以下の観点から運送人である貴社の立場を危うくするとともに、法的にも問題であると言えるでしょう。

①到着地で水濡れに起因すると思われるダメージが発覚した場合、CLEAN B/Lを発行している以上は荷受け時に貨物の異常はなく、ダメージは運送人の輸送責任区間で発生したものと推定されることになります。貨物の損傷が引き受け前に生じていたことを明らかにしておくことは、運送人である貴社の立場を守る上で非常に重要となります。
②貨物引き渡し時に水濡れダメージがあることが運送人の下請けのCFSにより現認されていることから、そのことを有価証券であるB/Lに記載しないことは事実と異なる虚偽の記載となります。また、商法第760条に規定される「不実記載」にもあたり、船荷証券が善意の第三者に譲渡された場合、当該第三者に対しては、記載事項は顧客の指示によるものであるといった反論ができないというリスクを貴社は負うことになります。
商法第760条 「船荷証券の不実記載」
“運送人は、船荷証券の記載が事実と異なることをもって善意の所持人に対抗することができない。”

③貨物引き渡し後、荷受人からクレームノーティスを受領した際に、L/Iと引き換えにCLEAN B/Lを発行したという事実が明らかになると、運送人である貴社は顧客からの依頼とはいえ不実記載に加担したとみなされ、善意の第三者に対する損害賠償の責任を免れることはできないでしょう。また、荷送人より受け取ったL/Iの効力が否定された海外の裁判例もありますので、顧客から受領したL/Iは単なる念書に過ぎないと見做されるリスクがあることを認識しておく必要があります。
 以上の理由により、顧客がサインしたL/Iと引き換えにCLEAN B/Lを発行することはそのリスクを十分勘案し、判断していただく必要があります。原則を離れた取り扱いが必要になる際の対応方法ついてはあらかじめ社内で定めておくとともに、そのような要求をしてくる顧客に対しては、安易に応じることなく直ちに上司に報告するようスタッフの教育指導を徹底することが重要です。具体的には、ダメージの判断基準を明確にしておくこと、貨物の写真を撮るなど証拠の保全、実際にクレームに発展した際にL/I通りに誠実に対応してくれるかといった顧客との関係性も考慮に入れる必要があるでしょう。

 なお、L/Iと似た書類にL/G(Letter of Gurantee)があります。L/IとL/Gの使い分けは必ずしも厳密なものではありませんが、一般的な説明は以下の通りです。

L/I(補償状):損害が発生した場合、それを償うことを約束する正式な書状
L/G(保証状):必ずこれこれをする、又はこれこれであることを約束する正式な書状

 L/I及びL/Gの参考フォームはJIFFA発行「JIFFA運送書類の作成と発行の手引」のP52~P56にありますが、記載内容については、必要に応じ海事に詳しい弁護士等の専門家に事前にご相談ください。

第103回 248号 2024年1月
    「不知文言と不知約款」

質問:
 私は国際複合輸送業者(NVOCC)であるJIFFA会員会社においてフォワーダー業務に従事して1年ほどとなります。当社ではJIFFA MT B/Lを発行しておりますが、私自身は現在に至るまでB/Lの運送約款へ特に注意を向けることなく業務を遂行してきたというのが実情でした。
 しかし、先日荷主からB/Lに記載されている「shipper’s weight, load and count」、「shipper-packed container」という文言にどのような意味があるのか問われ、適切な回答ができませんでした。この文言が「不知文言」と呼ばれるものであることはわかりましたが、何のためにこのような記載をしなければならないのかご教示ください。

回答:
1.責任の範囲
 何のために「不知文言」を付さねばならないのかという点についてお答えするにあたり、まずその前提を確認いたします。

 商法には下記のような規定があります。

商法第760条(船荷証券の不実記載)
運送人は、船荷証券の記載が事実と異なることをもって善意の所持人に対抗することができない。

 これは正当な裏書譲渡を受けたB/Lの所持人であるがB/Lの記載が事実と異なることを知らない善意の第三者を保護するための規定です。この規定により、B/Lを発行した運送人は、貨物の引き渡しを請求してきたB/L所持人たる荷受人に対して、B/Lの記載が実際の貨物の状況とは異なるという趣旨の主張は許されないことになります。
 具体的に以下の事例を考えてみましょう。B/L上の記載としては100カートンとされているが、実際に荷受人が貨物を受け取ろうとしたところ95カートンしか存在しなかったという場合、運送人はB/Lに記載された数量である100カートンを荷受人に対して引き渡す義務を負うことになります。すなわち運送人が該数量差異の5カートン分の損害賠償責任を荷受人に対して負うことになります。
 しかし、実務においてこの規定通りに運用されると、運送人は善意の第三者と争いが起きないように、B/Lに記載されている内容と実際の貨物を一致させておく必要が生じ、酷な状況に陥ります。そのためには、貨物の種類・容積・重量・数量などについて正確に逐一検査しなければなりません。ところが、たとえば固縛されストレッチフィルム等でラッピングされているといった状態で荷主から受け取った個品貨物(例えばパレッタイズされた貨物など)を、見えない内部で不均等な配置により数量差異の恐れがあるとして、固縛・ラッピングを開梱して数量を確かめて再度梱包するというのは現実的ではありません。
 加えて特にシッパーズパックのコンテナの場合は、運送人がバンニングを行わず、荷主が貨物をコンテナに詰めて封印(シール)ないし施錠を行います。よって運送人はコンテナの中身を確認することができず、荷主から受け取った状態のままで運送を行うことになります。これらのような場合のB/L上の貨物の記載は、荷主から受領した情報、具体的にはシッピングインストラクション等を基に記載されます。
 以上のように運送人が実際に貨物を確認することが困難な場合においても、法の規定通りに運用されると、実際に数量が異なっていた場合に運送人は善意の第三者に対抗することができません。つまり、荷主の通知通りにB/Lへ記載したために数量差異等の損害が生じた場合においても、運送人が善意の第三者に対してはその損害賠償責任を負担しなければならないという不合理な帰結になるわけです。

2.不知文言の必要性
 以上の前提を踏まえて、何のために不知文言を付さねばならないのかご説明いたします。まず、JIFFA MT B/L約款の関連部分を確認してみましょう。
 JIFFA MT B/Lの表面には、下記の記載があります。(なお、一般的には“裏面約款”と呼ばれますが、こうした表面の各所に記載の内容も運送約款の一部であることも覚えておきましょう。)


 上図の左端部(矢印の先)に破線で明細部分を指し示しつつ、反時計回り90度回転されて以下の記載が確認できます。

Particulars furnished by Merchant. All descriptions contained herein considered unknown to the Carrier.
【訳文】明細は荷主が提供したものである。ここの全記載事項については、運送人は、不知である。

 次に裏面のJIFFA MT B/L約款第3条第1項も確認してみましょう。

JIFFA MT B/L約款第3条(運送品の明細、譲渡性及び運送品の権利)
第1項
本運送証券は、荷送人が通告した記号、番号、数量、重量及び容積に基づいて発行され、荷送人は、運送人が運送品を受け取ったときに、運送品の中身及び明細が正確かつ適正であることを保証したものとみなす。荷送人は、かかる明細が不正確であること、不適当であること及び/又は不十分であることにより、運送人が被る損失、損害及び費用を補償するものとする。運送人の当該補償請求権は、荷送人以外の者に対し、運送人が本運送証券の下で負う義務及び責任をなんら制限するものではない。

 上記のとおり、明細部分に記載された情報は荷主が提供したものであり、運送人は当該明細部分についての全ての事項を知らず、記載に関する一切の責任は、荷送人が責任を負担することが明記されております。以上をまとめると、本来B/Lへは荷送人の通知に従い種類・容積・重量・数量など実際の貨物の内容を正確に記載することを求められているが、運送人が荷送人の通知の正確性を確認できない場合は、不知文言を記載することでB/L上の記載に対する運送人の責任を荷送人に負担させる仕組みにしています。このような不知文言を記載した定型的取引の契約方式を不知約款と呼びます。

 最後に、JIFFA MT B/L約款の第3条第3項も見てみましょう。

JIFFA MT B/L約款第3条(運送品の明細、譲渡性及び運送品の権利)
第3項
本運送証券は、その表面に「shipper’s weight, load and count」、「shipper-packed container」又は類似の表現等の反対の表示がなされていない限り、運送人が表面記載の運送品を受け取ったことを証明する推定的証拠となる。但し、本運送証券が善意の第三者に譲渡又は移転されたときは、反証は認められないものとする。

 これにより、「shipper’s weight, load and count」、「shipper-packed container」等の不知文言の記載がされていれば、善意の第三者に対抗できることになります。つまり、運送人が貨物の数量、従量、容積などを正確に確認することが困難であり、荷主のシッピングインストラクションを基に記載する場合には特に運送人自身を守るために非常に重要な意味をもつものといえます。よって必ず「shipper’s weight, load and count」、「shipper-packed container」と記載することが必要になるのです。

第102回 247号 2023年11月
    「荷主の外航貨物海上保険」

質問:
 当社はJIFFA MT B/Lを発行しているNVOCCで、荷主より「今回お願いする国際輸送で万が一事故があった場合は御社(当社)で損害を負担してほしい。保険料が物流コストを圧迫しており、当社は外航貨物海上保険を付保しない。」との連絡を受けました。荷主は自身の貨物を補償するための保険に加入すべきと思いますが、荷主にどのように説明をすれば良いかアドバイスをいただけないでしょうか。考え方や対応の仕方について教えてください。

回答:
 運送中の貨物事故により損害が生じた場合、荷主は運送人から補償を受けることを期待すると思います。しかし、JIFFA MT B/L約款の中で、運送人の「責任の範囲」と「責任の限度」が定められているため、荷主は運送人から損害のすべての補償を受けられるとは限りません。 詳細については後述いたしますが、損害の補償を期待する荷主に対しては、運送人の「責任の範囲」及び「責任の限度」という視点で、その全額が補償されない場合があるため、荷主には、後日の紛議を避けるためにも、外航貨物海上保険を付保するように求めて下さい。

1.責任の範囲
 運送人の責任については、JIFFA MT B/L約款第22条で定められています。同条第1項では、運送人が受取時から引渡時までの全期間に生じた損害に関して責任を負う旨を定めています。一方、同条第2項では運送人の免責事由を列挙しています。加えて、port-to-portの海上輸送の場合には、同約款第2条 至上約款の規定により、国際海上物品運送法及びヘーグ・ルール立法で定める免責事由も援用できるようになっています。たとえば、「本船火災(運送人の故意又は過失に基づくものを除く)」は国際海上物品運送法第3条で、運送人が責任を負わない旨が規定されています。
 運送人が引き受けた輸送期間に生じた事故であっても、事故の原因や内容によっては、運送人が免責されている場合があることに注意が必要です。

JIFFA MT B/L約款第22条 運送人の責任
(1) 運送人は、運送のために運送品を受け取ったときから引渡時までの間に生じた運送品の滅失又は損傷について、以下に述べる範囲で責任を負うものとする。
(2) 運送人は、滅失、損傷又は引渡しの遅延が次の事由により生じたものであるときは、滅失又は損傷の責任を免除される。
(a) 荷主の故意又は過失
(b) 指図権者の指示に従ったこと
(c) 運送品の固有の瑕疵又は性質
(d) 包装の不完全又は記号の不十分
(e) 荷主が提供した運送品をまとめるために使用されたコンテナの欠陥
(f) 荷主によるコンテナの取扱、積込、積付又は取出
(g) 戦争、戦争類似の作戦、海賊行為、テロリズム、騒乱、暴動及び理由のいかんを問わず、部分的又は全面的なストライキ又はロックアウト若しくは労働の停止又は制限
(h) 運送人が避けることができない原因又は事件であって、相当な注意を尽くしても、その発生を防ぐことができない結果
(3) 以下略

2.責任の限度
 上記で挙げた免責に該当せず、運送人に責任が生じる事故であったとしても、JIFFA MT B/L約款第23条に定める限度額を超える損害については、運送人は責任を負いません。
 同条第1項では、運送品の送り状価額を損害賠償額の基準となる旨を示し、逸失利益その他の間接損害については賠償の対象とならいことを定めています。たとえば、運送人に責任のある事故が生じ貨物が全損になった場合を考えてみましょう。荷主から貨物自体の損害に加え、産業廃棄物としての廃棄費用や代替品の輸送費用が請求されたとしても、これらは間接損害であり、本項の規定により運送人は責任を負わないこととなります。
 同条第2項では、運送人の損害賠償責任を原則として1包又は単位当たり666.67SDR又は運送品の総重量について1kg当たり2SDRのいずれか高い金額とすることを定めています。こちらも具体的な例で考えてみましょう。10カートンが積みつけられたコンテナについて、運送人の責任下で事故が生じ10カートン全てが全損となったとします。B/L上は、No. of Containers or Pkgsに「10 cartons」、Gross Weightには「1,000kg」と記載がありました。この場合、以下のように2つの計算を行い、高い金額である6,666.7SDR(2023年10月現在のレートで約130万円)が運送人の責任の限度額となります。
・1,000kg × 2SDR = 2,000SDR
・10cartons × 666.67SDR = 6,666.7SDR
 なお、米国輸出入貨物の場合は、JIFFA MT B/L約款第35条 米国地域約款の規定により、運送人の責任限度額が1包又は慣習的な運賃単位につき500米ドルとされています。責任の限度額を検討される際は、米国発着の輸送であるか確認するようにしましょう。

JIFFA MT B/L約款第23条 責任の限度
(1) 運送人が運送品の滅失又は損傷について賠償責任を負う場合には、荷主との合意によりその賠償額は、運送品が荷主に引渡される場所及び時又は引渡されるべき場所及び時における運送品の価格により計算されるものとする。運送品の滅失又は損傷に関する運送人の責任の範囲を定めるに当たり、運送品の正品価格は、荷主の送り状価額に支払い済みの運賃、料金及び保険料を加えたものとみなす。
(2) 運送人は、いかなる場合であっても、その原因のいかんにかかわらず、1包又は1単位当たり666.67計算単位、又は滅失又は損傷した物品の総重量の1kg当たり2計算単位に相当する金額のうち、いずれか高い金額を超える運送品に係る一切の滅失又は損傷について責任を負わないものとする。
(3) 略
(4) 前記第2項にいう計算単位は、国際通貨基金(International Monetary Fund:IMF)の定める特別引出権(Special Drawing Rights:SDR)とする。前記号2項の規定による金額は、訴訟が係属する裁判所の属する国の法令で定める日におけるその国の通貨の価値を基準として、その国の通貨に換算されるものとする。
(5) 略
(6) 略

3.荷主の外航貨物海上保険について
 ここまでで「責任の範囲」及び「責任の限度」という2点において、運送人の責任が限定されている旨ご理解いただけたと思います。それでは、荷主は運送人から賠償を受けられない部分について、どのようにリスク管理したら良いのでしょうか。荷主の補償に対する期待とのギャップを埋める方法の一つが外航貨物海上保険の付保です。「外航貨物海上保険」は、自動車の所有者が所有する自動車の損害を補償するために加入する車両保険のように、荷主が自身の貨物が滅失損傷した際に、物的補償を受けるために加入する保険で、「物保険」や「貨物海上保険」、「貨物保険」などと呼ばれることもあります。
 外航貨物海上保険は、英国保険市場で制定された約款(Institute Cargo Clauses、以下ICC)によりその補償範囲が規定されています。ICCは、日本を始め世界各国で広く利用されている保険約款です。ICCにはA条件からC条件までありますが、コンテナ貨物を輸送する場合は、最も補償範囲の広いA条件で契約することが推奨されます。「1.責任の範囲」で説明した「本船火災」についても、下記表の通り、外航貨物海上保険では補償対象となっています。また、「2.責任の限度」で例に挙げた廃棄費用や代替品の輸送費用などの間接損害については、外航貨物海上保険に特約を付帯することで荷主は補償を受けられる場合があります。加えて、外航貨物海上保険は、InvoiceのCIF価額を基礎に算定した金額が、保険金額として保険金の支払い限度額となります。したがって、運送人の責任の限度額を超える部分についても、保険会社に通知した貨物の価額の範囲であれば、荷主は補償を受けることができます。
 最後に、荷主に対して外航貨物海上保険の付保を促す方法についてまとめます。上述のようにJIFFA MT B/L約款等に記された運送人の責任の範囲や責任の限度について説明を行い、外航貨物海上保険の付保をお願いするのが良いでしょう。一方、輸送を引き受ける際の条件として、見積書の備考欄などに「本輸送をお引き受けする条件として、外航貨物海上保険のご加入をお願いします。」と記載することも効果的でしょう。


第101回 246号 2023年9月
    「航海過失免責と堪航性に関連したクレームへの運送人としての対応」

質問:
 当社は、JIFFA M/T B/Lを利用し輸出入貨物の利用運送事業を営むフォワーダーです。先日顧客より、20’コンテナ10本分のプラスチック材料を神戸CYで受け、ロサンゼルス港を経由して米国内の輸入者の工場まで輸送する一貫輸送作業を請け負いました。
 輸送完了後に輸入者がコンテナを開けたところ、10本中約半数の4本において積載されていた貨物に水に濡れた形跡が認められました。またコンテナ床面から30cmほどの高さまでのコンテナ内壁に水が浸入した形跡があり、濡損のあった貨物以外にも梱包外装が水分を含んでおり、検品の結果、コンテナ4本分が全損であると、顧客よりクレームを受けました。また、その後の顧客の貨物保険の保険会社によるサーベイの結果、その水が海水であることが判明したようです。
 それを受け当社は、船会社にクレームを入れると同時に、原因について報告を求めたところ、船会社からは、水濡れについてはバラスト操作のミスで船倉に海水が流れ込み、船倉に積載していた最下段のコンテナが水没したことに因るものと回答がありました。一方、補償については、船員による航海中の過失を理由に、免責(航海過失免責)を主張してきました。
 これに対し、顧客とその貨物保険会社は本船に何らかの瑕疵があり、堪航性を欠いていたのではないかと考えており、現状、顧客からは貨物保険で処理せず、直接当社へ全額の補償を求める意向を聞いています。
 本件について当社は今後、どのように対応すれば良いでしょうか。法律等を含めて、本件の考え方や対応の仕方について教えてください。

回答:
1.航海過失免責と堪航性について
 質問の中で、航海過失免責と堪航性という二つの言葉が出てきました。運送人としての対応を検討する前に、まずはそれぞれの内容を明確にしていきたいと思います。

(1)航海過失免責について
 国際海上物品運送法上、運送人は運送品の受取、船積、積付、運送、保管、荷揚及び引渡につき、注意を怠り、運送品を滅失又は損傷させた場合、荷主に対し、損害賠償責任を負担することになりますが、その滅失又は損傷が、船長、海員、水先人その他運送人の使用する者の航行若しくは船舶の取扱に関する行為によった場合には、運送人は免責されます。この免責を航海過失免責といいます。以下が関連する国際海上物品運送法上の規定です。

国際海上物品運送法第3条(運送品に関する注意義務)
運送人は、自己又はその使用する者が運送品の受取、船積、積付、運送、保管、荷揚及び引渡につき注意を怠ったことにより生じた運送品の滅失、損傷又は延着について、損害賠償の責を負う。
2 前項の規定は、船長、海員、水先人その他運送人の使用する者の航行若しくは船舶の取扱に関する行為又は船舶における火災(運送人の故意又は過失に基くものを除く。)により生じた損害には、適用しない。

 航海過失免責とは、船舶の航行に関する過失と船舶の取扱いに関する過失の2つが含まれます。
 船舶の航行に関する過失とは、操船ミスによる船舶間や岸壁との衝突、座礁した場合等、操船に関する過失行為であり、運送人は免責されることになります。この免責の趣旨は、航海は運送人が直接関与できない技術的な側面を有していること、船長らの軽過失であってもひとたび海難事故が発生すると賠償額が膨大になることがあること等にあると言われています。
 船舶の取扱に関する行為とは、上記操船に関するものを除いた広く船舶の取扱に関する過失行為です。ただし、積荷のためになされた行為はこれに含まれず、主として船舶のためになされた行為に限定され、運送人は免責されます。

 本件において、コンテナ水没の原因が、船会社が主張するとおり船員によるバラスト操作のミスで、船倉に海水が流れ込んだことがコンテナ水没の原因である場合、船舶のためになされた行為であり、船舶取扱いに関する過失により発生したとの評価が可能であると思います。
 しかしながら、航海過失免責に該当する事実は、運送人が証明責任を負担します。そのため、貴社としては船会社に対し船員によるバラスト操作のミスで、船倉に海水が流れ込んだことを証明する証拠(例えばサーベイレポート等)の提出を求めるべきでしょう。

(2)堪航性について
 受託した貨物を運搬する船舶に関し、通常の海上危険に堪えて、船積みされた物品を安全に運送契約上の目的地まで運送できる能力を堪航能力といいます。国際海上物品運送法第5条は、以下のとおり運送人の発航時に堪航能力を有する船舶を提供する義務(堪航性に関する義務)を規定しています。

国際海上物品運送法第5条(航海に堪える能力に関する注意義務)
運送人は、発航の当時次に掲げる事項を欠いたことにより生じた運送品の滅失、損傷又は延着について、損害賠償の責任を負う。ただし、運送人が自己及びその使用する者がその当時当該事項について注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。
一 船舶を航海に堪える状態に置くこと。
二 船員の乗組み、船舶の艤(ぎ)装及び需品の補給を適切に行うこと。
三 船倉、冷蔵室その他運送品を積み込む場所を運送品の受入れ、運送及び保存に適する状態に置くこと。

 そのため、本船の発航時に本船に瑕疵があり、それが原因でコンテナが水没した場合は、船の不堪航が原因で発生したとの評価が可能です。この運送人の堪航性に関する義務違反により、貨物に損害が発生した場合、航海過失を理由とする免責は認められません。 しかしながら、この堪航性に関する義務違反に基づく損害賠償は、請求者側で不堪航が発航時に存在したこと、不堪航と損害との因果関係を証明しなければなりません。一般的に挙証材料が非常に乏しいため、荷主が因果関係までを証明することは容易ではないのが現状と言えるでしょう。

2.本件への運送人としての対応
(1)船会社に対する対応
 まず、船会社に対する対応ですが、顧客からの損害賠償請求を受けた貴社としては船会社に対し求償をし、交渉をすることとなります。船会社は、航海過失免責(船舶取扱上の過失)を根拠に免責を主張していますが、これに対しては、先に述べたとおり、航海過失免責の立証責任は運送人にあることから、証拠の提示を求め、提示された証拠により、航海過失免責に該当するのかを検証することとなります。他方、証拠が提示されない場合には免責事由を証する証拠がなく証明責任を果たしていないことから、国際海上物品運送法第3条1項に従い、損害賠償に応じるように船会社に要求することになります。
 また、顧客は本船の堪航能力に問題があると主張していますので、顧客から本船の不堪航を基礎づける証拠が提出された場合には、それを船会社に提出し、堪航性に関する義務違反を根拠に損害賠償請求、交渉することになります。

(2)顧客に対する対応
 顧客に対する対応として重要なことは、貴社が顧客に対して運送人である以上、基本的に貴社は、顧客に対して見解や主張を述べる際、船会社の見解や主張と合わせることです。船会社から航海過失免責事由を証する証拠が提出された場合には、その証拠を精査の上、貴社がその見解を覆すことが出来る反論材料が無ければ、顧客に対して船会社と同じ航海過失免責の主張を行うことになります。
 他方、顧客の本船に何らかの瑕疵があり、堪航性を欠いていたのではないかという主張に対しては、先に述べたとおり、証拠に裏付けられることが必要です。顧客に証拠の提示を求める必要があります。

(3)まとめ
 本件のようなケースの場合、事故原因及びそれを証明する証拠の有無により運送人が責任を負担するか否かが判断されることとなります。貴社は顧客及び船会社の異なる主張に挟まれており、難しい立場に立っていますが、基本的には他方の主張を他方に提示し、調整を図っていくことが必要になります。両当事者から提示された証拠関係を適切に評価し、必要な判断と交渉を行うという難しい舵取りが求められる事案となりますので、貴社が契約されている顧問弁護士、貴社が賠償責任を付保している保険会社、海事弁護士の意見を聞きながら、慎重に対応されることをお勧めします。

第100回 245号 2023年7月
    「FCRを発行した貨物をサプライヤーへ返還することの可否とリスク」

質問:
 当社は、日本において輸出入貨物の引取り・引渡し、保管、梱包、船積み手配等を行うフォワーダーで、JIFFAが制定したJIFFA FCR(2020年版)(Forwarder’s Cargo Receipt)を使用しています。
 先般、当社のドイツ代理店X社は、顧客A社(在ドイツ)から日本発シンガポール向け三国間輸送を受託し、当社に対して日本での貨物の受取りと保管並びに船積み手配業務を委託してきました。
 A社は、サプライヤーB社(在日本)並びに荷受人C社(在シンガポール)と各々売買契約を締結しており、貨物は当社指定保税上屋にてFCA(Free Carrier:運送人渡し)条件で引き渡されたのち、直接シンガポールに向け船積みされます。なお、X社は船積み完了後、A社に自社HB/Lを発行する為、当社はX社からの指示を受けて、貨物受領時にその証としてJIFFA FCRをB社に発行しました。

 本件の大まかな業務フローは次のとおりとなります(併せて下図を参照ください)。
①A社は、当社保税上屋を指定納入先としてB社に指示
②B社は、指示通りに貨物を当社上屋に貨物納入
③当社は、納品時に個数、マーク、梱包の外観などを確認し、異常なければ、B社にFCRを発行
④B社は、納品完了のエビデンスとしてFCRをA社に提示、併せて代金を請求
⑤A社は、入庫情報を確認の上でX社に船積み指示
⑥X社は、A社からの指示を受けて、当社に船積み指示
⑦当社手配でシンガポール向け船積み実施
⑧当社は、出荷および確定船積情報をX社に連絡
⑨確定船積み情報に基づき、X社は、A社にHB/Lを発行
⑩A社は、荷受人C社にHB/L原本を送付

 しかし、FCR発行の2週間後、船社に貨物を搬入する前に、B社は、A社の過去の商品代金の一部が長期未払いとなっていることを理由に、当社に対して貨物の運送を中止して返還するよう求めてきました。当社は、代理店X社によるHB/L発行前であることから、サプライヤーB社の要請に従って、貨物を返却しても問題はないでしょうか。


回答:
 結論を申し上げると、貴社はB社の返却の指示に従うべきではありません。以下に、貴社の役割と貴社が発行したFCRの記載事項に沿って説明します。

(1)貴社は、顧客A社から三国間輸送を受託した代理店X社の指示により、日本(東京)において貨物を受領し、東京港からシンガポール向けに船積みを進めるというサービスを提供します。
(2)サプライヤーB社との関係では、貴社は、A社からの指示を受けたB社から貨物の引渡しを受けたものの、B社との間には直接・間接を問わず取り決め(契約や見積など)は存在せず、また何らサービスの提供も行っていません。
(3)貴社は、貨物を受領した際にB社に対してFCRを発行していますが、FCRは、単に貨物を正常な状態で受け取った証(貨物受領書)であり、貨物の引換証や権利移転を証するものではありません。
(4)貴社が貨物を受領した時点以降は、貨物はA社の管理下に入り、貴社はA社の意向に従った代理店X社からの指示によってのみ、貨物を処分することができます。

 従って、貴社は、FCRを発行しているとしても、B社の要求に直接応える立場にはなく、貨物の処分は、あくまでもA社の意向に従った代理店X社からの指示に従って対応すべきです。

 また、貴社は、A社とB社のいずれが貨物の所有権者か知ることができません。そこで、貴社はX社に対して、B社より上記依頼を受け取った旨を連絡し、B社の指示に従うことの可否を問い合わせます。同時に、B社に対しては、貨物をB社に返却するようA社から代理店X社を通して貴社に指示するよう求めて下さい。A社の確認を待たずに貨物を返却することは、ここまでフォワーディング業務が進行していることから、貴社はA社から債務不履行を問われる可能性もあり適切ではありません。
 なお、両者への連絡に際しては、次に掲げるJIFFA FCR 表面約款に基づいて、その主旨を説明すると良いと思います。

JIFFA FCR表面約款(参考訳、下線は参考のため筆者が付記)
本FCR上に別段の記載が無い限り、本FCRに記載の物品を、外見上良好な状態で、当社の顧客の指示に従ってフォワーデイング業務を行うために、取り消し不能な指図の下で受け取った。フォワーデイング業務の指示を取り消し又は変更できるのは、当社の顧客のみであり、しかもFCR原本が当社に戻され、かつ当社がそのような取り消しや変更に応じることができる場合に限定される。物品を受取る際、フォワーダーは、顧客の代理人として行為するものであり、運送人としての責任は一切負わない。(以下省略)

 ここでFCRという書類の性質について念のため確認しておきましょう。JIFFA FCRは記入事項や記入場所などの様式がB/LやWAYBILLと非常に似通っています。JIFFA以外でも多くの会社や団体がFCRを作成、発行していると思いますが、こうした他のFCRも同様の様式を採用する傾向にあります。
 このためFCRをB/LやWAYBILLと同等あるいは似た性質の書類と誤解される方も多いと思いますが、両者は大きく異なります。
 B/LやWAYBILLは「運送書類」と総称され、国際運送に使用される書類として広く認識されています。B/Lは法律(日本の場合は国際海上物品運送法や商法)や国際条約(ヘーグヴィズビールールなど)で規定されています。またWAYBILLはB/L同様に法律はあるものの、国際条約がありませんが、国際ルールとして「海上運送状に関するCMI統一規則」が制定されています。
 これに対しFCRは、B/Lのように国際条約等の裏付けのある運送書類ではなく、共通した定義がありません。このためフォワーディング業務についてトラブルが起きた際、FCRの規定並びにその扱いについて紛議が起きるリスクがあります。JIFFAでは、このようなリスクを低減するために、FCRを交付する相手(本件ではサプライヤーであるB社)にFCRの内容を説明し、確認書を取り付けておくことを推奨しています。また、万全を期すなら、署名された確認書を代理店X経由でA社にも送付しておくと良いでしょう。詳しくは、JIFFAが刊行している「やさしいJIFFA FCRの手引(2020)」P18に、確認書のひな型と共に説明しているので参照して下さい。

第99回 244号 2023年5月
    「標準取引条件の活用について」

質問:
 当社は主として輸出入フォワーディング業務を営む物流業者です。当社の営業部門では、日々、顧客からの依頼により、料金の見積書を作成、提出しています。
 見積書においては、対象貨物、業務範囲および料金を記載するとともに、見積条件として、当社の責任範囲や支払条件などの取引条件を列記しています。しかしながら、見積条件の内容については、部課によって、あるいは担当者によってばらつきがあります。このため、顧客からその不統一性を指摘されることがあるほか、当社としては、個々の見積書に記載された見積条件の内容に漏れがないか、内容が適切かどうかを把握できておりません。
 このような問題を解決する手段の一つが「標準取引条件」の利用であると聞きましたが、具体的にどのように活用していけばよいのか、アドバイスをお願いします。

回答:
 現代のフレイトフォワーダーの業務は利用運送に留まらず、保管や物流加工、通関など多岐にわたっているのが通例です。業務を引き受ける際には、業務範囲や責任限度などの取引条件を適正に定める必要がありますが、こうした多岐にわたる業務の取引条件を的確に契約書や見積書に反映させることは、貴社がご不安に思われている通りそう簡単なことではありません。また、フォワーディング業務の現場では詳細な条件を記載した契約書の作成を待たず、見積りベースで業務が進行することも珍しいことではないでしょう。迅速な対応を行うためやむを得ない一面もありますが、契約書作成に比べると取引条件の確認がおろそかになる面も否定できません。
 こうした状況に対し、フレイトフォワーダーとその顧客の業務遂行上の関係を明らかにし、フレイトフォワーダーが顧客より受託する業務の受託条件の明確化と安定化を目指して作成されたのがJIFFA制定の「標準取引条件(2020)」です。

 フォワーダーの業務の中でも運送書類(MT B/LやWAYBILL)を発行する海上運送や複合一貫輸送であれば、必ず約款(B/L裏面約款)が存在します。多くの会員企業にご利用いただいているJIFFA国際複合一貫輸送約款(JIFFA MT B/L約款)は、関連する日本法や国際条約等に準拠し、かつフォワーダー業務が適正に遂行されるよう制定されています。JIFFA MT B/L裏面約款の適用を見積書に明記することで、取引条件も明確にすることが出来ます。一方、海上運送や複合一貫輸送以外の業務ではB/L裏面約款に相当するものは存在しません。業務によっては標準約款が存在するケースもありますが、多くは国内向けであり国際輸送に適した内容であるとは限りません。
 「標準取引条件」の活用により広い範囲においてフォワーダーの業務をカバーし、受託条件を明確にすることが出来ます。

 同条件は、その序文に「当条件は、『当社』(注:フレイトフォワーダー)とその『顧客』(注:荷主等)との間の業務上の関係を明らかにするために定められたものである」と記載されている通り、フレイトフォワーダーと顧客との間の国際運送取扱いに関する権利義務関係を規定したものです。同条件の第2条(1)には、その適用範囲に関し、「当条件は、『サービス』が無償の場合でもそうでない場合でも、『物品』の国際輸送のため、及び『物品』の国際輸送に関連して、当社がフレイトフォワーダーとして提供するあらゆる『サービス』に適用されるものとする。」と記載されています。

 一方、同条件の第2条(2)には、「前項(1)にかかわらず、『物品』に関して、運送人としての『当社』の名義で『運送書類』が発行される場合は、当条件ではなく、その『運送書類』の規定(注:JIFFA MT B/L約款等)が当該『物品』の運送に適用されるものとする。」とあり、『運送書類』が発行された海上運送や複合一貫輸送においては、「標準取引条件」の規定ではなく、同運送書類の裏面約款が適用されることはご留意ください。

 それでは、実際の見積書において、標準取引条件について、どのように記載すればよいでしょうか。JIFFA発行の『標準取引条件(2020)解説書』の「『標準取引条件(2020)』の使い方」のなかに、下記の例があります。

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(例)
 本見積に定めのない条件については、一般社団法人 国際フレイトフォワーダーズ協会が策定した「標準取引条件(2020)」によるものとします。見積後ご下命をいただき契約を交わす場合も、同様とします。標準取引条件(2020)の全文は、一般社団法人 国際フレイトフォワーダーズ協会のホームページに掲載されており、URLは以下の通りです。
https://www.jiffa.or.jp/documents/standard.html
--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

 すなわち、見積条件として、いくつかの特記事項を記載したのち、最後に上記の例を記載することにより、当該見積によるオファーに標準取引条件が適用されることを示すことができます。
 では、見積条件の記載において、上記の例に先だって記載すべき特記事項には、どのようなものがあるでしょうか。標準取引条件はその名の通り「標準」的な条件のみを定めていますので、個別の業務に対応する条件などは、都度記載する必要があります。
 たとえば下記のようなものが該当します。

1.標準取引条件に記載されていない特殊な条件。
(危険品など特殊貨物取扱や、求償権放棄特約の場合など)
2.標準取引条件に記載されていない一般的条件(料金の支払期日、見積の有効期限など)。
3.標準取引条件に記載されているが、重要な事項や明確化のため、特記した方がよいもの(貴社の責任範囲など)。

 このうち、1などはケースバイケースで決めることが多くなりますが、2や3などについては、あらかじめ社内で話し合い、項目など出来るだけ統一のものを決めておくとよいでしょう。(例えば、支払期日については、荷主の信用状況に応じ決めるなど)。

 なお、見積書を荷主に提出にあたり、その見積において標準取引条件やJIFFA MT B/L約款が適用される場合は、標準取引条件やJIFFA MT B/L約款の写しを同時に提出するのが理想です。しかしながら、実務上それが困難な場合は、少なくとも、荷主が標準取引条件やJIFFA MT B/L約款に容易にアクセスできる状態にあることが必要で、上記の例のごとく、URLを記載するのがよいでしょう。

 なお、スペースの都合上、「標準取引条件(2020)」の細かな内容の紹介はここでは省略いたします。JIFFA刊行の「標準取引条件(2020)解説書」には、全文(英語)と邦文参考訳および解説を掲載していますので、参考にしてください。

第98回 243号 2023年3月
    「航空運送状と海上運送書類の相違について」

質問:
 私は国際航空と外航海運の貨物利用運送事業を営んでいる国際物流会社に入社以来5年間、航空輸出のCS業務に携わって来ましたが、今般社内のジョブローテーションにより、新たに海上輸出のCS業務を担当することになりました。この5年間の経験で航空運送に関わる書類作成や貨物の輸送手配等の業務には精通できたと自負しておりますが、海上輸送の業務についての知識は全く皆無です。当社はJIFFAの会員として、JIFFAの運送書類である国際複合運送証券(JIFFA MT B/L)と海上運送状(JIFFA WAYBILL)を使用しておりますが、今まで私が接して来た航空運送状とは運送書類としての取扱いが大きく異なるので、その点をまず念頭に入れて業務を覚えて行くように、と新たに配属された部署の上司から忠告されました。
 つきましては、新たな部署での業務開始に当たって、航空運送状と海上運送書類では取扱いがどのように異なるのか、またその理由について簡潔にご教示いただけると助かります。

回答:
 今般新たに航空輸出のCS業務から海上輸出のCS業務へご担当が変わるということですが、同じ輸出に関する業務であっても航空と海上では業務内容、手続き方法が著しく異なります。その要因の一つとして、各々の輸送モードの歴史的な特性から両運送書類の性質が大きく異なることが挙げられます。それでは両運送書類の取扱方法がどのように相違しているのかをできるだけ簡潔にご説明いたします。
 航空運送という輸送モードは20世紀に入ってからの比較的新しい時代に登場したもので、その飛行機という特性から貨物の輸送スピードが重視されております。航空運送書類としては、その輸送モードに適したより簡易な運送書類として航空運送状というものだけが使用されていることはご存じの通りです。
 一方、海上運送においては大変古い歴史があるため、その歴史的な背景が現在の海上運送書類の性質と取扱い方法に色濃く反映されております。現在使用されている海上運送書類は、船荷証券、複合運送証券、海上運送状の3種類になります。
 海上運送はもともと港から港だけの運送を対象として、流通性のある有価証券としての船荷証券が使用されていましたが、1960年代後半から始まるコンテナ化により、国際輸送においては従来の港間の輸送の前後に他の輸送手段を組み合わせた複合輸送が発展することとなり、新たに複合運送証券が使用されるようになりました。
 その後、コンテナ化による港湾での荷役時間の短縮とコンテナ船の高速化に伴って港間の輸送日数が大幅に短縮されたことにより、近海航路においては貨物が到着し陸揚げされた後も、船荷証券及び複合運送証券が荷受人に届かず、貨物がコンテナヤードに滞留する事態となりました。これを「船荷証券の危機」と呼んでおりますが、この問題を解決する手段として、今日では航空運送状と同様の性質を持つ海上運送状が広く使用されるようになりました。
 それでは、海上運送書類としての海上運送証券(船荷証券と複合運送証券を併せて以後「海上運送証券」と便宜上呼びます)と海上運送状、そして航空運送書類としての航空運送状の3種類の運送書類について、各々の特性と取扱い方法による相違点について確認して行きたいと思います。

 この表は各運送書類の相違点をまとめたものです。
 表の上段(AからC)は主に運送書類の特性から見た相違点により、運送書類を海上運送証券のグループと海上運送状、航空運送状のグループに区分けしたものです。
 表の下段(DからH)は主に運送書類の取扱い方法から見た相違点により、運送書類を海上運送証券、海上運送状のグループと航空運送状のグループに区分けしたものです。

 それでは表の上段、AからCについて説明します。

A 流通性
 航空運送状と海上運送状は有価証券ではありませんので、流通性がなく、運送状に裏書署名して運送途上の貨物を転売・譲渡することはできません。ただ、両運送状であっても貨物が荷渡地に到着するまでの間は、荷送人の意思で荷受人の変更は可能になっております。
 一方、海上運送証券は流通性のある有価証券なので、運送証券に裏書署名することにより、貨物を運送途上で自由に何度でも転売・譲渡することができます。
 ただし、もしその有価証券である運送証券が紛失した場合、航空運送状や海上運送状のように再発行が簡単にできませんので、新たな部署において発行後の運送証券の取り扱いについては充分な注意が必要です。

B 貨物引換証
 航空運送状と海上運送状は有価証券ではないため、運送状に記載された荷受人は、運送状に記載された荷受人であることを条件に、運送状の原本を呈示し引き換えることなくして、貨物を受け取ることができます(※1 JIFFA WAYBILL約款「受取確認約款」及び※2 標準国際利用航空運送約款「第30条」を参照)。一方、海上運送証券は引渡請求権を有する有価証券でもありますから貨物の引換証となり、その運送証券の原本と引き換えでなければ運送人は荷受人(もしくは権利譲受者)に貨物を引き渡せません(※3 JIFFA MT B/L「受取確認約款」を参照)。もし原本が複数通発行されていても貨物の引換証としてその全ての原本を回収する必要はなく、1通だけ回収されれば、その他の原本の引渡し請求権は消滅することになります(※4 商法第765条第1項、※5 商法第766条を参照)。ただ、貴社が使用されているJIFFA MT B/Lでは、もし運送証券に原本の発行通数が記載されていないと、他の原本の引渡し請求権が継続すると解釈されておりますので(※6 JIFFA MT B/L「署名約款」を参照)、新たな部署で運送証券を発行する際には、必ず発行した原本の通数を記載する必要があるということに注意が必要です。

C 荷受人記載方法
 「記名式」とは荷受人欄に特定の荷受人の社名(氏名)と住所を記載する方法で、流通性を有しない両運送状の荷受人欄記載方法はこの「記名式」だけとなります。「指図式」とは荷送人の指定する者を荷受人とする方法で、荷受人欄に“TO ORDER”又は“TO ORDER OF SHIPPER”などと記載します。Aで説明したように、海上運送証券は流通性がある有価証券なので、裏書署名を行うことで貨物を運送途上で転売することが可能なため、「記名式」だけでなく、このように荷受人を特定しない方式も取ることができるようになっています(※1 JIFFA WAYBILL約款「受取確認約款」、※2 標準国際利用航空運送約款第30条及び※3 JIFFA MT B/L「受取確認約款」を参照)ので、この点についても注意が必要です。

 次に表の下段DからHについて説明します。

D 発行時期
 航空運送状では発行時期に関する明確な規定がありませんが、一般的には荷送人より受け取った日付けで発行する「受取式」と言われております。ただ、航空輸送はスピードが最優先される輸送モードであることから、一刻を争う緊急貨物の発送に柔軟に対応できるように、荷送人より出荷指示書を入手し貨物の明細が確認できれば、いつでも航空運送状を発行することができます。一方、海上運送書類においては貨物の船積が確認された時点で発行される「船積式」と、船積予定貨物を受け取ったことが確認された時点で発行する「受取式」の何れかに明確に分かれます。海上運送書類はいずれかの様式になっており、「船積式」は運送書類の表面に“Shipped on board the goods ~”といった書き出しで印刷され、一方「受取式」は運送書類の表面に“Received the goods ~”といった書き出しで印刷されています。ちなみにJIFFAの国際複合運送証券と海上運送状は「受取式」の様式となっております(※7 JIFFA MT B/L & WAYBILL約款「受取確認約款」原文を参照)が、「受取式」の運送書類しか発行できないということはなく、「積込済みの付記(Laden on Board the Vessel)」を記載することで「船積式」で発行、もしくは「受取式」で発行した運送書類を「船積式」に変更することも可能となっております。新たな部署で海上運送証券や海上運送状を発行する際には、その発行日が「船積式」なのか「受取式」なのか、日付は間違いないのかを必ず確認する必要があります。

E 運送書類の動き
 航空運送においては、貨物の航空運送に要する時間が極端に短いことにより、荷送人用とは別に、荷受人用の航空運送状がインボイス等の通関関連書類と共に、貨物と同じフライトで荷受人へ託送されております。一方、海上運送においてはもともと運送書類が船荷証券であったことから、貨物の輸送と運送書類の移動とは異なった動きになっています。しかしながら近年の航空運送においては、航空運送状の電子化が進んでいることから、荷受人用の航空運送状はフライトで託送せず、電子的方法で仕向地に送信されるケースが増えているようです。

F 発行者
 こちらは航空会社の航空運送状と船会社の運送証券・海上運送状の発行についてですが、航空運送においては、多くの航空会社が会員となっているIATA(国際航空運送協会)の代理店である航空フォワーダーが航空会社の航空運送状を発行していることから、航空会社から航空フォワーダーへの運送状の受け渡しはありません。これは航空運送の特性であるスピード優先というものが背景にあるからと思われます。一方で船会社の運送証券・海上運送状については船会社又はその代理店が発行していることから、船会社もしくはその代理店からNVOCCへの運送証券・海上運送状の受け渡しが必要となります。

G 書類の様式
 航空運送においては、航空会社だけでなく多くの航空フォワーダーもニュートラルAWB(IATAが普及させた航空運送状の共通様式)を使用しています。一方で海上運送書類においては、上述しましたように、運送証券の存在や歴史的な背景から各社が独自の運送約款を備えており、その約款を表面と裏面に記した独自の運送書類を有しております。

H 運賃精算方法
 表の内容の通りになりますが、航空会社とフォワーダーとの運賃精算については、IATA加盟の航空会社とはIATAのCASSシステムを使用して精算しておりますが、海上運送においては個々に船会社との精算を行わなければなりません。

 以上、代表的な8つの相違事項について説明しましたが、それ以外にも運送書類の体裁等、相違する事項はまだ多くあります。先ずはこの代表的な相違点を頭に入れていただき、それ以外の相違点については今後業務を行いながら新たな知識として身につけるようにしてください。



脚注 JIFFA国際複合一貫輸送約款とJIFFA WAYBILL約款の和文は参考訳です。(原文は英語)
   脚注内の下線は原文にはありません。

※1 JIFFA WAYBILL約款「受取確認約款」
 この運送状記載の貨物を内容とされる運送品、コンテナ、又は包は、本状に別段の記載がない限り、外観上良好な状態で荷送人から運送人により受け取られ、本状の表面及び裏面の全ての条件に従い、本状記載の本船又は運送人の選択する代船及び/又はその他の運送手段により本状記載の受取地又は船積港から荷揚港又は引渡地まで運送され、そこで運送人の要求する本人を証明する書類の提示に基いて、本状記載の荷受人又はその正当な代理人に引き渡される

※2 標準国際利用航空運送約款第30 条第1項「荷受人に対する貨物の引渡し」
 運送人は、航空運送状に特に記載されている場合を除き、航空運送状に記載された荷受人に貨物を引き渡すものとする。

※3 JIFFA 国際複合一貫輸送約款「受取確認約款」
 運送人は、本運送証券記載の運送品又は本運送証券記載の運送品を内容とするコンテナ、若しくは包を、本運送証券に別段の記載がない限り、外観上良好な状態で荷送人から受け取り、本運送証券の表面及び裏面に規定する全ての条項に従い、本運送証券記載の本船又は運送人の選択する代船及び/又は他の運送手段により、本運送証券記載の受取地又は船積港から、荷揚港又は引渡地まで運送し、そこで本運送証券の指図人又は譲受人に引き渡すものとする。
 正当に裏書された本運送証券と引き替えに、運送品又は荷渡指図書を引き渡すものとする。

※4 商法第765条第1項「数通の船荷証券を作成した場合における運送品の引渡し」
   陸揚港においては、運送人は、数通の船荷証券のうち一通の所持人が運送品の引渡しを請求したときであっても、その引渡しを拒むことができない

※5 商法第766条
 二人以上の船荷証券の所持人がある場合において、その一人が他の所持人より先に運送人から運送品の引渡しを受けたときは、当該他の所持人の船荷証券は、その効力を失う

※6 JIFFA国際複合一貫輸送約款 「署名約款」(証券表面の右下、署名欄上部に記載されているものです)
 上記の証拠として、下記の署名者は、同一の文言及び日付の本運送証券記載の通数に署名し、このうち一通が回収されたときは、その他は無効とする

※7 JIFFA 国際複合一貫輸送約款 及び WAYBILL約款「受取確認約款」
 Received by the Carrier from the Shipper in apparent good order and condition unless otherwise indicated herein, the Goods,・・・(以下略)

第97回 242号 2023年1月
    「カーゴクレームと立証責任について」

質問:
 当社はJIFFA MT B/Lを利用して、輸出貨物の利用運送事業を営むフォワーダーです。私は、輸出貨物の営業を3ヶ月前から担当しています。
 半年前、商社Aより、工作機械の運送を神戸CYからシカゴCYまで引き受け、当社は、船社Bに運送するよう依頼し、予定通りConsignee Cに貨物を引き渡しました。シカゴCYでコンテナを引渡した際に、CYと引き取りに来たドライバーが交わしたEIR(※)には、コンテナの外観にBulge(内側からの膨らみ)やDent(へこみ)等のRemarkはありませんでした。  (※)Equipment Interchange Report:機器受渡証。コンテナをCYに搬入、又はCYから陸送会社に引き渡す等の際に、コンテナの外観の状態を確認する受渡証。  貨物引き渡しの3日後、商社A経由で、Consignee CのClaim Noticeが届きました。それによれば、仕向地のConsigneeの倉庫でコンテナのドアを開けたところ、貨物が全体に前方に押し出されたように移動しており、積み付けの際確保していた貨物とコンテナドアパネルとの空間がなくなり、貨物が押し潰されて大きなダメージが発生したとのことです。当社は直ぐに船社Bに事故の発生を通知しましたが、その後船社からもConsigneeからも連絡は無く、数ヶ月が経過しました。
 すると先週になって、商社Aが当該貨物に付保していた外航貨物保険の保険者である損害保険会社D(以下、「クレーマント」と言います)から、商社Aに保険金を支払ったことで代位求償権を得たので、それに基づき当社に2万ドル支払うよう求めると書面で通知してきました。
 私は、現在の担当となってから日が浅く、代位求償権を持つ保険会社から請求を受けるのは初めてで、どのように対処したらよいかわかりません。アドバイスをお願いします。

回答:
 本件では、クレーマントから貴社に提起された請求に関して、カーゴクレームに関する立証責任を意識して検討することが必要です。

1.クレーマントの立証責任
 JIFFA MT B/Lでは、運送中の責任について次の通り規定しています。

【JIFFA MT B/L 裏面約款第22条第1項】
運送人は、運送のために運送品を受け取ったときから引渡時までの間に生じた運送品の滅失又は損傷について、以下に述べる範囲で責任を負うものとする。

 すなわち、クレーマントが運送人に貨物損害の賠償を求めるには、運送人が貨物を受け取ってから引き渡すまでの間に貨物損害が発生したことを証明する必要があります。
 これを本件に当てはめると、運送人が貨物を神戸CYで引き受けていることから、クレーマントは、当該ダメージが、積地CYから着地CYまでに発生した事故であることを立証しなければなりません。具体的には、クレーマントによって、運送人が神戸CYにおいて貨物受領時に貨物の損傷がなかったこと、及びシカゴCYでの引渡し時に貨物の損傷があったことの証明がない限り、運送人は本件貨物損害に関し、責任を負担しません。そのため、まずこの点に関し、証拠により証明がなされているかをしっかり検討して下さい。

 本件は、当該事故が、貨物のバンニングの場所からCY搬入まで、若しくはシカゴCYからConsigneeが貨物をコンテナから取り出すまでに起きた可能性を否定できません。特に、損傷の様子から、この事故は、貨物に前方向の加速度が加わり、貨物が前方に移動して発生したと推察されます。この点、積地CYでのコンテナ受け取り時の記録にRemarkがなかったとしても、一般に、陸送中の急停止により貨物がコンテナ内で移動することは稀ではなく、その移動により貨物にダメージが発生しても、コンテナにはダメージを与えるほどではないこともあり得ます。そのため、積地CYのEIRにRemarkが無かったとしても、積地CYまでの陸送、若しくは着地CYからConsigneeがコンテナの扉を開けるまでの輸送に問題はなかったと断言することはできません。従って、貴社としては、クレーマントが積地CYまでの陸送中、若しくは着地CYからConsigneeがコンテナの開扉をするまでの間に事故が発生していなかったことを証明しない限り、運送人が貨物を受け取ってから引き渡すまでの間に貨物損害が発生したことが証明されておらず、責任を負わないと主張することがクレームに対する返答の骨子となります。

2.運送人の免責事由
 仮にクレーマントが、積地CYから着地CYまでに発生した事故であることを証明できた場合には、運送人は責任を免れるために、JIFFA運送約款上の免責事由を主張、立証する必要があります。以下に本件と関連する規定を確認します。最初に次の条文を確認します。

【JIFFA MT B/L 裏面約款第22条第2項】
運送人は、滅失、損傷又は引渡しの遅延が次の事由により生じたものであるときは、滅失又は損傷の責任を免除される。
(a)~(e)省略
(f)荷主によるコンテナの取扱、積込、積付又は取出
(g)省略
(h)運送人が避けることができない原因又は事件であって、相当な注意を尽くしても、その発生を防ぐことができない結果。

 FCLコンテナの輸送では、荷主がコンテナに貨物を詰め込みます。よって、仕向地でコンテナを開扉した時の状況から、バンニングが不適切だったために貨物が動いたことが本件事故の原因と考え、上記のJIFFA MT B/L 裏面約款第22条第2項(f)により、運送人は免責されると主張することをアプローチの基本的方針としてよいでしょう。
 例えば、貴社は、貨物が動いたことによる貨物の損傷と考えることから、具体的な積み付けの方法やバンニング時の写真の開示をクレーマントに求め、鑑定機関を使用してコンテナの積み付け方法が通常の輸送に堪えられない不適切なものであったことの証明を検討する必要があります。また、コンテナの外観に歪みや出っ張り等の異常がなく、海上輸送中に荒天に遭遇していない場合には、海上輸送中に貨物損害を発生するような事情がなく、積み付け方法が適切でなかったことを示す一つの事実となり得ます。
 このような説明を尽くして、運送人はクレーマントに対して免責を主張、立証します。

 また、海上輸送中に本船が荒天に遭遇し、通常では経験しない時化に遭ったため、本船が激しく揺れたことを示す気象情報を入手して示すことができれば、本件は、前掲のJIFFA MT B/L 裏面約款第22条第2項(h)に該当し、運送人が当該事故について免責とされることもあり得ます。

 上記免責事由に加え、本件は、荷主により中身が詰められたコンテナであり、JIFFA MT B/L 裏面約款第28条は、「荷主の詰めたコンテナにおいては、運送人は中身の滅失又は損傷について責任を負わない」と規定しています。同条を引用して、責任を負担しないと主張することも考えられます。

【JIFFA MT B/L 裏面約款第28条】
(1)コンテナが運送人により詰められたものでないときは、本運送証券は、コンテナのみの受領証に過ぎず、かつ、運送人は、中身に係る滅失又は損傷について責任を負わず、かつ、荷主は、次の原因による運送人が被った滅失、損傷、責任又は費用を運送人に補償しなければならない。
(a)コンテナ詰めの方法
(b)中身がコンテナ運送に不適当な物品であること、又は
(c)荷主がコンテナ詰めのときに又は事前に相当な検査を行ったのであれば発見できたコンテナの不適合性又は欠陥。
(2)荷主は、中身をコンテナ詰めするに先立ち、全てのコンテナを検査するものとし、当該コンテナの使用は、コンテナが使用のため正常かつ適正であることの一応の証拠とみなす。
(3)コンテナが封印に異常がなく引渡されたものであるときは、当該引渡しをもって本運送証券に基づく運送人の義務の完全な履行であるとみなし、かつ、運送人は、コンテナの中身の滅失又は損傷について一切責任を負わない。

3.まとめ
 以上の通り、カーゴクレームにおいては、運送人が貨物を受け取ってから貨物を引き渡すまでに貨物損害が発生したことの立証責任をクレーマントが果たさない限り、運送人は責任を負いません。まずは、運送人としては、この点に関し、証明すべき事実が証拠により証明されているかをしっかり検討することが重要です。他方、仮にクレーマントが立証責任を果たしたとしても、運送人は免責事由に関し主張、立証すれば、責任を免れることができます。JIFFA MT B/Lを精査し、事案に即した免責事由がないか丁寧に検討して下さい。
 このように、カーゴクレームを受けた場合、立証責任を意識しながら、クレーマントからのクレームの内容を分析し、反論を検討するのが有効です。

第96回 241号 2022年11月
    「温度変化に起因する貨物損害と運送人の賠償責任について」

質問:
 当社は食品メーカーA社(以下、A社)より日本から欧州まで冷凍食品を配送する業務を請け負いました。冷凍食品はA社の工場でリーファーコンテナに積み付けられ、FCL貨物として出荷され、日本から欧州まで輸送されます。当社は、A社に対して、JIFFA MT B/Lを発行しています。
 スケジュール通り、貨物は欧州に到着しましたが、後日、A社より以下の連絡を受けました。
 「欧州側で引き取った貨物を検品したところ商品が解凍して再凍結した跡が確認された。一部の商品については異臭も放っており、弊社でバンニング時に積載した温度計による温度チャートでも異常を確認している。正品として納品することができないため、その分の損害を賠償請求する。」
 上記、A社からの請求に対して、当社はどのような対応をすべきでしょうか。

回答:
1.運送契約上の責任の有無について
 まずは、温度調節を要する運送品に事故があった場合の貴社の賠償責任の有無についてB/L裏面約款の規定を確認しましょう。
 温度調節を要する運送品については、その貨物の特殊性を鑑み、JIFFA MT B/L裏面約款第17条第1項では、温度調整を要する輸送を引き受ける際の条件について規定し、第2項では、万が一事故が起きた際でも運送人が温度調節コンテナの維持に十分な注意を尽くした場合には、責任を負わない旨を規定しています。

【第17条 温度調節を要する運送品】
(1)荷主は、その種類及び維持されなければならない特定温度範囲を事前に書面により通知することなく温度調節を要する運送品を運送のために申し込まないことを保証し、かつ、荷主は、自己又は代理人により詰められた温度調節コンテナの場合には、運送人が運送品を受け取る前に、運送品がコンテナに正しく詰められ、かつ、その温度自動調節装置が荷主により適正にセットされていることを保証する。もし、前述の条件が満たされていないときは、運送人は、運送品の滅失又は損傷について、一切責任を負わない。
(2)運送人は、運送の開始前又は開始時に効率の良い状態に温度調節コンテナを維持するために十分な注意を尽くした場合には、コンテナの温度調節機械、装置、断熱材の隠された瑕疵、故障、不調、停止又は機能低下により生ずる運送品の滅失又は損傷については、一切責任を負わない。

 運送契約上の責任については上記の通りですが、実際に事故が起きた際は、事故発生時の状況、事故原因、証拠の有無などの要素を加味して、総合的に運送人の責任の有無が判断されます。
 次に実務上の注意点について詳しく見ていきます。

2.賠償請求を受けた場合の実務対応上の注意点
 温度変化に起因する事故が発生し、荷主から賠償請求を受けた場合に、運送人である貴社がどのようなポイントに注意して対応すれば良いか確認します。
1)基本方針
 事故対応における基本方針は、賠償責任を否定できるのであれば、事実に基づき責任がない旨を主張し、仮に責任が認められる可能性があるのであれば、その責任をミニマイズすることです。荷主であるA社やその貨物保険者に対して賠償金を支払いながら実運送人である船会社から賠償金の支払いを受けられないという事態も回避しなければなりません。
 そのため、実運送人に責任のない事故、もしくは、原因が明らかになっていない事故で、実運送人が責任を否定している限りは、実運送人と同じ理由をもって、貴社はA社に対して責任を認めない方が良いと考えます。その場合、A社に対して、同社の加入する貨物保険によって損害を補填することを提案すると良いでしょう。
 実運送人が責任を認めている場合においても、A社と示談協定をする際は、貴社の負担が発生しないよう、A社と同条件の示談協定を実運送人と必ず事前に取り交わします。具体的には、A社から賠償金額の提示を受けた場合、まずは同額での実運送人との示談を行い、その交渉の結果を踏まえ、A社に対して支払う旨を回答します。もしくは、責任限度額の適用があり、貴社からA社に支払金額を提示する場合、実運送人から責任限度額上限の支払金額を約束させた上で、当該金額を上限としてA社に提示することも有用です。

※責任限度額
●米国発着以外の場合
 第23条 責任の限度 にて、事故が発生した際の運送人の責任の限度額が規定されています。要約すると以下の通りとなります。
a.SDR 666.67/1包又は1単位当たり
b.SDR 2.00/滅失又は損傷した物品の総重量1kg当たり  左記のa, bのいずれか高い金額=責任限度額
●米国発着の場合
 米国発着の貨物については、第35条 米国地域約款に従い、US COGSA(the Carriage of Goods by Sea Act of the United States of America)が適用されるため、責任の限度額は以下の通りとなります。
・USD 500.00/1包または慣習的な運賃単位当たり

【第23条 責任の限度】
(1)運送人が運送品の滅失又は損傷について賠償責任を負う場合には、荷主との合意によりその賠償額は、運送品が荷主に引渡される場所及び時又は引渡されるべき場所及び時における運送品の価格により計算されるものとする。運送品の滅失又は損傷に関する運送人の責任の範囲を定めるに当たり、運送品の正品価格は、荷主の送り状価額に支払い済みの運賃、料金及び保険料を加えたものとみなす。
(2)運送人は、いかなる場合であっても、その原因のいかんにかかわらず、1包又は1単位当たり666.67計算単位、又は滅失又は損傷した物品の総重量の1kg当たり2計算単位に相当する金額のうち、いずれか高い金額を超える運送品に係る一切の滅失又は損傷について責任を負わないものとする。
(3)~(6)省略

【第35条 米国地域約款】
(1)本運送証券に基づく運送が米国の港若しくは地点へ/からの、若しくは経由の運送である場合には、本運送証券は、1936年4月16日に承認された米国海上物品運送法(US COGSA)に準拠するものとし、同法の規定は本約款に採取されたものとみなし、かつ、海上又は内陸水上運送を通じて、かつ、米国の臨海ターミナルにおいて船積前又は荷揚後、運送人又は全ての下請人の実際の管理下にある全期間を通じて至上約款とする。
(2)US COGSAが適用されたときは、運送人の責任は、1包又は慣習的な運賃単位につき、500米ドルを超えないものとする。但し、本運送証券の表面に運送品の種類及び価額が通告された場合は、本運送証券第23条によるものとする。
(3)省略

2)事故発生時のカウンターサーベイの要否判断
 解凍事故が発生し、荷主がサーベイを手配する際に、運送人によるサーベイ(カウンターサーベイ)の打診を受けることがあります。以下のような場合には、荷主からの賠償請求に対抗するためにカウンターサーベイを実施するのが良いでしょう。
・後日損害額や事故原因を争う可能性がある場合 ・高額の損害賠償額が予想され、サーベイを入れないとNVOCCが不利な立場に追い込まれる可能性がある場合 ・荷受人が即座に運送人を訴える慣習のある国に所在する場合  運送人としてのサーベイを実施するか否かの判断は、個々の事案によって異なりますので、貴社が加入している賠償責任保険の引受保険会社や弁護士に相談します。

3)荷主による損害認定の妥当性
 食品の輸送中に事故が発生した場合、荷主側の厳格な基準により、事故の事実をもって廃棄処分(全損)が決定されることもあります。そのため、解凍損害が生じた場合、荷主が安易に全損認定を行っていないか、損害軽減のための値引き販売や別用途での使用の検討を行っているかなどの確認を行います。仮に運送人の責任が認められた場合においても、基本的に前述の責任限度額が上限となります。

4)温度チャートの重要性
 温度変化に起因する事故が発生した際は、誰の責めに帰す原因で発生したかを追求することがポイントとなります。事故が発生した区間を特定するためには、温度チャートが有効です。実運送人が取り付けた温度計による温度チャートが提出されることはまれですが、荷主の温度チャートが賠償請求を行う際に合わせて提出されることがあります。
 一般的に温度チャートに異常がなければ、運送人には責任がないと考えられますが、荷主から提出された温度チャートに異常値が確認されたからといって、その事実を持って直ちに運送人が責任を負うことはありません。温度チャートが提出された場合も、以下項目を確認し、損害との因果関係が十分に立証されているか検証しましょう。
・異常値が運送人の責任区間で発生しているのか ・異常値の発生した区間でリーファーコンテナに関するトラブルはないか ・損害を受けた貨物の周囲の貨物は解凍しているのか ・温度の測定場所が適切か   など
5)積み付け時の状態の確認
 コンテナ輸送中の温度に異常が見られない場合は、コンテナ積込前の温度上昇の可能性が考えられます。冒頭に触れた通り、運送品の積み付け不良や荷主による温度設定不備がある場合には、運送人は責任を負いません(裏面約款第17条第1項)。また、貨物は予め十分冷やされている必要があり、もし貨物が十分冷やされていなかったことが原因で、貨物に損害が発生した場合は、裏面約款第22条第2項(a)に該当し荷送人の責任となります。

【第22条 運送人の責任】
(1)運送人は、運送のために運送品を受け取ったときから引き渡し時までの間に生じた運送品の変質や損傷について、以下に述べる範囲で責任を負うものとする。
(2)運送人は、減失、損傷又は引渡の遅延が次の事由により生じたものであるときは、減失又は損傷の責任を免除される。
 (a)荷主の故意または過失
 (b)~(h) 省略
(3)~(5) 省略

 FCL貨物の場合、運送人側で温度を測定していないため、立証は困難であり、あくまでも推定となってしまいますが、事故の報告を受けた際には、荷主に対して、荷送人側での積み付け状況を確認するように依頼をしましょう。

3. まとめ
 食品や医薬品など温度調整を要する貨物は、メーカーによる品質管理の基準が厳しく、ひとたび事故が起きると損害額が高額になる傾向があります。事故が起きた際は、まずは、関係者へのヒアリングや温度チャートにより輸送実態を確認して運送人の責任の有無を見極めます。運送人に責任があると認められる場合も、荷主による損害認定の妥当性や運送人の責任限度額を確認し、賠償額の低減を図ることが重要です。
 一方で、輸送を引き受ける段階で、事故が発生した場合の対応、運送人が負う責任の範囲、責任限度額などについて荷主と話し合う機会を持つことで、将来の賠償請求の回避につながることもありますので、ご検討ください。

第95回 240号 2022年9月
    「海外での規制該当品のライセンス未取得に伴う
    海外で発生する保管料の支払い拒否への対応について」

質問:
 当社は、主に中国向けに輸出貨物を取扱うNVOCCです。先般、当社の取引先である荷送人の依頼により、横浜CY受け横浜港積み、香港でトランスシップし、中国蛇口まで精密通信機器を輸送する手配を行い、JIFFA MT B/Lを発行致しました。
 香港での荷揚げ後に、香港当局から調査を受け、結果としてトランスシップ規制該当品であることが判明しました。荷受人は、トランスシップ規制のことに関してはあずかり知らないと貨物の受取りを拒否しています。このため荷送人はシップバックを希望しているのですが、それに伴う海上運賃は支払うものの、現地で発生する保管料などの追加費用については支払いたくないと言っています。
 そこで、なんとか荷送人や荷送人を通じて荷受人に支払いに応じて貰えるよう説明を行いたいのですが、香港におけるライセンス規制の概要、当社取引先に説明を行う際の約款などの根拠についてアドバイスをお願いいたします。また、今後同様のことを防ぐための対応方法についてもご教示ください。

回答:
 先ず香港のライセンス規制について整理しておきましょう。香港では、輸出入管理制度が1950年代に整備され、輸出入管理法、大量破壊兵器管理法や化学兵器法が制定されました。中国返還後も一国二制度の下、これらの独自の法制度が維持され、安全保障管理が行われています。

 その中で、以下の品目を香港から輸出する際には、ライセンスが必要となります(下記の品目は一部で、他にもライセンス該当品目が多数あります)。

 また、ライセンス規制というと主に輸出貨物が対象と思いがちですが、香港では、該当する場合には、輸出の際だけではなく、輸入の際にもライセンスが必要であるという特徴があります。
 さらには、香港にはトランスシップメント(Transshipment)に関する規制もあります。すなわち、「通過貨物」においても、該当する貨物が含まれている可能性があるため、香港では輸出や輸入と同等と考えられ、同様のライセンスが要求されます。従って、今回の様なトランスシップ貨物以外でも、香港で荷揚後、輸入される香港向け貨物やそのまま陸送して中国本土に向かう貨物についても当該規制の対象になることには注意が必要です。
 そして、これらのライセンスは香港で登記されている企業または香港人により申請し取得する規定となっています。

 今回のケースは、貨物を香港でトランスシップし蛇口まで海上輸送する際に、必要なトランスシップライセンスが、取得されていなかったことに起因するものと考えられます。

 それでは、シップバックを希望する荷送人にどのように負担を求めるか、JIFFA MT B/Lを確認しましょう。裏面約款第27条は、「荷主の責任」を規定しています。

【裏面約款第27条「荷主の責任」】
(1), (2)省略
(3)荷主は、税関、港湾その他公的機関の全ての規則又は命令を遵守するものとし、かつ、規則及び命令を遵守することを怠り、運送品に係る違法、不正確又は不十分な記号、番号若しくは宛先の記載により発生し又は被る全ての関税、税金、罰金、賦課金、費用又は損害額(追加運送の運賃を含み)を負担し、かつ、運送人に対して補償しなければならない。

 問題となったライセンス規制は、上記第27条第3項の、「公的機関の規則」に該当し、この規則を遵守しないことにより発生した「費用」、すなわち保管料等については、「荷主」が負担すると約款上規定されています。
 さらに、この約款では規制を遵守すべきは「荷主」とされています。それではこの「荷主」とは誰を指すのでしょうか?

【裏面約款第1条「定義」】
(1)~(5)省略
(6)「荷主」とは、荷送人、委託者、荷受人、運送品の所有者、その受取人、本運送状の所持人並びにそれらのために行為する者等をいう。

 上記第1条第6項によれば、荷送人も荷受人も「荷主」に該当するため、本件については連帯して運送人に補償する義務があります。
 現実的には貨物受取を拒否している荷受人が費用の支払いを承諾するのは困難そうですが、このままの膠着状態では保管費用が膨らみ、問題の解決がさらに難しくなることが想定されます。早急なシップバックを進めるためにも、まずは荷送人にも支払い義務があることをご理解いただき、手続きを進めるのが肝要ではないでしょうか。
 今回のようにシップバックするということは荷送人の申し出による契約の変更とみなされるので、新たに運賃等の運送条件を荷送人と確認・合意しておくことが必要です。こうした場合には往々にして通常の輸送費用以外の追加費用も発生し、またその負担を巡ってトラブルになりがちですので、事前にしっかりと確認しておくことが非常に重要です。

 今後、同様のことを防ぐための方法としてまず考えられるのは、香港トランスシップのルートを避けることです。各船会社のスケジュールなどにより、仕向港に到着するまでに、香港でトランスシップせずダイレクトで配船している船会社、本船を選択、荷送人に提案することによって、今回のような事例が発生する可能性を低減できるはずです。またその他には、運送人の義務ではないのですが、香港向けの新規依頼については予めライセンス規制該当品かどうかを荷主に確認するよう働きかけることも有効かもしれません。

第94回 239号 2022年7月
    「米国向けの仕向地変更で注意すべきこと」

質問:
 当社は主に欧米向け輸出貨物を取り扱うNVOCCです。先般、東京CY受け東京港積み、米国ロサンゼルス港揚げシカゴCY(Rail Ramp)渡しとするJIFFA MT B/Lを発行しました。貨物は40’ドライコンテナ3本で、自動車部品です。船社B/L上の荷受地・荷渡地も同じです。
 貨物は予定通り東京港を出港しましたが、東京を出港して1週間後に、ロサンゼルス港で鉄道に接続するコンテナ貨物の滞留が甚だしいことを理由に、積み込んだコンテナ3本の内、1本をロサンゼルスCY止めにしてほしいと荷主が要請してきました。
 本船出港後に仕向地変更を依頼された経験が今までになく、ましてや米国向けの場合は様々なルールが絡むと思われることから、慎重に対応したいと考えています。どのような点に注意する必要があるか、ご教示のほど宜しくお願いいたします。

回答:
 ご認識の通り、本船出港後の仕向地変更については慎重に対応する必要があり、とりわけ米国向けの場合は同国特有のルールに沿った手続きが不可欠です。

1.船社への対応
 まず、船社が本件の仕向地変更を受諾するかどうかの確認を行います。荷揚港の入港3日前くらいを仕向地変更受諾の締め切りとしているケースが多いようですが、船社や航路、その時の状況によって異なりますので、必ず船社に確認した上で、荷送人に可否を伝えるようにします。船社の了解が得られたら、仕向地変更依頼を書面で船社に提出します(所定フォームを用意している船社もあります)。
 船社の手配で米西岸の荷揚港から内陸の荷渡地まで鉄道輸送する場合、船社から米国CBP(Customs and Border Protection = 税関国境警備局)に保税転送の申請を行いますが、この申請が完了していると仕向地変更が受諾されないことがあります。また船社が、対FMC(Federal Maritime Commission = 連邦海事委員会)上で有効となる東京CY→ロサンゼルスCYのレートを該当品目で有していない場合も受諾されません。

2.FMCのルールへの対応
 貴社の対FMC上でのレートの有無を確認します。
 貴社が運送人として、東京CY受け、ロサンゼルスCY渡しで該当品目のレートをFMCに対して公示していれば、問題ありません。あるいは、荷主との間でNSA(NVOCC Service Arrangements)もしくはNRA(Negotiated Rate Agreements)を取り交わしていれば、この輸送を引き受けることができます。
 なお、FMCのルールでは、貨物が荷受地(本件の場合は東京CY)に搬入されるまでにそのレートが有効になっていなければならないことにも注意が必要です。

3.B/Lの分割
 貨物の一部の仕向地を変更すると、船社B/L、貴社B/L共に分割して実態に合わせる必要があります。
 貴社発行済みのB/Lについては、荷送人からL/G(Letter of Guarantee)を入手後に全通を回収した上で、B/L訂正を行います。コンテナ本数を3本から2本に変更すると共に、梱包数、重量、容積、運賃等も訂正します。加えて、荷渡地をロサンゼルスCYとするコンテナ1本分のB/Lを新規に発行します。
 B/L訂正に際しては、訂正箇所に二重線を引き、訂正印を押した上で、イニシャル署名(署名者の頭文字での署名)をすることをJIFFAでは推奨しています。訂正印とイニシャル署名を組み合わせることにより、偽造リスクを低減できるためです。また、訂正箇所が多く判読しにくくなる場合は、原本全通を回収して廃棄手続きを取り、同じB/L番号で改めて発行し直すことも可能です。いずれにせよ、いかなる要求があっても、発行済み原本の全通が呈示されない限り変更に応じてはなりません。
 「運送書類の訂正」に関しては、当協会が2017年に発刊した「フォワーダーのためのQ&A」(P.15)でも詳述していますので、ご参照ください。
 なお、一部貨物の仕向地が変更になることから、貴社が運送人賠償責任保険を付保している保険会社に対し、B/L分割前の賠責保険のままで有効かを確認しておきましょう。

4.米国24時間ルールへの対応
 米国に入港する本船に積載される貨物については、船積み24時間前までに運送人(船社およびNVOCC)が積荷明細をCBPに送信することが義務付けられており、虚偽情報の送信や送信遅延の場合は1件当たりUS$5,000のペナルティが運送人に科せられます。
 送信済みの積荷明細はコンテナ3本分の情報であるため、その内容を2本分に訂正します。合わせて、新規に発行したコンテナ1本分のB/L情報を直ちにCBP宛てに送信します。
 CBPは、この新規のB/L情報を船積み24時間前までに送信されなかったものと認識する可能性があります。後日、CBPからペナルティ対象の通知があった際に、船積み後の荷主の要請によるB/L分割であったことを示せるよう、荷主からのリクエストメールやL/Gと合わせて、当初のシカゴ向け3本分のB/L、訂正したシカゴ向け2本分のB/Lおよび新規発行したロサンゼルス向け1本分のB/L原本の写しを含む全ての関係書類を保存しておきます。

5.ISFへの対応
 米国にはISF(Importer Security Filing)という制度があり、米国の輸入者が船積み24時間前までに貨物の送り先など10項目のデータをCBPに送信することを義務付けています。これに違反した場合、1件当たりUS$5,000のペナルティが輸入者に科せられます。
 あくまで輸入者の義務ではありますが、貴社は運送の専門家として、後日CBPから輸入者に対して、新規B/L分のデータが船積み前に送信されなかった等と通知される可能性があることを、荷送人を通して注意喚起しておくべきでしょう。

 このように米国向け貨物における本船出港後の仕向地変更については、行うべきことが多くありますので、一つ一つ確認しながら漏れなく対応します。最終的に貴社が仕向地変更の依頼を引き受けるかどうかは、上記ペナルティ等のリスクも勘案の上ご判断ください。

本件に関連して一点付け加えます。それは、貨物の仕向地が米国でなくカナダやメキシコ諸港で荷揚げされ、荷渡しされる貨物であっても、その貨物を積んだ本船が米国の港に先行寄港する場合は、上記4.に示した米国24時間ルールの対象となり、同様の対応が求められるということです。見落とされがちですが、注意が必要です。

※上述のFMCやCBPのルールはペナルティを含め、2022年6月現在の情報に基づいています。

第93回 238号 2022年5月
    「SWITCH B/L利用の注意点」

質問:
 物流会社に入社して3年目になり、主に輸出のHouse B/L発行などの業務を担当しています。この度バンコクの当社代理店Xから三国間貿易に伴うB/Lの回収と発行の依頼がありました。具体的にはタイの製造業者AからシンガポールのバイヤーCへ商品を直送しますが、代理店XがShipperをA、Consigneeを日本に居住する仲介業者B、運送人をXとするB/Lを発行し、そのB/Lを当社が日本で回収し、新たにShipperを仲介業者B、ConsigneeをバイヤーCとするB/Lを発行して欲しいというものです。こうしたB/L発行をSwitch B/Lと呼ぶことは以前聞いたことがあるのですが、あいにく当社はこれまでSwitch B/Lを発行したことがないことから、発行にあたっての留意すべきポイントなどを教えて頂きたく、宜しくお願い致します。

回答:
 外国間の貿易を仲介することを三国間貿易と呼びますが、この場合、貿易の対象となる商品の輸送は、仲介国を経由させることなく輸出国から輸入国へ直送し、支払運賃の削減や納期の短縮を図るのが一般的です。
 この三国間貿易では、発地における運送物品の受け取り又は船積みを確認の上、船会社等の運送人が発行したB/Lの原本全通を運送途上で回収し、新たに二通目のB/Lを荷主の求めに応じて発行することがあります。まさに今件の質問の内容ですが、この一連の扱いの中の二通目のB/Lを一般的にSwitch B/Lといいます。
 一通目のB/LはAをShipper、BをConsigneeとして、AB間の売買契約の決済に使用され、二通目のB/LはBをShipper、CをConsigneeとして、BC間の売買契約の決済及び運送品の引渡に使用されることになります。

 Switch B/Lが使用されるケースとしては、製造業者Aと仲介業者BがL/C等の銀行経由決済をするためのB/Lが必要となる場合や、仲介業者Bが製造業者Aの情報をバイヤーCに公開したくない事情(AとCの直取引を防ぎたい、あるいはCに貨物の原価を知られることを防ぎたい等)がある場合などがあげられます。

この場合の、貨物とB/Lの流れは以下の通りとなります。

 図の通り、運送の途中で最初に発行したB/Lを回収し、新たにB/Lを発行して交付しますが、貴社が注意すべき点を纏めると、以下の通りとなります。

1.一通目のB/Lの回収
 貴社は、一通目のB/Lの代理店として、確実にB/L全通の回収を確認してから二通目のB/Lを発行します。Switch B/Lの扱いでは、一つの貨物運送に対して異なった2種類のB/Lが発行されるので、通常の輸送におけるB/Lの回収と異なり、一通目のB/Lの全通回収は必須となります。

2.二通目のB/Lの内容
 一通目との変更点は、Shipper、Consignee、Notify Partyのみとし、他の変更は虚偽記載ともなりかねないため原則として行いません。例えば積港の変更は二通目のB/Lを発行する貴社が、貨物の原産国詐称に加担したとも捉えられかねない重大な結果をもたらすので厳禁です。

3.貴社の立場
 貴社の立場は、常にXの代理店です。判断を要する事象が発生した場合は、必ずXの指示を仰ぎその指示に従います。無断で行った結果は全てこちらの判断として責任を問われる可能性があります。

4.仲介業者の信用
 Switch B/Lでは依頼者(顧客)とりわけ仲介業者Bの信用が非常に重要になります。船積み後に運送品が本船に船積みされたにも拘わらずBがAに対して売買代金を支払えなかった等の場合には貴社が紛争に巻き込まれる可能性があります。仲介業者Bの信用調査を行い、不明な点がある、あるいは不安が残る場合は、代理店Xに注意喚起を行うべきです。安易にB/LのSwitchに応じて予期せぬトラブルに巻き込まれないように、取引実績のない仲介業者を介したSwitch B/L発行の引受は慎重に検討すべきであり、不安が残る場合は無理に応じるべきではありません。またSwitch B/Lに対する船会社の対応も様々で、実施に際しては事前にスキームの詳細を船会社に相談し、協力を取り付けておく方が望ましいと言えます。

5.二通目のB/Lの券種
 二通目のB/Lの発行に際し、もし貴社のB/Lフォームを使用する場合は、代理店Xの揚地代理店である立場に反して貴社もその輸送に関する運送責任を負うことになります。その場合は貴社が契約している貨物賠償責任保険会社に対しその旨を通知し、保険会社からの事前承認を得ておく必要があります。

 Switch B/Lの仕組み自体は以前から存在しますが、関連したトラブルも少なくなく、取り扱いをしないとする船会社やNVOCC業者もあります。貴社内で仕組みやリスクの詳細をご理解いただいた上で対応の是非を慎重に検討ください。

第92回 237号 2022年3月
    「MT B/L約款とWaybill約款の相違点について」

質問:
 私は一昨年、JIFFA MT B/LとJIFFA Waybillを発行してNVOCC業を営んでいる会社に入社し、NVOCC部署へ配属されてから2年を経過しようとしています。
 その短い期間ですが、社内外での勉強会等において、JIFFA MT B/L約款については少しずつ学習して来ておりますが、JIFFA Waybill約款については今まで正式に学習する機会がありませんでした。会社の上司の話では、両約款共にほぼ同じ内容の条文で構成されているが、MT B/L(Multimodal Transport Bill of Lading)と(Sea)Waybillとでは、それぞれ運送書類としての性質が異なることから、その範囲において各条文の内容も異なっていると聞いています。ですが、果たしてそれだけの理解で十分なのか正直不安を感じています。
 もうすぐ入社3年目を迎えるこの機会に、両約款の相違点について詳しく教えて下さいますようお願いします。

回答:
 ご理解の通り複合運送証券であるMT B/Lと運送状である(Sea)Waybillとでは、運送書類としての性質、機能等に共通点と相違点があります。お問い合わせいただいた両約款の違いについて詳しい説明に入る前に、複合運送証券は船荷証券の一種であることから、先ずは船荷証券と運送状の主な共通点と相違点についてポイントを押さえておきましょう。

 両運送書類の共通点である1と2については説明を省き、相違点の3と4について以下に補足説明します。

3.船荷証券は目的地で運送人から運送品の引き渡しを受ける権利が表章された有価証券であるため、以下(a)~(c)の性質、機能を有していますが、運送状は有価証券ではないためそのような性質、機能がありません。
(a)船荷証券では、運送品が運送中でも荷渡地に到着後でも裏書署名し、運送品の引渡請求権を移転させることで運送品を第三者に譲渡することができますが(指図証券性)、運送状では裏書譲渡はできません。運送状では、荷受人は運送契約の直接の当事者ではなく、運送品が到達地に到着後、荷受人が運送品の引渡請求または損害賠償請求(運送中に運送品が滅失又は損傷した場合)をするまでの間は、荷送人は運送人に対して荷受人の変更が可能です(商法第580条、第581条)。
(b)船荷証券では、運送品を受け取るためにB/L原本の呈示が必要となり(呈示証券性)、またその原本と引き換えでなければ運送人は貨物を引き渡す義務がありません(受戻証券性、商法第764条)。他方、運送状においては、貨物の引き渡しに運送状の呈示や原本の引き換えは不要となりますが、荷受人は運送状に記載された本人であること(代理人による場合には荷受人から権限を受けた代理人であること)を証明する必要があります。
(c)船荷証券では、運送人と船荷証券の所持人との間の債権債務関係はもっぱら船荷証券の記載内容によって決まります(文言証券性)。そのため、運送人は船荷証券の記載内容が事実と異なることをもって善意の第三者に対抗することはできません(商法第760条)。しかしながら運送状はこのような文言証券性を持たず、法律上そのような善意の第三者(荷受人)の保護規定はありません。
 このように船荷証券では、船荷証券の正当な所持人は第三者に裏書譲渡することで運送品を自由に処分することが可能であり、運送人に船荷証券を呈示し原本と引き換えることで運送品の引き渡し請求をすることができます。他方、運送状ではこのような裏書譲渡による貨物の処分はできず、運送品の処分権は原則として荷送人のみが有し、荷受人は運送品が到達地に到着して初めて運送品の引き渡し請求権を有することになります。この点、運送途上で貨物が全部滅失し到着しなかった場合には、荷受人は運送品に対して損害賠償請求ができなくなるという不都合を解消すべく、2019年に改正された商法(第581条)では、運送品が運送途上で全部滅失した場合であっても荷受人の賠償請求権が認められることとなりました。

4.船荷証券には運送人と荷主の利害関係を調整して一定の免責約款の禁止や責任限度額等を強行的に規律する国際条約(ヘーグ・ヴィスビー・ルール等)、及びその国内法である国際海上物品運送法が存在しますが、運送状にはそれらを規律する国際条約等が存在しません。そのため、運送状では荷主が不利な条件を強いられる可能性があります。
 以上が船荷証券と運送状の主な共通点と相違点ですが、それではこのような両運送書類の特に相違点に注意しながらJIFFA MT B/L約款とJIFFA Waybill約款の参考訳文を比較し、両約款の違いについて以下で説明したいと思います。

①受取確認約款(表面約款)〜下表表参照〜
 両約款の下線部の内容が異なっています(下線部以外も訳文が若干異なっていますが、正文である英文は同一で、以下他の約款も同様です)。これは上述した両運送書類の相違点3(a)指図証券性と3(b)呈示証券性、受戻証券性によるものです。

②受諾約款・優先約款(表面約款)〜下表表参照〜
 JIFFA Waybill約款の下線で記した文言がJIFFA MT B/L約款にはありません。
 この文言をJIFFA Waybill約款に設けている理由は、裏書譲渡を受けた者が運送人に対して引渡請求権を有するJIFFA MT B/Lと異なり、JIFFA Waybillでは荷受人は契約の直接の当事者ではなく、運送品が到着地に到達して始めて引渡請求権を取得する立場にあります。そこで、荷送人は荷受人の代理人としてもJIFFA Waybill約款等を受諾したことを定めることで、運送品の損傷について、荷受人から損害賠償請求があった場合に、同約款、及び運送人の適用するタリフが規定する除外事項や条件を、運送人が荷受人に対しても有効に主張できるようにするためです。

③署名約款(表面約款)〜下表参照〜
 JIFFA MT B/L約款の下線部がJIFFA Waybill約款にはありません。
 JIFFA MT B/Lは通常数通(一般的に3通)が発行されますが、そのうち1通が表面に記載された荷渡地で呈示、回収されたときには、その他は無効とします。残通は自動的に無効となります。これはJIFFA Waybillと異なりJIFFA MT B/Lが相違点 3.有価証券であることに基づくものといえます(商法第766条参照)。

④前文(裏面約款)〜下表参照〜
 JIFFA MT B/Lの裏面約款にはこの(前文)はありません。
 この(前文)では万国海法会により1990年に採択された「海上運送状に関するCMI統一規則」(以下「CMI統一規則」といいます)が、JIFFA Waybillに約款として組み入れられていることを定めております。先に述べたとおり、船荷証券では規律する国際条約があるものの、運送状にはありません。「CMI統一規則」は国際条約ではありませんが、海上運送状に関し、運送人・荷主間の権利関係を定めたルールであり、実務上使用されているWaybillには同規則が組み入れられているのが一般的です。JIFFA Waybillの約款に組み入れることで、「CMI統一規則」が約款の一部となり、JIFFA Waybillが発行された場合の運送人と荷主間の権利関係が明らかになっています。
 「海上運送状に関するCMI統一規則」の主な特色は以下のとおりです。
i.相違点4のとおり、運送状には運送人と荷主の利害を調整する国際条約が存在しないことから、荷主が不利な条件を強いられる可能性があります。そこで、「運送契約が船荷証券によるものであれば強行的に適用されるであろう国際条約や国内法の規定を、Waybillの運送契約にも適用される(第4条第1項)」とCMI統一規則では規定しています。ちなみに日本においては、国際海上物品運送法がWaybill にも強行適用されると解釈されています。
ii.相違点3(c)文言証券性のとおり、運送状では文言証券性はなく、運送品の記載内容に対する荷受人の信頼が保護されていません。そのため、CMI統一規則(第5条)では、荷送人に対して運送人に提供した運送品の明細が正確であることを担保させるとともに、運送人は荷受人に対してWaybill の運送品の記載内容が事実と異なる旨の反証はできないものとして、荷受人が船荷証券所待人同様にWaybillの運送品の記載内容に信頼を持ち得るようにしています。
iii.先に述べたとおり、運送状の場合運送品が到達地に到着するまでは荷受人は貨物引渡請求権を有していません。CMI統一規則(第6条第2項)では、荷送人が運送人に運送品を引渡す以前であれば、運送品を処分する権利を荷受人に移転することができる旨を定めています。これにより荷受人は貨物引渡請求権を取得できることとなります。
⑤第3条 運送品の明細 第2項、第3項(裏面約款)〜下表参照〜
 JIFFA MT B/L約款第2項がJIFFA Waybill約款にはありません。これは相違点3(a)指図証券性と3(b)呈示証券性、受戻証券性によるものです。
 次にJIFFA Waybill約款第2項とJIFFA MT B/L約款第3項の下線部が異なる内容となっている理由は、先に「裏面約款(前文)」の中の『「CMI統一規則」の主な特色ii』で説明したように、有価証券ではないJIFFA Waybillにおいても荷受人が船荷証券所待人同様にWaybillの運送品の記載内容に信頼を持ち得るようにしています。上記JIFFA Waybill約款第2項の後段下線部において、運送人はJIFFA Waybill に記載された情報を信頼した善意の荷受人に対し、その記載内容が事実と異なる旨の反証ができないことをここで明確にしています。

⑥第19条 運送品の引渡し 第1項(裏面約款)〜下表表参照〜
 JIFFA MT B/L約款にはJIFFA Waybill約款の第1項が存在しません。これは相違点3(a)指図証券性と3(b)呈示証券性、受戻証券性によるもので、先に説明したJIFFA Waybill「受取確認約款」と共通するものです。JIFFA Waybill約款では、荷揚港又は引渡地において、運送状表面記載の荷受人又は荷受人の権限を有する代理人の身元確認後、その者に対してのみ荷渡しが行われることを規定しています。更に荷受人が運送品の引渡を請求するときは、荷受人は当該運送契約にかかわる荷送人の債務を引受けるだけでなく、荷送人が有する権利も移転することをここで規定しています。

以上

第91回 236号 2022年1月
    「下請人に対する賠償請求への対応について」〜ヒマラヤ約款とは~

質問:
 当社は、輸出混載貨物を専門に運送する利用運送事業者で、JIFFA MT B/L及びJIFFA WAYBILLを使用しています。先月、Shipper(荷送人)Aの計測装置を神戸CFSからサザンプトンCFS(英国)まで運送しました。しかし、仕向地サザンプトンCFS内で、フォークリフトで貨物を移動中に、作業員の不注意により貨物を高所から落下させ、木箱梱包を破壊して計測装置の外殻を変形させるという事故が発生しました。数日後、Consignee(荷受人)Bは自身の倉庫で貨物の検査をするため貨物を引き取りました。
 昨日、当社のサザンプトン代理店経由で荷受人Bから連絡がありました。それによれば、「検査の結果、計測装置の損傷は甚だしく修復は困難で、全損処理が妥当と判断した。求償については、事故がフォークリフト作業員の過失との報告を受けているので、貨物海上保険会社に保険求償をせず、事故を起こしたサザンプトンCFS運営会社に対し、直接損害賠償を請求することに決めた。」とのことです。
 ここで質問です。荷送人Aから入手したInvoiceによれば、当該貨物の価額は約500万円です。一方、貨物は1ケースで、重量と容積は各々200kg・0.5m3とあり、ブッキング時に荷送人Aから、高価品としての申告はありませんでした。従って、当社がB/Lの約款に従って支払うべき賠償額は、運送人の責任制限の規定に基づき10万円前後に収まると計算されます(666.67SDR × 1ケース=約10万円)。もし、荷受人Bの言う通り、荷受人Bが当社の下請人であるサザンプトンCFS運営会社に対し、不法行為を理由に直接賠償を求めることが可能なら、この下請人は運送契約の当事者ではないため、約款にある運送人の責任制限の規定は適用されず、貨物の価額に応じた賠償を求められることになります。これは、同じ貨物事故について、求償先が異なると受け取る賠償額が異なることになり不合理だと思います。荷主の主張に反論をしたいのですが、アドバイスをお願いします。

回答:
 JIFFA MT B/L約款では、運送人の下請人も、運送契約の当事者ではないものの、約款に定められた責任制限の規定等を援用できるとしています。言い換えると、荷受人が下請人を直接訴えても、運送人に賠償を求めた場合と同様の賠償金しか受けることができません。該当する条文を見てみましょう。

JIFFA MT B/L約款第25条第1項
【使用人、代理人その他の者の責任】

運送品の滅失又は損傷に関して、運送人の使用人若しくは代理人又はこの約款によって証される運送の履行のために、運送人がその役務を調達する全ての下請人及びその使用人若しくは代理人を含むその他の者に対して、訴訟が提起された場合には、これらの使用人、代理人又はその他の者は、運送人がこの約款の下で行使できる抗弁及び責任制限を援用できるものとし、この運送契約の締結に当たり、運送人は、それらの規定に関しては、自己のためのみならず、使用人、代理人、その他の者の代理人及び受託者として、契約を締結するものとする。運送人、使用人、代理人又はその他の者から賠償を得ることができる総額は、いかなる場合であっても、この約款に規定している制限額を超えないものとする。

 この条文は、貴社の下請人であるサザンプトンCFS運営会社は、JIFFA MT B/L約款上の運送人の規定等を援用して、当該貨物事故の損害賠償について協議することができ、結果的に荷受人Bが得られる賠償額は、運送人と交渉して得られる賠償額と同額になるので、直接請求にはメリットが無いことを示唆しています。したがって、実際の精算では、貴社は荷受人Bからの請求をCFSに再請求しつつ、荷受人Bと約款に則った賠償額を合意し、その合意額をCFS運営会社に支払いを求めるという手順となるでしょう。

 ここで引用したMT B/L約款第25条の条文は、コンテナ船のB/Lに広く採り入れられたものですが、その経緯を補足します。

 1950年代に、客船ヒマラヤ号の船客だったXは、乗下船のために取り付けられた舷梯(Gangway)が、乗組員により十分に固縛されてしていなかったためGangwayから落下し、大怪我を負いました。
 船客Xは、最初、本船を所有・運航をしていた客船運航会社Y を訴えました。しかし、裁判官は、Y社が発行した乗船券に「船客の乗船中に、船社の使用人に過失があっても船社は責任を負わない」との条項があったことから、訴えを退けました。
 納得しない船客Xは、乗船券にある船社の責任制限条項を回避するため、方針を変更し、当該乗組員の過失と船長の監督責任について彼らを直接訴え、勝訴しました。
 更に、Y社に認められた乗船券の免責条項が、その使用人である船長や乗組員にも有効か否かが争われました。この訴えに対し英国の控訴院は、船長や乗組員等の使用人は、船客Xとの契約の当事者でないことを理由に使用人の免責を認めず、事故に対して船長や乗組員は責任があると判じました。

 これらの判決は、暗に使用人が契約の当事者であることを約款で明確にしていれば、免責が認められたであろうことを示唆していました。そのため、判決後多くの運送事業者は「事故で船社に適用される免責や免除等を、その使用人・代理人も適用できる」と乗船券や船荷証券に記載するようになり、制定のきっかけとなった客船ヒマラヤ号にちなんで、ヒマラヤ約款(Himalaya Clause)と呼ばれるようになりました。

 このような条項が規定されているため、仮に荷受人Bが下請人であるCFS運営会社への直接請求をした場合、当該下請人は運送契約の直接の当事者でないにも拘わらず、責任制限の主張ができることになります。

 さらにこのJIFFA MT B/L約款第25条第1項に加え、貴社としては、同条第2項も引用して、荷受人Bに対して直接精算を止めるよう求めることができます。同条第2項は以下の通りです。

JIFFA MT B/L約款第25条第2項
荷主が運送人の使用人、代理人、その他の者及びその他の者の使用人並びに代理人に対して行った賠償請求に関して、これらの者が運送人に対して行う一切の賠償請求を運送人に補償するものとする。

 ご質問の事例に当てはめると、荷受人BがサザンプトンCFS運営会社に賠償請求を行い、支払いに応じた同社が貴社に請求した場合、荷受人BはサザンプトンCFS運営会社から受け取った賠償金を、運送人である貴社に補償(償還)しなければならないことになります。そのため、荷受人Bの下請人に対する直接請求にはメリットはありません。

 このような事を確認した上で質問に戻ると、貴社は荷受人Bに、「サザンプトンCFS運営会社を直接訴えても、MT B/Lの約款に基づく協議となるので、その結果は当社を訴えるのと同じであること。そして、この貨物は高価である反面、重量・容積とも1Revenue Tonにも満たないことから、当社へ直接請求しても、貨物海上保険による補償に比べて少額の賠償金しか得られないこと。そのため荷受人Bは、保険求償により損害の補填を受ける方が得策であること。」を説明して理解を求める、というのが本件に対するアドバイスとなります。

第90回 235号 2021年11月
    「高額品の輸送を依頼された際の注意点と対応について」

質問:
 当社は、JIFFA MT B/Lフォームを使用してHouse B/Lを発行しています。
 この度、当社顧客から、米国向け半導体関連品の輸送にあたり、書面で運送品の価額の通告がありました。貨物の価格はUSD300,000で、MT B/L表面のMerchant’s Declared Value欄にその価額を記載するよう依頼を受けました。この輸送にあたり使用するコンテナーは、40’ Dry 1本です。輸送を引受けるか否かを検討するにあたり、念頭に置いておくべき注意事項と手順をご教示下さい。

回答:
 まず、この案件で、関連する約款について説明致します。関連するJIFFA MT B/L約款は、裏面約款第18条「高価品」と、第23条「責任の限度」、第35条「米国地域約款」です。それぞれの内容は、以下に記載のとおりです。

裏面約款第18条「高価品」(参考和訳文)
運送人は、白金、金、銀、宝石、貴金属、放射性同位元素、高価な化学物質、金銀塊、正金、通貨、流通証券、有価証券、作品、文書、絵画、刺繍品、芸術品、骨董品、相続財産、あらゆる種類の蒐集品又は荷主のみにとり特別な価値のある物品を含めたすべての高価品の滅失又は損傷について、それらの真実の種類及び価値が運送品の受取りに先立って荷主により書面で通告され、本運送証券の表面に記載され、かつ、それについての従価運賃が前払いされているのでなければ、運送人は、一切の責任を負わない。

裏面約款第23条「責任の限度」(参考和訳文)
(1)省略
(2)運送人は、いかなる場合であっても、その原因のいかんにかかわらず、1包又は1単位当たり666.67計算単位、又は滅失又は損傷した物品の総重量の1kg当たり2計算単位に相当する金額のうち、いずれか高い金額を超える運送品に係る一切の滅失又は損傷について責任を負わないものとする。
(3)本条に定める限度を超える賠償額は、運送人の同意を得て運送の開始に先立ち、荷送人より通告された運送品の価額が本運送証券の表面の所定欄に記載され、かつ、割増運賃が支払われた場合に限り請求することができ、その場合には、通告価額が限度となり、一部の滅失又は損傷は、通告価額に基づいて、滅失又は損傷の割合に比例して精算される。
(4)前記第2項にいう計算単位は、国際通貨基金(International Monetary Fund:IMF)の定める特別引出権(Special Drawing Rights:SDR)とする。前記第2項の規定による金額は、訴訟が係属する裁判所の属する国の法令で定める日におけるその国の通貨の価値を基準として、その国の通貨に換算されるものとする。
(5)以下、省略

裏面約款第35条「米国地域約款」(参考和訳文)
(1)省略
(2)USCOGSAが適用されたときは、運送人の責任は、1包又は慣習的な運賃単位につき、500米ドルを超えないものとする。但し、本運送証券の表面に運送品の種類及び価額が通告された場合は、本運送証券第23条によるものとする。
(3)省略

 関連する条文としては上述のとおりですが、価額がMT B/Lの表面に記載される場合と、価額の申告が無かったことを表すN.V.D.(No Value Declared)が記載される場合とで、全く意味が異なることを理解しておかなければなりません。
 それは、価額に見合った割増運賃(第18条の従価運賃にあたります)が支払われ、MT B/L表面のMerchant’s Declared Value欄に価額が記載されると、上述の裏面約款 第23条(2)「責任の限度」及び第35条「米国地域約款」で規定される運送人の責任限度額が適用されなくなり、荷主はその限度額を超える賠償額を運送人に対し請求できることになる、ということです。

 これが、輸送を引受けるか否かを検討するにあたり、念頭に置いておくべき注意事項です。

 MT B/Lの表面における価額の表記の有無について記述致しましたが、この背景には、米国で支持されている、責任制限約款により運送人の責任を減免するためには、運送人は荷主に対して「料率選択権」を付与しなければならないという考え方があります。
 つまり、運送品に事故が発生した時、「実価に基づいて賠償を受けられる運賃料率」と「賠償額が一定限度を超えないことを条件とする運賃料率」の選択権を付与することが、責任制限約款が有効に成立するための要件ということになります。
 このように運送人が荷主に対して「料率選択権」を付与している中で、この案件において、貴社の顧客が、価額を貴社に通告し、割増運賃を支払ったということは、「実価に基づいて賠償を受けられる運賃料率」を選択したことになります。

 では、貴社が輸送を引受けるか否かについてですが、貴社が行う手順は、以下に記載のとおりです。

 まず、貴社は、船会社等の実運送人に、高価品の品名、明細、今回貴社の顧客から申告を受けた価額(USD300,000)、荷受地、船積港、荷揚港、荷渡地、使用するコンテナタイプ・数量等を連絡の上、輸送の引受けの可否を確認し、実運送人が輸送可能な場合は従価運賃の見積を入手します。
 次に、貴社は賠償責任保険契約を締結している保険会社に対して、運送品の申告価額や輸送の詳細を連絡し、当該輸送に対して、賠償責任保険の引受けの可否を確認し、保険付保が可能な場合には追加保険料の見積を入手します。
 そして、上記で確認した運賃及び追加保険料の見積、及び荷主の信用度、リスク等を鑑み、貴社は運賃見積を提示するか、見積提示を辞退するかを社内で検討の上決定致します。運賃見積を提示する場合は、見積は従価運賃でそれを貴社の顧客が前払いすることを条件として承諾した場合に運送を引受けます。

 このように、荷送人から書面で運送品の価額の通告があり、且つMT B/Lの表面のMerchant’s Declared Value欄にその価額を記載し、万一運送品が運送人である貴社の管理下で損傷や滅失した場合、この欄に記載された価額を限度に、損害額に対して貴社が賠償責任を負うことになりますので、慎重に対処を行わなければなりません。

第89回 234号 2021年7月
    「複合運送ではどの輸送手段のルールが適用されるか」

質問:
 当社は、JIFFA MT B/Lを発行しているNVOCCです。
 顧客から東京港積みプラハ(チェコ)向けに印刷機械をCFSで受託してバンニングを行い、コンテナ単位で荷受人のドアまで輸送を引き受けています。具体的には、ロッテルダム港まで海上輸送後、ドイツのフランクフルトまで鉄道輸送し、最終的に荷受人ドアまでのトラック輸送となります。
 JIFFA MT B/L上の荷受地は「Tokyo CFS」、荷渡地は「Consignee’s Door in Prague」ですが、船社B/L 上はTokyo CY受け、Rotterdam CY渡しとなっています。ロッテルダム以遠の内陸輸送は当社の欧州代理店に委託しています。
 3年ほど前から毎月のように輸送してきているところ、これまで一度も貨物事故の発生がありませんでしたが、先般、初めて荷受人からデバン後に一部貨物の破損が確認されたことが報告されました。破損した貨物は数量が2パレット、重量が2トンで、修理代金は15万ドル(約1,650万円)とのことです。なお、バンニング時は毎回サーベイ・レポートを作成しており、事故が報告されたコンテナについても、貨物の梱包状態や積み付け、ラッシングは通常通りでした。
 荷主の貨物海上保険による事故処理が行われ、近頃、その貨物保険会社から代位求償の通知が運送人である当社に届きました。それによれば、荷渡し当時、フランクフルトからプラハの荷受人所在地に至る道路には凹凸があり、その影響でトラックのタイヤがパンクし、荷受人への配達時刻が遅れた事実が明らかになっており、その際の車体の振動で貨物事故が発生したことが強く推定されるとして、国際道路物品運送条約(CMR)が定める責任限度額を補償するよう求めています。
 一方、当社がB/L賠償責任保険を付保している保険会社に相談したところ、「道路運送中にトラックのタイヤがパンクした事実はあるにせよ、それに起因する貨物事故発生は立証されておらず、どこで事故が起きたか確定できないため、たとえ補償するにしてもヘーグ・ヴィスビー・ルールに基づく責任限度額までであり、それ以上の支払いは認められない」とのことでした。
 海外の法規に詳しくありませんので、このような複合運送における貨物事故発生の際に、運送人に適用される法律や条約について基本的な考え方を教えてください。

回答:
 まず、責任の限度について、関係する国際条約を参照しながら説明します。

①国際道路物品運送条約(CMR):1956年にスイスのジュネーブで署名され、欧州諸国が加盟している条約。貨物の荷受地と荷渡地とが異なる国に存在し、かつ少なくともその内の1国がこの条約の締結国である道路運送契約に適用されます。本条約における賠償責任限度額は、損害貨物の総重量1kg当たり8.33SDRです。
②国際鉄道物品運送条約(CIM):1952年にスイスのベルンで採択され、欧州諸国が加盟している条約。国際鉄道中央事務局に登録されている鉄道路線を経由して、2つ以上の条約締結国にまたがって行われる鉄道運送に適用されます。本条約における賠償責任限度額は、損害貨物の総重量1kg当たり17SDRです。
③ヘーグ・ヴィスビー・ルール(Hague-Visby Rules):1977年に発効した海上物品運送に関する国際条約。日本を含む先進国が加盟しています。運送人の賠償責任限度額は1包につき666.67SDRまたは損害貨物の総重量1kg当たり2SDRのうち、いずれか高い方の金額です。日本の「国際海上物品運送法」はその国内法です。
 日本は上記①②については批准していません。これらを一覧にしたものが下表です。

 今回の貨物事故を各法規に当てはめると、責任限度額は以下のようになります。
①CMR(国際道路物品運送条約):
 8.33SDR × 2,000kgs = 16,660SDR(約250万円)
②CIM(国際鉄道物品運送条約):
 17.00SDR × 2,000kgs = 34,000SDR(約510万円)
③ヘーグ・ヴィスビー・ルール :
 2.00SDR × 2,000kgs = 4,000SDR(約60万円)
 (> 666.67SDR × 2Pkgs = 1,333.34SDR)

 荷主の貨物海上保険会社は、道路輸送途上に発生した事故である可能性が高いことから、ヘーグ・ヴィスビー・ルールよりも金額の大きいCMRの規定に基づいて求償してきたと考えられます。

 次にJIFFA MT B/Lの裏面約款を確認しましょう。第22条では以下のように謳われています(参考和訳文)。

第22条 運送人の責任
(1)~(3)省略。
(4)内陸運送中、下請人の管理下にある間に滅失又は損傷が発生したことが証明されたときには、運送人の責任及びその限度は、下請人の運送契約又はタリフに基づいて決定するものとする。但し、運送人の責任は、いかなる場合であっても、本約款第23条に規定される限度額を超えないものとする。
(5)滅失又は損傷が発生した区間が立証できないときは、滅失又は損傷は海上輸送中に発生したものとみなし、運送人は、本約款第2条に定める国際海上物品運送法又はヘーグ・ルール立法に規定する範囲で責任を負うものとする。

 今回の事故は(5)の「損傷が発生した区間が立証できないとき」に相当しますので、「損傷は海上輸送中に発生したものとみなし」、責任の限度は国際海上物品運送法(ヘーグ・ヴィスビー・ルール)に定める範囲内となります。

 ではもし、道路運送中の事故であったことが立証された場合はどうでしょうか。前述のJIFFA MT B/L裏面約款第22条(4)項に則れば、「内陸運送中、下請人の管理下にある間に滅失又は損傷が発生したことが証明されたとき」に該当しますので、運送人の責任及びその限度は、「下請人の運送契約又はタリフに基づいて決定」されることになりますが、運送人の責任は「本約款第23条に規定される限度額を超えない」こととなります。そのため、当該クレームは、国際海上物品運送法に規定された「貨物の重量1kg当たり2SDR」の賠償金の支払いで終えることができると考えられます。

 ただし、貨物保険会社がヘーグ・ヴィスビー・ルールより有利なCMRの適用を主張して、CMRの裁判管轄地で訴えを提起することがしばしばあります。2002年に英国で判決が下された複合運送を巡る裁判では、道路運送中の盗難事故に対してCMRの適用が認められています。(※1)

 裁判管轄に関する国際的な統一ルールがない以上、荷主がダメージを発見した仕向地、例えばプラハで訴えを起こすことは十分に考えられます。そして、その訴えをプラハの裁判所が受理し、CMRを適用した判断を下す可能性は少なくありません。つまり、訴えが起こされた国や地域の法令が、B/L等の約款に優先して適用されることもあり得るとの認識を持っておくことが重要です。(※2)

 他方、海上輸送区間が責任範囲である船社に対しては求償できませんので、最終的に貴社の欧州代理店から実運送人であるトラッカーに求償することになります。いずれにしても、賠償責任保険を付保している限り保険から補償限度額の範囲で填補され、貴社が一度に多額の賠償金支払いを強いられることはありませんが、こうした事案からもNVOCCが賠償責任保険に加入することは不可欠と言えます。


※1 英国の判例: エールフランスがシンガポール→パリ、パリ→ダブリンの2通のAir Waybillを発行した事案です。貨物はパリまで航空輸送されましたが、パリ→ダブリン間は航空運送状が発行されているにもかかわらず、当初から国際道路自動車運送が予定されており、その道路運送中に貨物が盗難に遭いました。 荷主はCMR条約の適用を主張し、責任制限を打破しようとしました。これに対し、裁判所は、航空輸送はパリで終了し、パリ→ダブリン間は純然たる国際道路自動車運送であると認定して、CMR条約を適用すると判断しました。運送品が域外から欧州に航空輸送された後、欧州内で国際道路自動車運送が行われた時に、道路運送部分にCMR条約が適用された事例です。 ※2 「運送書類に記載された裁判管轄以外の国で提訴された場合の対応」については、当協会が2017年に発刊した「フォワーダーのためのQ&A」(P.64)に詳しく説明しているので、参照してください。

第88回 233号 2021年7月
    「危険品の通知義務について」

質問:
 当社はJIFFA MT B/Lを発行するNVOCCです。
 先般、化学品メーカーA社を荷送人としたFCL貨物の国際輸送を取扱いましたが、後日貨物に危険物が含まれていることが発覚しました。A社からは事前に危険物の通知がなかったため、当社は実運送人である船会社B社へ危険物の通知を行うことができませんでした。幸いにも今回の輸送では事故が起きなかったのですが、この危険物が原因で事故が発生した場合、当社を取り巻く賠償関係はどのようになるのでしょうか。また、今後同様のリスク発生を避けるために、当社はどのようなことに気をつけるべきでしょうか。

回答:
 NVOCCである貴社はFCL貨物について、運送品がコンテナに積載された状態であるため、運送品の外装に通常施されるであろう危険物の表示を確認することはできません。従って、NVOCCとしてはA社(実荷送人)からの通知、申告および書類等に基づいてB社(実運送人)に通知することになるため、危険物に関する荷送人からの正しい通知、申告が非常に重要となります。

 2019年4月1日に施行された改正商法では、荷送人による危険物の通知義務について新たな条文が加わりました。これは、商法が、1899年(明治32年)に制定されてから、実質的なルールの見直しがほとんど行われておらず、社会情勢の変化などに対応するために改正が行われたもので、その一環として危険物の通知について下記の通り定められました。

商法第572条(危険物の通知義務)
荷送人は、運送品が引火性、爆発性その他の危険性を有するものであるときは、その引渡しの前に、運送人に対し、その旨及び当該運送品の品名、性質その他の当該運送品の安全な運送に必要な情報を通知しなければならない。

 この条文により、運送品が危険物であることの荷送人の通知義務が明確に規定されました。しかしながら荷送人がこの条文の危険物に関する通知義務違反をした場合の責任については規定されておりません。これについては、実は商法改正時に議論されましたが、商法上特段そのような規定を設けず、債務不履行に関する民法の規律に従うものと整理されました。そのため、荷送人の通知義務違反により運送人に損害が生じた場合には、荷送人は債務不履行による損害賠償責任を負いますが、荷送人が自己に帰責事由が無いことを主張立証したときはその責任を負わないこととなります。そのため、NVOCCは実荷主から入手したブッキングデータ等から、危険物であるか確認する、つまり、不明なものは実荷主に確認するなど注意を尽くしていれば、NVOCCが通知義務違反を問われることは免れる可能性もあります。

 一方で、JIFFA MT B/Lの裏面約款では、危険物及び禁制品について下記のように規定しています。

JIFFA MT B/L 約款第12条(危険物及び禁制品)
(1)荷主は、運送品の種類を書面により運送人に事前に通知し、運送人の書面による明確な同意を得て、かつ、運送品又はコンテナその他の包装の外面に法律、規則若しくは危険物の運送に関する国際条約の定める表示をしなければ、危険性、可燃性、放射性又は破壊性のある運送品を運送のために提出してはならない。
(2)前項の必要条件が満たされない場合又は運送品が禁制品であること又は船積港、荷揚港、寄港地、運送途上のいかなる地点における法律又は規則により禁止されていることが判明した場合、運送人は、自らの裁量により荷主に補償することなく当該運送品を無害化し、投げ荷し、荷揚げし若しくはその他の方法で処分できるものとし、荷主は、当該運送品から生ずる一切の損失、損傷又は責任、運賃の損失及び直接的に又は間接的に生ずる一切の費用について責任を有し、運送人に対して補償するものとする。また、運送人は、当該運送品に関する共同海損分担金の支払いの責任を負わない。
(3)(省略)
(4)荷主が運送品の性質を承知していると否とを問わず、荷主は、当該運送品の運送の結果発生する全ての求償、損害賠償若しくは費用又は人体の障害若しくは死亡について、運送人に補償するものとする。

 上述しましたように改正商法においては、荷送人が通知義務に違反した場合、その違反が荷送人の責めに帰することができない事由であれば、荷送人は責任を負わないことになっておりますが、JIFFA MT B/L裏面約款第12条第4項においては、荷送人の責任を厳格化しています(=無過失責任、即ち荷送人は物品の性質を知らなくても責任を負う)。JIFFA MT B/Lだけでなく船会社(実運送人)が発行するB/Lの裏面約款でも同様に、荷送人は無過失責任を負うと規定されているのが一般的です。それは何故でしょうか。

 欧米では、運送の危険物通知義務違反による事故では、荷送人に無過失責任を負わせるのが一般的で、過失の有無を問わず、船体への損傷など巨額の損害賠償を求められる判例が報告されています。そのため、船会社のB/L約款は荷送人の無過失責任を明確に規定しているのです。さらには、このように船会社のB/Lが無過失責任を定めていることに鑑み、NVOCCのリスクヘッジの見地から、JIFFA MT B/Lの約款も同様に上記の通り荷送人の無過失責任を規定し、その責任を厳格化しています。

 したがって、本件において当該危険物が原因で事故が発生し、船会社Bに損害が発生した場合、貴社は危険品の通知義務違反に基づき損害賠償請求を受けることになりますが、JIFFA MT B/Lを発行している貴社は荷送人に対し、無過失責任としての危険品の通知義務違反に基づく損害賠償請求をすることができることになります。

 次に、今後同様のリスクを避ける為に貴社はどのようなことに気を付けるべきかについての回答となりますが、国際運送サービスを提供するNVOCCは、日本国内の法令だけを見て、過失責任だから責任は無申告・誤申告の元となった実荷主にのみあると判断するのではなく、ブッキングを引き受ける際、その貨物が危険物でないことを確認することについて、十分な注意を尽くすことが求められます。船会社のB/L等が採用している欧米を中心とした無過失責任主義による訴訟に発展する可能性も念頭に、貨物が危険物か否かを正確に情報収集するよう努めなければなりません。ウェブサイト上やブッキング時の注意事項表示、あるいは運賃の見積書の条件(備考)欄等で周知し、実際にブッキングを受け、危険物である可能性が少しでも疑われる貨物である場合荷主に危険物に該当しないかの確認を取り、その記録に残しておくなどが必要でしょう。
 例えば、ウェブによるブッキング画面を変更し危険物であるか否かの選択ボタンなどを必須項目とすることや、電話でブッキングを受ける際などは、どんな貨物であっても危険物であるか否かを質問し、その結果をBooking Slipに記入するようにするなど確認の徹底を図ることが重要です。

注:危険物の範囲は、商法第572条では「引火性、爆発性その他の危険性を有するもの」と定められています。従って、引火性、爆発性を有するものだけでなく、人、生物、船体および航空機等の輸送用具、他の貨物等に対しても影響を及ぼす可能性のあるものも、危険物であると判断される可能性が十分にありますので、ご留意ください。国連番号が採番されていない貨物も、危険物と判断される可能性があります。

第87回 232号 2021年5月
    Waybillが発行された貨物の荷受人からの引渡し要求を荷送人の指示で拒否できるか?

質問:
 当社は既存顧客である荷主Aからの指示により、東京CY発バンコクCY向けのFCL貨物の輸送を手配し、荷送人をA、荷受人をBとしたJIFFA Waybill原本1通を発行し、出港日の翌日には当社の現地代理店Cへプレアドバイスをしました。
 ところが本船がバンコク港に到着する2日前にAから連絡があり、Bが前払い契約に従って既に支払っているべき商品代金の入金確認がまだA社内で取れていないため、追って(Aから)指示があるまではバンコク側でコンテナをBに引き渡さぬよう指示を受けました。
 Aからの指示を同日中にCに伝えたところ、Cは既に到着案内をBに送付済みで、明日BがD/O交換のためにCの事務所に来る予定となっていることが分かりました。また、CはBに日本からの指示内容について説明したところ、自社が荷受人となっているWaybillの写しをAから受領していること、Aへの送金手配は既に完了しており間もなく実行されること、CY搬入後すぐにコンテナを引き取らないと納期に間に合わなくなることを理由に、Bは明日のD/O発行を強く要求しております。
 BがWaybill上、荷受人と記載されている状況で、当社は果たしてAの指示によって、BのD/O発行の要求を拒否して問題はないのでしょうか。このような場合の当社が取るべき対応について教えていただけますようお願いいたします。このような情報を記載することについての想定されるリスクとその対策についてお教えください。

回答:
 貴社は荷送人Aからの指示と荷受人Bからの要求の板挟みとなり、対応に大変苦慮されている状況であること理解いたします。本件と関連するJIFFA Waybill約款の規定を以下確認して行きましょう。

 まず、荷送人の指示に関してはJIFFA Waybillの裏面約款に以下の規定があるので、その内容を確認しましょう。

JIFFA Waybill裏面約款最上段の規定
「この運送状は『海上運送状に関するCMI統一規則』に基づき効力を有するものとし、その規則は本状に摂取されているものとみなされる。(以下省略)」

 この『海上運送状に関するCMI統一規則』とは、海法の国際的統一を目的として1897年に設立された国際機関である万国海法会(Comité Maritime International: CMI)が、1990年にパリで採択した海上運送状の統一規則ですが、その規則の中に以下の条項があります。

海上運送状に関するCMI統一規則(CMI Uniform Rules for Sea Waybills)第6条第1項(参考和訳文)
「荷送人は、下記の第2項に基づく選択権を行使していない限り、運送契約に関する指図を運送人に対して与えることができる唯一の当事者であるものとする。適用される法律により禁止されていない限り、荷送人は、目的地に物品が到着後、荷受人が物品の引渡を請求する時までの間いつでも荷受人の名称を変更することができるものとする(以下省略)」

 一般に、運送契約に関する指示権限を「貨物の処分権」といいます。それを踏まえてこの条文を読み返すと、貨物が仕向地に到着し荷受人が貨物の引渡しを請求するまでの期間は、貨物の処分権は荷送人にあるとしていることから、設問においては、貴社は荷送人Aの指示に従って、貨物の引渡しを保留すべきということになります。

 次に、条文には「適用される法律により禁止されていない限り」と条件が付されておりますので、その点について問題はないか確認してみましょう。
 JIFFA Waybillは第4条により日本法を準拠法としていること、我が国では国際海上物品運送法がWaybillにも強行適用されるので、同法の条項を確認してみます。国際海上物品運送法第15条が準用すると定めている商法には、以下の規定があります。

商法第580条
「荷送人は、運送人に対し、運送の中止、荷受人の変更その他の処分を請求することができる。この場合において、運送人は、既にした運送の割合に応じた運送賃、付随の費用、立替金及びその処分によって生じた費用の弁済を請求することができる。」

商法第581条
「荷受人は、運送品が到達地に到着し、又は運送品の全部が滅失したときは、物品運送契約によって生じた荷送人の権利と同一の権利を取得する。
2 前項の場合において、荷受人が運送品の引渡し又はその損害賠償の請求をしたときは、荷送人は、その権利を行使することができない。」

 すなわち、商法第580条において、荷送人は運送の中止、荷受人の変更その他の処分を運送人に対して指示できると規定し、第581条で、荷受人は運送品が到達地に到着した時は荷送人の権利と同一の権利を取得することとなり、その場合において更に荷受人が運送品の引渡しを請求したときは、荷送人はその権利を行使することができなくなると規定しております。

 以上のように、JIFFA Waybill裏面約款が摂取しているCMI統一規則、Waybillにも強行適用される国際海上物品運送法が準用する商法の規定をそれぞれ確認して参りましたが、何れもWaybillにおいては、貨物が到着し荷主が貨物の引渡しを求めるまで、貨物の処分権は荷送人にあるとしています。本件においては貨物がまだ仕向地であるバンコクCYに到達していないことから、荷受人Bが貨物の引渡し、すなわちD/Oの発行を要求したとしても、貴社と現地代理店Cは荷送人Aの指示に従って行動する義務があることになります。

 一方、JIFFA Waybill表面の受取確認約款では、到着案内送付後の扱いについて以下の通り定めています。

JIFFA Waybill 表面約款(参考和訳文)
「(前略)、そこで運送人の要求する本人を証明する書類の提示に基づいて、本状記載の荷受人又はその正当な代理人に引渡される。」

 この引渡し手順には条件が付されていないことから、荷受人Bはこの条文を根拠に、貴社に貨物引渡しを強く迫り、ひいては貴社が法的紛争に巻き込まれる可能性は否定できません。

 そのため、荷受人Bに対しては、上述の通りWaybillでは、貨物の到着までは荷送人にのみ貨物の処分権が認められていること、また到着案内送付後も荷送人には「本状記載の荷受人」を変更することが可能であること、従って本件の原因である売買代金の未払の解消のみが、この問題の解決の方法であることを説明することで、貴社にとっては直接関係のない売買代金未精算の問題が、貴社と荷受人Bとのトラブルに発展しないように慎重に対応すべきと思われます。他方、荷送人Aからは補償状を取付ける等の貴社のリスクヘッジをするという方法も考えられますが、貴社が法的紛争に巻き込まれるリスクがある事案ですので、まずは必ず弁護士と十分に相談してから貴社の対応方法を検討するようにして下さい。


第86回 231号 2021年3月
    「JIFFA MT B/Lの記載事項に関する荷主からの要求への対応について」

質問:
 当社は、JIFFA会員としてJIFFA MT B/Lを使用していますが、荷主からMT B/LのDescription of Goods欄に品名、荷姿といった貨物情報以外の情報(①インボイス価格、②リーファーコンテナの設定温度、③梱包毎の重量)の追記を求められることがあります。このような情報を記載することについての想定されるリスクとその対策についてお教えください。

回答:
 まずは運送書類に求められる記載事項について確認してみましょう。
 国際海上物品運送法第15条が準用する商法第758条には「船荷証券の記載事項」の規定があり、運送人が船荷証券上に記載すべき事項が定められていますので、まずそれをご紹介いたします。

商法第758条第1項
「船荷証券には、次に掲げる事項(中略)を記載し、運送人又は船長がこれに署名し、又は記名押印しなければならない。
一 運送品の種類
二 運送品の容積若しくは重量又は包若しくは個品の数及び運送品の記号 三~十二(省略)」

 ここでいう「運送品の種類」とは、運送品の品名や荷姿のことです。「運送品の容積若しくは重量」とは、運送品の総容積、総重量のことで、梱包毎のものではありません。また、「運送品の記号」とはケースマークのことになります。
(ちなみにヘーグ・ヴィスビー・ルール第3条第3項にも同様の船荷証券の記載事項に関する規定がありますが、同ルールでは「運送品の種類」の記載は求めておりません。)
 以上のことから、貴社が荷主から追記を求められている3つの情報については、商法で規定されていない、運送書類に特に記載を求められていない事項であることの確認ができました。
 これらの規定に基づき、運送書類に記載を求められていない情報については、記載内容を制限、禁止するものではありません。
 それではこのような情報を記載することで、貴社がどのようなリスクを負うこととなるのか確認してみましょう。
 商法には「船荷証券の不実記載」として以下の規定があります。

商法第760条
「運送人は、船荷証券の記載が事実と異なることをもって善意の所持人に対抗することができない。」

 上記条文によれば、船荷証券が善意の第三者に譲渡されたときは、当該第三者に対しては、記載事項は荷主の指示によるものであるといった反論ができないというリスクを貴社は負うことになります。

 それでは、ご質問の3つの具体例についてそれぞれ想定されるリスクを見ていきましょう。
①インボイス価格を記載することについては、JIFFA MT B/Lには裏面約款第18条(高価品)及び第23条第3項(責任の限度)に基づき申告される価格の記載欄(Merchant's Declared Value)があります。この価格の記載欄に価格が記載された場合は、裏面約款第23条に規定する運送人の責任限度額が適用されないことになります。もし、この価格の記載欄がブランクで、後日貨物損害に関する荷主からのクレームが発生し、このDescription of Goods欄に記載した金額が上述した二つの何れかの約款に基づき申告された価額であると荷主が主張した場合、運送人の責任限度額が適用されなくなる可能性が考えられます。また、着地での輸入申告価格と異なる金額を記載する可能性もあり、この場合、輸入通関においてどのように取り扱われるか不透明といえます。さらに、L/C決済の場合、買取条件とのディスクレが発生するリスクも高まります。
②リーファーコンテナの設定温度についても、後日このDescription of Goods欄に記載した設定温度と異なる温度で実際に運ばれていたことが判明すると、それだけで荷主から貨物損害のクレームを受けることになる可能性があります。その理由について説明します。
JIFFA MT B/L裏面約款第17条第2項では、以下のとおり定めています。
第17条(温度調節を要する運送品)
(2)運送人は、運送の開始前又は開始時に効率の良い状態に温度調節コンテナを維持するために十分な注意を尽くした場合には、コンテナの温度調節機械、装置、断熱材の隠された瑕疵、故障、不調、停止又は機能低下により生ずる運送品の滅失又は損傷については、一切責任を負わない。

つまり、運送人は発航時にReefer貨物を引き受ける状態にしておけば足り、航海中にコンテナに不具合を生じた場合においても、本船側に当該コンテナの温度を維持させる修理義務はありません。しかし、Description of Goods欄へ設定温度を記載すると、上記第17条第2項に優先する特約と見なされ、運送人は運送中もコンテナを設定温度に保つ義務を引き受けたと荷主から主張されるおそれがあります。
③梱包毎の重量についても同様ですが、運送書類に記載する総重量、Packing List記載の重量、或いは輸入通関で申告する重量などとの齟齬が生じ、そのため貴社がトラブルに巻き込まれる可能性があります。
 以上のことから、国際海上物品運送法で特に記載を求められていない情報を記載することで運送人である貴社においては、記載された情報について責任を負う場合があること、一方、荷主においても他の書類との齟齬が生じることによる通関、決済上のトラブルに巻き込まれる可能性があることが分かりました。

 それでは、次にリスク対策について検討してみましょう。
 まず、JIFFA MT B/Lの約款を見てみましょう。

表面約款(不知約款)
「明細は荷主が提供したものである。ここの全記載事項については、運送人は、不知である。」

裏面約款第3条第1項
「本運送証券は、荷送人が通告した記号、番号、数量、重量及び容積に基づいて発行され、荷送人は、運送人が運送品を受け取ったときに、運送品の中身及び明細が正確かつ適正であることを保証したものとみなす。荷送人は、かかる明細が不正確であること、不適当であること及び/又は不十分であることにより、運送人が被る損失、損害及び費用を補償するものとする。運送人の当該補償請求権は、荷送人以外の者に対し、運送人が本運送証券の下で負う義務及び責任をなんら制限するものではない。」

 表面約款において、券面記載の明細は、荷主が提供したもので運送人は不知であること、及び裏面約款第3条第1項において、荷送人が運送品の中身及び明細が正確・適正であることを保証し、その明細が不正確等により運送人が損害を被った場合の荷送人の補償義務を定めています。JIFFA MT B/Lのこれらの約款により、券面記載の明細について運送人が責任を負った場合でも、荷送人に対し賠償請求することが出来ます。

 次に貴社がとるべきリスク対策としては、(i)“Shipper's desire(request)to state ~”といった文言も併せて記載することを条件として受けること、更に(ii)荷主から運送人に対して一切迷惑をかけないことを約束する補償状(Letter of Indemnity)の提出を求めることが挙げられます。
 また、その他の個別のリスク対策として、「①インボイス価格」の記載に関しては、JIFFA MT B/L裏面約款第18条(高価品)又は第23条(責任の限度)に基づく荷主による価額申告が無い場合は、価格の申告欄に必ず“N.V.D.”(No Value Declaredの意)と記載し、その申告欄をブランクで放置しないようにすべきこと、次いで「②リーファーコンテナの設定温度」を止むを得ず記載する場合に関しては、「ただし、本約款第17条の適用を妨げない」と補償状に追記すべきこと等が挙げられます。

 結論としましては、運送人が船荷証券に記載すべき事項以外の情報を追記すること自体について制約はありませんが、上述したとおり運送人である貴社においては、記載した情報について責任を負う場合があること、一方、荷主においても他の書類との齟齬が生じることによる通関、決済上のトラブルの可能性が増大することになります。そのリスクを十分勘案し、会員各位において追記するかどうか判断していただく必要があります。また、指示のあった記載事項が明らかに虚偽である場合には、その指示に応じないことはもちろんのこと、このような船荷証券に記載すべき事項以外の情報の追記を求めてくる荷主への対応についてあらかじめ社内で定めておくことが必要です。


第85回 230号 2021年1月
    「荷主の義務の履行者について」

質問:
 当社は、JIFFA MT B/L(以下B/L)を使用して、利用運送事業を営んでいるフォワーダーです。私は日本から主としてアジア向けの輸出貨物の集荷を担当していますが、今日は、仕向地で長期間引き取られずに留まっている貨物について伺います。
 当社は、大手商社A(以下A社)の輸出貨物の様々な地域への海上輸送を長年に亘り委託されていますが、3ヶ月前に日本からベトナムに向けて船積みした20’ドライコンテナが、荷揚げ後1ヶ月たっても引き取られず、揚地ハイフォンのCYにあると現地代理店から連絡がありました。
 未引き取りとなっている理由を調べたところ、B/L上のConsigneeである現地の雑貨商Bは、資金繰りに行き詰まり倒産してしまい、事務所も閉鎖され連絡がとれなくなっていることが判明しました。
 当該船積みのB/Lは、Shipper名を国内の古着買取業社C(以下C社)として発行されていますが、実際の輸出貨物の船積みについては常にA社と協議し、運賃の支払いもA社が行っております。船積書類についてもA社の指示に従って作成しています。
 そこで、貨物の処分についてA社に相談したところ、この運送書類上のShipperはC社であるから、本件についてA社は関与しない、と言われてしまいました。直ぐにC社に連絡しましたが、零細な個人商店のようで、古着の売却代金も回収できておらず、とても現地の諸費用を支払う余裕すらないと言っています。しかし、このまま放置していては、船会社が当社に請求するDemurrageは加算されるばかりで、何とか早く貨物の処分方法を決めて、コンテナをCYから動かさねばなりません。
 上述しましたように、当社はA社の運送委託については、常に本船スケジュール等の情報を提供し、運賃の取決めや収受、B/Lの交付もA社としてきました。これらの経緯があっても、B/L上のShipperがA社ではないということだけで、未引き取り貨物の処理について関与しないと言い切っていることに納得がいきません。この主張に反論する余地はないでしょうか。

回答:
 ご質問のように、揚地で貨物が引き取られないといったトラブルが発生した際に、本当にA社には責任がないのでしょうか。当協会が平成26年に発刊した「JIFFA 運送書類(2013年改訂版)解説書」を見ますと、JIFFA MT B/Lでは、荷主(Merchant)について裏面約款の第1条で以下の通り定義し、第27条でその責任について規定していますので、二つの条文と解説を確認してみます。

JIFFA MT B/L第1条(定義)
(1)~(5)(省略)
(6)「荷主」とは、荷送人、委託者、荷受人、運送品の所有者、その受取人、本運送証券の所持人並びにそれらの者のために行為をする者をいう。

【解説】「(第1条)第6項の「荷主」には、荷送り人、委託者、荷受人、運送品の所有者、受取人の他に、荷主のために行為する者、例えばフレイト・フォワーダーも含むものである。」

JIFFA MT B/L 第27条(荷主の責任)
(1)(省略)
(2)第1条の荷主の定義に該当する全ての者は、本運送証券に基づき荷主が引き受ける義務一切を履行する責任を連帯して負うものとする。 (3)(省略)

【解説】「(第27条)第2項は、荷主が連帯責任に基づいて、本運送証券上の義務の履行を求めるものである。」

 このように、JIFFA MT B/Lでは荷主を荷送人 (Shipper)や荷受人(Consignee)に限定せず、荷主の義務の履行者をより広く捉えていますので、JIFFA MT B/L裏面約款 第1条 第6項と第27条 第2項により、貴社がA社に対し、荷主として当該貨物の処分について連帯して責任を負うよう求めることは可能だと思われます。
 但し、現実的には専門家である貴社顧問弁護士などにご相談の上、運送約款以外の契約も鑑みながらご判断をお願い致します。

第84回 229号 2020年11月
    「Received B/LとOn Board Notationについて」

質問:
 当社は、JIFFA MT B/Lを発行しているNVOCCです。
 顧客のメーカーA社は、毎週シンガポール向けにコンテナ貨物を出荷しており、当社は顧客の要請に応じて、本船出港確認後にOn Board B/Lを発行してきました。
 最近のことですが、もともと10月31日に出港予定であった本船の動静が11月1日出港に遅れたため、顧客から「10月をOn Board Date とするB/Lを発行できないか」との問い合わせを受けました。ちなみに、コンテナ貨物は10月30日にCYへ搬入されています。
 当社は当然のことながら、船積日の異なるOn Board B/L発行は虚偽記載で違法となり応じられないが、CY搬入日を発行日とするReceived B/Lの発行は可能であることを伝え、10月30日を発行日とするReceived B/Lを発行しました。
 その後、A社から「輸入者のB社が、『このままでは記載された本船に確実に積載されたことにならず、本船のシンガポール到着後、貨物が引き取れないと困るので、On Board B/Lを送達するよう』言ってきた。ついては、On Board B/Lに替えてほしい。」との連絡がありました。
 そこで、当社はReceived B/Lオリジナル全通のOn Board Notation欄に本船名、船積港名、船積日および権限のある者のサインを加筆して交付しました。その際、B/L発行日は10月30日のままにしています。当社の一連の手続きはこれで正しかったでしょうか。
 また、Received B/Lの存在を初めて知ったA社から、「米国シカゴCY受け、米西岸積み、東京CY渡しの輸送(取引条件はFCA Chicago)も貴社にお願いしているが、今後、シカゴCY受け後、速やかにReceived B/Lを発行するよう貴社の米国代理店に伝えてほしい。本船出港後のOn Board B/Lはいつも東京入港の直前にしか届かず、業務に余裕がないので。」と要請されました。しかしながら、シカゴから米西岸までは一定の日数を要し、Received B/Lに記載の本船へ積載される確証がないため、そのようなB/Lを発行してリスクがないか不安になるのですが、留意点があれば教えてください。

回答:
 ご質問ありがとうございます。
 ご質問についてJIFFA MT B/Lに則して、以下ご説明いたします。

 まず、貴社が荷送人にReceived B/Lを全通提出させ、On Board NotationをしてOn Board B/Lに変更されたのは正しい手順です。また、B/L発行日を10月30日のままOn Board Notationを施したことも適切な対応です。Received B/Lにおいて、この日付は、運送契約の開始日であり運送責任の始点となりうる重要な日付であり変える必要はありません。
 当協会が平成26年に発刊した「JIFFA運送書類(2013年改訂版)解説書」8〜9ページでは、船積船荷証券と受取船荷証券について以下の通り説明しています。

(2)船積船荷証券と受取船荷証券
A.船積船荷証券(Shipped B/L 又はOn Board B/L)
 貨物の船積みが確認された時点で発行される。船荷証券の表面に、“Shipped on board the good~”といった書き出しで印刷されている。在来貨物を対象とするMarine Bill of Lading又は Ocean Bill of Ladingはこのタイプが一般的である。
B.受取船荷証券(Received B/L)
 船積み予定貨物を受け取ったことが確認された時点で発行するタイプである。
 船荷証券面上に“Received the Goods~”と印刷されている。複合運送証券(MT B/L又はCT B/L) はこの形式がほとんどである。JIFFA MT B/LもReceived B/Lの体裁を有している。コンテナ化の進展とともに、内陸地で貨物を受領し、通し輸送を請け負うことが多くなったことから、このタイプの船荷証券発行が増えた。Received B/L書式の表面左側の最下部に“Laden on Board the Vessel”と記載された欄があり、“Vessel, Port of Loading, Date, By”と記載されたスペースがある。これはOn Board Notation(積込済の付記)と云われるものであり、この欄に必要事項を記載し運送人が署名することで、船積船荷証券(Shipped B/L又はOn Board B/L)になる。

 また、当協会が平成27年に発刊した『JIFFA運送書類の作成と発行の手引』17ページ中段では、積込済みの付記をすることによりReceived B/LはOn Board B/Lとなることについて次のように解説しています。

 JIFFA運送書類の表面右上、運送人のロゴと社名の直後に英文で、「運送人は運送品を外観上良好な状態で荷送人から受け取った…(英文は“Received by the Carrier from the Shipper in apparent good order and conditions…”)」で始まる「受取確認約款」が記載されています。この約款において「受け取った」(Received)が示すように、JIFFA運送書類は、運送人が物品を受け取ったことを示す「受取MT B/L」または「受取WAYBILL」です。それが積込済みの付記により「船積MT B/L」又は「船積WAYBILL」になります。
 これを裏付けるように、平成31年4月1日施行された『商法』第757条および第758条では、以下のように規定されています。

第757条 第2項
 受取船荷証券が交付された場合には、受取船荷証券の全部と引換えでなければ、船積船荷証券の交付を請求することができない。

第758条 第2項
 受取船荷証券と引換えに船積船荷証券の交付の請求があったときは、その受取船荷証券に船積みがあった旨を記載し、かつ、署名し、又は記名押印して、船積船荷証券の作成に代えることができる。この場合においては、前項第七号及び第八号に掲げる事項をも記載しなければならない。
*下線註:「前項第七号及び第八号に掲げる事項」とは、「船舶の名称」並びに「船積港及び船積みの年月日」を指す。

 そして、この船荷証券に関する規定は、JIFFA MT B/Lなどの複合運送証券にも運用されることが第769条で以下のように規定されています。

第769条 第2項
 第757条第2項及び第758条から前条までの規定は、複合運送証券について準用する。(以下省略)

 JIFFA MT B/Lが至上約款とする『国際海上物品運送法』は、この『商法』の条文を適用する旨、定めています(第15条「商法の適用」)。

 さて、次に、「Received B/Lは貨物の受取りを証するだけで、本船積みの証明にならないから、そのままでは着地で貨物が引き取れない恐れがある」とのことですが、その心配はないと思います。B/Lである以上、“貨物引換証”の機能およびそれ以外の機能をも備えているので、着地で荷受人からReceived B/Lを提示されたらOn Board Notationの記載の有無にかかわらず、運送人は貨物をB/L所持人に引き渡さなければなりません。その意味では、貨物引取り上の懸念だけが理由であれば、Received B/LをOn Board B/Lに替える必要はなかったと言えます。Received B/Lに記載されている本船はあくまで“予定本船”という位置付けになり、必ずしも確定本船とはなりませんが、上述の通り貨物が引き渡される旨は、事前に荷主及び荷主を通して荷受人にもご理解いただくよう説明してください。

 また、代金決済をL/C決裁で行う場合には、L/Cの要求内容と齟齬がないかを、客先を通じて事前に関係する銀行の確認を取ることが必要です。

第83回 228号 2020年9月
    『JIFFA相互代理店契約標準書式(2016)における準拠法規定について』

質問:
 当社は、海外代理店ネットワークを拡充中です。新たな代理店候補と契約締結する際、JIFFAが2016年2月に制定した「相互代理店契約標準書式(2016)」を相手に提示し、その内容で代理店契約を締結することを基本方針としています。

 本書式の第16条で準拠法を日本法と定めていることに、海外代理店候補が納得しないことが時々あります。先々月、シンガポールの有力フォワーダーと相互代理店契約締結に向けて交渉しました。すべて順調に交渉が進展していると思っていたのですが、最後の段階で、相手は日本法のことは全く分からないので、準拠法はぜひシンガポール法にしてほしいと言い出しました。

 突然の申し出だったので、どのように対処すべきか社内で議論するも、良い解決策が見いだせないまま日数が経過してしまいました。しびれを切らした相手から、当社との代理店契約交渉を打ち切り、第2の候補と考えていた別の日本のフォワーダーと交渉する旨、文書で通告されてしまいました。このシンガポールのフォワーダーは、日本~シンガポール航路で、当社の2倍以上の支配貨物量を持っており、ぜひ代理店契約を締結したいと思っていたので、大変悔しく思っています。

 今後の代理店契約交渉に備えるために、準拠法についてどのように考えるのが良いのか、アドバイスをお願いします。

回答:
 JIFFA相互代理店契約標準書式(2016)第16条は、「本契約は、日本国の法律に準拠し解釈されるものとする」と規定し、同書式により締結された相互代理店契約の準拠法を日本法と定めています。準拠法とは、私人間の国際的な法律関係が問題となった場合の、判断基準として選択及び適用される法です。同標準書式では、準拠法を日本法としているため、契約書にかかる法律問題に関しては、日本法に従い解釈されることになります。

 このように同書式が日本法を準拠法としているのは、JIFFA会員が一方の当事者として契約締結することを前提にしており、会員にとって理解が可能であるからです。このように準拠法は、契約の解釈の基準となる重要なものです。これに加え他国法を準拠法とすると、日本法に比し、どのような解釈や効果が生じることになるかが明らかでないことも想定されることから、代理店契約交渉においては、準拠法は日本法とまず主張すべきでしょう。

 他方、海外の代理店候補は準拠法として、自らが理解しやすい自国法を主張することが少なくないのが実情と思われますので、その場合どのように対処するのが良いか、色々な考えがあると思いますが、以下に一つの考えを示したいと思います。

 代理店を選定しようとする国と日本を結ぶ航路で、貴社が支配するする貨物量と、代理店候補が支配する貨物量を比較して、貴社の方がはるかに多い場合、日本法を強く主張するのが得策です。相互代理店契約は、基本的に貴社と代理店候補との力関係、簡単に言えば、現時点での貴社と代理店候補の支配貨物量の違いと今後の貨物量の予想見込みが、強く反映されるのが通例です。

 ある国の代理店候補が、準拠法を自国法とするよう強く主張しているが、その候補は貴社より支配貨物量がはるかに多いので、代理店契約をぜひ締結したいと貴社が思われる場合を考えてみます。代理店候補の所在国が、英米法の先進国(英国、米国、シンガポールなど)であれば、その国(米国の場合は州)の法律を、準拠法としても特段の問題はないと考えます。他国法であっても英米法の考えは、日本では弁護士を介するなどして、比較的容易に知ることができるためです。さらにJIFFAの相互代理店契約標準書式は、準拠法を日本法としていますが、各条項は、英国人と米国人の弁護士がじっくり目を通し、英米法の考え方も加味して作成されたものです。また、欧州の先進国等の場合は、英米法と同様、日本において弁護士を介するなどして、当該国の法律を比較的容易に知ることができ、同じことが言えると思います。

 注意したいのは、発展途上国、特に最近代理店のニーズが高まっている国、例えばインドの代理店候補との契約交渉です。発展途上国の法律を準拠法とすることは、その内容を日本で把握するのが、一般的に容易でなく、さらに法制度が整備されていないことが多いので、特に注意が必要です。このような場合、両当事者が、共に納得できる第3国の法律を準拠法とすることがあります。例えばインドの代理店との契約では、インドと地理的にも比較的近く、インド人にとってもインド系住人が多いことから親しみを感じるシンガポール法を準拠法とすることを提案すると、同意が得られる場合があるようです。他方、多くのJIFFA会員にとって、シンガポールはビジネスの関係が深く、シンガポール法にもある程度馴染みがあるとのではないかと思われます。

 準拠法規定において、JIFFA会員としては日本法を主張し、相手も自国法を主張して交渉がまとまらない場合、準拠法規定を定めないことも稀にあるようです。これは法的には可能ですが、契約の解釈に当事者間で争いが生じた場合に解釈基準がないという予測困難性の問題が生じるので避けるべきと考えます。

 上記に述べたことは、貴社及び会員のご参考に供するための一般的な助言であり、個別の相互代理店契約交渉においては、必要に応じ海事弁護士にご相談されることをお勧めします。特に日本法以外を準拠法とする場合は、当該外国法に精通した弁護士に相互代理店契約の内容のチェックを受けるようにして下さい。

第82回 227号 2020年7月
    『台風により受託貨物が損害を被った場合のフォワーダーの責任と事前対策』

質問:
 当社は、JIFFA MT B/Lを発行して利用運送事業を行っています。
 近年、台風や集中豪雨などの発生件数が顕著に増加しており、特に台風による被害が激甚化しているという話をよく耳にします。実際に当社でも、神戸港、大阪港に冠水被害をもたらした2018年の台風21号、そして、関東・甲信・東北地方に甚大な被害をもたらした2019年の台風19号において、荷主から積港CY受で受託した輸出コンテナ貨物の水濡れ被害を経験しました。これを踏まえて、今年の台風への対応を万全なものにすべく、今から社内で対応を検討していますが、分からない点がありましたので質問します。

 当社は、2018年、2019年の台風による高潮等で受託貨物に損害を被った荷主に対しては、当社が契約している貨物賠償責任保険会社と相談の上、「当社は運送人としての落ち度もないため、受託貨物の損害については賠償できない」と説明し、多くの荷主から理解を得ることができました。しかしながら、一部の荷主からは「フォワーダーに預けている間の事故だから当然賠償すべきだ」と強硬に主張されたり、「貨物保険も入っておらず損害額も大きいので、何とか賠償してほしい」と泣きつかれたりされました。

 当社としても、本来、法律上ではどのような責任を負うのか確たる見解を持っていなかったのですが、実際のところ、当社は法律上、運送人として責任を負うのでしょうか。また、こうした荷主の強硬な要請を無くすために、運送人として取ることのできる事前の対策はあるのでしょうか。

回答:
 ご質問ありがとうございます。近年、自然災害が顕著に増加し、かつ激甚化していることから、同様の課題を持っている物流企業も少なくないと認識しています。

 さて、まずは1点目の質問の、台風による高潮等で受託貨物が損害を被った場合に、貴社が法律上、運送人として責任を負うのかどうか、について確認をしていきます。

 輸出貨物が出荷主から運送人であるに貴社に引き渡され、船積みを待つ間に、台風による高潮等で貨物が損害を被ったのであれば、貴社が発行するJIFFA MT B/Lの責任区間内となります。そこで、運送人としての貴社の責任を規定したJIFFA MT B/Lの裏面約款の規定について確認していきます。JIFFA MT B/Lの裏面約款第22条には運送人の責任について規定されています。

第22条 運送人の責任(抜粋)
(1)運送人は、運送のために運送品を受け取ったときから引渡時までの間に生じた運送品の滅失又は損傷について、以下に述べる範囲で責任を負うものとする。 (2)運送人は、滅失、損傷または引渡しの遅延が次の事由により生じたものであるときは、滅失又は損傷の責任を免除される。 (a)荷主の故意又は過失
(中略)
(h)運送人が避けることができない原因又は事件であって、相当な注意を尽くしても、その発生を防ぐことができない結果。

 従って、台風による高潮等を原因とする貨物の損害については、JIFFA MT B/Lの裏面約款第22条(2)(h)に該当する可能性が高いと思われ、受託貨物の損害について運送人として責任を負わないものと考えられます。
 しかしながら、実際に荷主と係争になった場合は、台風による損害が第22条(2)(h)に該当することについて、貴社が立証する必要があります。この立証は容易でない場合もあることから、台風による損害であっても一定の賠償リスクがあることも合わせて理解しておく必要があります。

 続いて、2点目の質問の、荷主の強硬な要請を無くすために、運送人として取ることのできる事前の対策について確認していきます。

 上述のとおり、台風などの自然災害によって受託貨物が損害を被った場合は、運送人としては責任を負わないと主張できる可能性は十分にあります。しかしながら、荷主は貴社の顧客です。争いではなく、円満に解決できることに越したことはありません。

 円満に解決するための一つの案としては、荷主への事前の説明です。荷主への事前の説明がなければ、事故後、トラブルになったり、荷主から強硬な要請を受けることに繋がります。事故が発生する前のタイミングで、次のように荷主へ事前の説明を行うと、荷主から理解が得られやすくなりますのでご参考にしてください。
 まずは、上述のJIFFA MT B/Lの裏面約款第22条の規定に沿って、台風などの自然災害による受託貨物の損害は、運送人として責任を負わない旨を説明します。続いて、運送人から補償を受けられないことを知った荷主に対して、顕著に増加する自然災害リスクに備えて、貨物保険に加入しておくことを提案・助言します。ここで特に注意していただきたいのは、無保険の荷主です。無保険の荷主は、自然災害で自社の貨物が損害を被った場合、運送人に賠償を求める可能性が高まりますので、上述の事前の説明をしっかりと行うことが重要です。

 こうすることで、仮にこの後、台風により受託貨物が損傷した場合でも、「事前に運送人から責任を負わないことの説明を受けていたから運送人に無理強いはできない」、「(荷主が助言を受けても貨物保険に加入しなかった場合)助言に従って貨物保険に入っておけば良かった」と荷主が考える可能性が高まり、荷主の強硬な要請が減少することが期待されます。

 なお、ここで見落としやすいのが、貿易条件がFOBやCFRで貨物を日本から輸出する荷主です。FOBやCFRでは、船積みするまでは出荷主の危険負担で、船積みするまでの保険手配も出荷主にて行う必要があります。しかしながら、船積みするまでの日本国内の運送保険(貨物保険)は十分に荷主に普及しているとは言えず、実態として無保険の荷主が一定数存在します。こうした点も踏まえて、無保険の荷主など、リスクが高そうな荷主に対して、優先的に事前の説明を行っていくことをお勧めします。

第81回 226号 2020年5月
    『JIFFA MT B/L, WAYBILL上のMerchant' s Declared Value欄について』

質問:
 当社は貴協会の会員としてJIFFA MT B/LやJIFFA WAYBILLを発行しNVOCC業務を行っておりますが、私は最近NVOCC業務を行っている部署に配属され、現在運送書類の作成について勉強中の身です。その中でいつも疑問に思っていることがありますので質問させて頂きます。

 JIFFA MT B/LとJIFFA WAYBILLの表面に“Merchant' s Declared Value(See Clauses 18 & 23)”と記載された欄があるのですが、私が当部署に配属されてからここに何か記載することがなく、いつもこの欄はブランクになっております。この欄は一体何の為にあり、当社のように常時ブランクにしておいて構わないものなのか、ご教示のほど宜しくお願い致します。

回答:
 最近NVOCC業務の部署に配属されたそうですが、NVOCCの業務は覚えることがたくさんありますので、さぞかしご多忙の毎日を送っておられることと思います。今回疑問に思われたポイントは普段見過ごされがちなことですが、実は重要なことになりますので、今後の為にしっかりとした知識を身に着けて頂きたいと思います。

 “Merchant' s Declared Value(See Clauses 18 & 23)”と記載された欄を和訳すると「荷主の申告価額(第18条及び23条参照)」となり、荷主から書面で運送品の価額の申告があり、NVOCCが当該輸送を引き受けた場合、ここに申告された価額が記載されることになります。貴社の場合いつもこの欄は空欄になっているとのことなので、それは一般的には荷主からの書面による価額の申告がなかったことを意味すると考えられるでしょう。但し、可能性は非常に低いでしょうが、荷主が価額の申告をしたにもかかわらず、NVOCCの社内連絡ミス等で、価額申告欄が空欄になったまま運送書類が発行され、輸送事故発生後、荷主より高価品と申告したとクレームされる余地が残りそうです。空欄のままは、この後に説明しますが、非常に危険です。
それではこの欄における荷主による申告価額の記載の有無で何が異なるのか、当欄に参照として記載されておりますJIFFA MT B/L・JIFFA WAYBILL約款の第18条と第23条の条文を確認してみましょう。尚、当約款の正文は英語表記でありますが、ご理解しやすいように和訳文で条文を表記致します。

第18条「高価品」
「運送人は、白金、金、銀、宝石、貴金属、放射性同位元素、高価な化学物質、金銀塊、正金、通貨、流通証券、有価証券、作品、文書、絵画、刺繍品、芸術品、骨董品、相続財産、あらゆる種類の蒐集品又は荷主のみにとり特別な価値のある物品を含めたすべての高価品の滅失又は損傷について、それらの真実の種類及び価値が運送品の受取りに先立って荷主により書面で通告され、本運送証券(本運送状)の表面に記載され、かつ、それについての従価運賃が前払いされているのでなければ、運送人は、一切の責任を負わない。」
第23条「責任の限度」(抜粋)
「(2)運送人は、いかなる場合であっても、その原因のいかんにかかわらず、1包又は1単位当たり666.67計算単位、又は滅失又は損傷した物品の総重量の1kg当たり2計算単位に相当する金額のうち、いずれか高い金額を超える運送品に係る一切の滅失又は損傷について責任を負わないものとする。
(3)本条に定める限度を超える賠償額は、運送人の同意を得て運送の開始に先立ち、荷送人により通告された運送品の価額が本運送証券(本運送状)の表面の所定欄に記載され、かつ割増運賃が支払われた場合に限り請求することができ、その場合には通告価額が限度となり、一部の滅失又は損傷は、通告価額に基づいて、滅失又は損傷の割合に比例して精算される。」

 両条文に出てきます「本運送証券(本運送状)の表面(の所定欄)」とは、この“Merchant' s Declared Value(See Clauses 18 & 23)”欄を指しております。

 第18条は、荷主が本条に記載されているような高価品の輸送を運送人に委託するにあたり、その真実の価額が引渡し前に書面にて運送人に通知された上でこの欄に記載され、かつその従価運賃が前払いされていなければ、その高価品の滅失・損傷について荷主は運送人に対して一切の損害賠償を求められなくなると規定しております。

 次に第23条においては、第2項に運送人の賠償限度額が規定されており、第3項では、この限度額を超える運送品の価額が、運送人の同意を得て事前に運送人に通告され、この欄に記載され、且つその価額に見合った割増運賃(第18条の従価運賃に当たる)が支払われた場合に限り、荷主はその限度額を超える賠償額を請求できると規定しております。この規定の背景には、次のような事情があるとされています。

 米国内では、第18条や第23条のような責任制限約款により運送人の責任を減免するためには、運送人は荷主に対して「料率選択権」を付与しなければならないという考え方が判例などで支持されています。すなわち、運送品に事故があるときは、「実価に基づいて賠償を受けられる運賃料率」と「賠償額が一定限度を超えないことを条件とする運賃料率」の選択権を付与することが、責任制限約款が有効に成立するための要件とされています。ここでいう「実価に基づいて賠償を受けられる運賃料率」とは、第18条の「従価運賃」、第23条の「割増運賃」のことであります。そこで運送人として荷主に対して「料率選択権」を付与していることを明らかにするために、JIFFA MT B/L・JIFFA WAYBILL表面約款では“Merchant' s Declared Value(See Clauses 18 & 23)”欄の右横に次の文言が記載されています。

“Note”(価額申告の備考欄)
「本運送証券(本運送状)第18条及び第23条の規定により、運送人の責任は多くの場合、運送品の滅失または損傷について減免されている事実について荷主の注意を喚起する。」
 この“Note”は左横の“Merchant' s Declared Value(See Clauses 18 & 23)”欄と合わせて「合意価額約款」と呼ばれ、荷主に対して、運送品の滅失または損傷に関する運送人の責任を具体的に記載している裏面約款の第18条(高価品)と第23条(責任の限度)を参照するように注意を喚起しています。

 それでは、荷主から特に高価品の通告や価額の申告が無かった場合や、荷主が「賠償額が一定限度を超えないことを条件とする運賃料率」を選択した場合にこの“Merchant' s Declared Value”欄はどうしたら良いでしょうか?

 その場合には、貴社のようにこの欄を空欄にしておくのではなく、必ず“NVD”もしくは“N.V.D.”と表記するようにしましょう。“NVD”とは“No Value Declared”の略で、荷主から価額の申告がなかったという意味になります。“NVD”と表記することは荷主による書面で価額の申告がなかったことの一つの証拠となりますし、また、後日誰かに作為的に価額を記載されることもこれで防ぐことができます。

 最後にご参考まで2019年4月に改正商法が施行され、その中で高価品の特則の適用除外規定が新たに導入されましたので、該当する条文を以下に紹介しておきます。

改正商法 第577条
「貨幣、有価証券その他の高価品については、荷送人が運送を委託するに当たりその種類及び価額を通知した場合を除き、運送人は、その損失、損傷又は延着について損害賠償の責任を負わない。
2.前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 物品運送契約の締結の当時、運送品が高価品であることを運送人が知っていたとき。
二 運送人の故意又は重大な過失によって高価品の滅失、損傷又は延着が生じたとき。」

第80回 225号 2020年3月
    『商法改正に伴い、JIFFA MT B/L 又はWAYBILLを発行して
    危険物輸送をする場合に、注意すべきこと』

質問:
 このたび、商法が改正され、危険物に関する規定が新設されたとのことですが、当社では、荷主から危険物の輸送を依頼された際の社内手続きを定めて、これまで危険物輸送を取り扱ってきました。

 化学品や化学物質を含んだ貨物については、安全データシート、すなわちSDS(Safety Data Sheet)を提出いただくなど、貨物の性質等の情報を確認した上で、受託の可否を判断しております。

 危険物の海上輸送に伴うリスクを考え、当社の業務は原則として船会社への取次とし、船会社に当社荷主に対して、Ocean B/L又はWAYBILLの発行を依頼することとしていますが、危険度が比較的低いと考える危険物、特に取引上重要な荷主の危険物については、当社でJIFFA MT B/L又はWAYBILLを発行し、輸送することもあります。

 JIFFA MT B/L又はWAYBILL発行による危険物の輸送について、今回の商法改正により注意すべきことをお教えください。

回答:
 2019年4月1日、「商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律」が施行され、ご質問のとおり商法第572条に危険物に関する規定が新設され、荷送人の運送人に対する通知義務が定められました。

 この規定は、荷送人は貨物を運送人に引き渡す前に危険物の品名、性質、その他当該貨物を安全に運送するために必要な情報を通知しなければならないとするものです。

 商法は、1899年(明治32年)に制定されてから約120年間にわたり実質的なルールの見直しがほとんど行われておらず、この間の社会情勢の変化に対応するため、このたびの改正となり、運送・海商(海運業など)に関するルールが見直されるとともに、カタカナ文語体表記が現代用語化されました。科学技術の発展に伴い危険物の種類が多様化し、また危険物の取扱いが困難になる一方で、船舶の大型化による大量輸送が行われ、運送途上で危険物の取扱いを誤り事故が発生した場合の損害は計り知れないのが現状です。運送人が運送上適切な取扱いをするためには、荷送人が貨物情報を事前に通知することが不可欠となりますが、商法には何ら規定が置かれていませんでした。

 このような背景から今回の改正で、荷送人の危険物に関する情報の事前通知義務が新設され、また、これに伴い、この義務に違反して危険物に関する通知をしなかったことにより事故が発生し運送人に損害が発生した場合は、荷主はその損害を賠償する責任を負うことになります。ただし、荷送人が、落ち度のないことを証明した場合は、賠償責任を負うことはありません。

 以上が改正の背景、内容ですが、これらの規定は、JIFFA MT B/L及びWAYBILL約款第12条において、すでに同様の趣旨の規定が置かれているとともに、船会社が発行するOcean B/LやWAYBILLにおいても同様の規定が置かれています。したがって、実務上は、商法改正により大きな変更はないことになります。
 ただし、注意すべき点としては、フォワーダーがNVOCCとして、JIFFA MT B/LやWAYBLLLを発行した場合、商法における荷送人に該当するということです。つまり、貴社は船会社に貨物を引き渡す前に危険物である旨及びその性質等について通知しなければならないということです。また、通知に関し落ち度のないことが求められますので、荷主から危険物の性質に関する情報を入手すること、さらに化学品や化学物質を含む危険物の場合は、安全データシート(SDS)を確実に取り付けるとともに、貴社から船会社に対しても記録に残る方法で通知することが肝要です。

 なお、通知義務のある危険物については、商法第572条では、「引火性、爆発性その他の危険性を有するもの」と規定していますが、「その他の危険性を有するもの」は、船舶又はその他積み合わせ貨物に損害を与える可能性のある物品全般を指す、と言われていますので、この点、貴社から荷主に十分説明し、理解して頂いた上で、通知義務を果たすことが必要です。

(参考)
●商法 第572条(危険物に関する通知義務)
荷送人は、運送品が引火性、爆発性その他の危険性を有するものであるときは、その引渡しの前に、運送人に対し、その旨及び当該運送品の品名、性質その他の当該運送品の安全な運送に必要な情報を通知しなければならない。
●JIFFA MT B/L及びWAYBILL約款 第12条
危険品及び禁制品(抜粋)
(1)荷主は、運送品の種類を書面により運送人に事前に通知し、運送人の書面による明確な同意を得て、かつ、運送品又はコンテナその他の包装の外面に法律、規則若しくは危険物の運送に関する国際条約の定める表示をしなければ、危険性、可燃性、放射性又は破壊性のある運送品を運送のために提出してはならない。
(4)荷主が運送品の性質を承知していると否とを問わず、荷主は、当該運送品の運送の結果発生する全ての求償、損害賠償若しくは費用又は人体の障害若しくは死亡について、運送人に補償するものとする。

第79回 224号 2020年1月
    「自然災害により貨物が船積港CYで全損となった場合に、
    荷主は運賃負担義務を負うか」

質問:
 当社は、JIFFA MT B/Lを発行して利用運送事業を行っています。
 当社では、近年増加傾向にある自然災害について対応を強化すべく、過去の自然災害事例の振り返りをしています。その中で、2018年9月に発生した台風による貨物浸水事故で気になる事例がありましたので質問します。

 当社は、荷主Aより、20フィートコンテナ1本(貨物:半導体製品)の神戸港CYから台湾の高雄港CYまでの海上輸送を引き受けました。2018年9月に神戸港CYで貨物を受領し、船積みまでCYで保管していたところ、台風により、神戸港CYが冠水し、貨物も全損となりました。
 荷主Aには、貨物の損害は自然災害によるものであり、当社は貨物の損害に対して責任を負わないことを説明し、なんとか理解を得ることができました。しかし、後日、当社は、海上輸送を依頼していた船会社(実運送人)から、当該コンテナの運賃の請求を受けました。
 当社としては、船積み前であり、運賃を支払う義務は無いと考えましたが、船会社から、船会社の発行するB/Lの規定では当社は運賃を支払う義務がある、と言われたため、詳細を確認せず当該運賃を船会社に支払ってしまいました。

 このようなケースでは、当社は船会社に運賃を支払う義務を負うのか、支払う義務を負うのであれば、当社は荷主Aに対しては当該輸送における運賃を請求することができるのか、についてアドバイスをお願いします。

回答:
 まず、貴社が船会社に対して運賃を支払う義務を負うのか、について確認します。

 運賃の支払義務を負っているかは、船会社の発行するB/Lの裏面約款および適用される法令・規則を確認する必要があります。この点、船会社ごとに裏面約款および適用される法令・規則が異なりますが、通常、船会社のB/Lには、「確定取得約款」といわれる、運賃請求権について、運送人が運送品を受け取った時に発生する旨を規定した条項が挿入されています。

 従って、本ケースのように、神戸港CYで貨物が実運送人である船会社に引き渡されたのであれば、適用される法令・規則により、当該条項が無効とならない限りは、貴社は船会社に対して運賃を支払わなければならない可能性が高いと考えられます。

 次に、貴社が荷主Aに対して運賃を請求することができるのか、について確認します。
 貴社が使用しているJIFFA MT B/Lでは、運賃の請求権について次のとおり規定しています。

【JIFFA MT B/Lにおける運賃の請求権に関する規定】
第30条 運賃及び料金(抜粋)
(1)本運送証券の表面に記載された引渡地までの運賃全額は、当該運賃が前払であると又は着払であると記載されているかを問わず、運送品の受取時に全額収受されたものとみなされ、かつ、運送品に係る諸料金は、発生次第運送人に払われなければならない。 (2)運賃及びその他料金について運送人は、その支払いを受けたと否とを問わず、いかなる状況の下においても、航海又は運送が中止、不達成又は放棄となった場合であっても、その請求権を有する。荷主は、運賃及びその他料金を控除、反対請求又は相殺することなく、全額を現金で支払うものとする。(以降省略)

 このように、本回答の冒頭で船会社のB/Lに挿入された「確定取得約款」に触れましたが、JIFFA MT B/Lにも同趣旨の「確定取得約款」を挿入しています。
 第1項の規定は、運賃請求権は、運送人が運送品を受取ったときに発生する旨を規定しており、第2項は、運送人が運賃の支払いを受けたと否とを問わず、荷主は、相殺、反対請求又は、控除なしに全額支払わなければならず、仮に、荷主が運送人に対する反対請求があっても、これと関係なく運賃を全額現金で支払わなければならない旨を規定しています。
*詳細は「JIFFA運送書類(2013年改訂版)解説書」P. 73,74をご参照ください。

 従って、本規定により、神戸港CYで貨物が荷主Aから運送人である貴社に引き渡されたのであれば、貴社は荷主Aに対して運賃を請求する権利を有しているものと考えられます。

 B/Lの規定は上記のとおりではありますが、船積前に貨物が全損となったケースで、荷主に対して運賃を請求することは容易でないとも推察します。従って、いざ、同様の事例が発生した場合は、荷主に丁寧にJIFFA MT B/Lの規定を説明するとともに、船会社との交渉についても検討することが重要と思われます。

 また、運送を引き受ける前の段階から、荷主に運送契約の内容について説明しておくことでトラブルが回避できる場合もありますので、運賃見積の条件として、JIFFA MT B/Lの表面および裏面に記載される約款が運送契約の内容となることを表示しておくなどの対応を検討することも重要です。

第78回 223号 2019年11月
    「ベトナム発日本向けバイヤーズコンソリデーション業務における
    JIFFA MT B/L及びJIFFA FCRの発行について」

質問:
 今般、取引先である商社A(本社東京)より、日本国内のアパレル量販店で販売するアパレル製品を、当社ベトナム現地法人が保有するハイフォンの保税倉庫をハブとして、各ベンダーから納品を受け、量販店向けにコンテナ単位に仕立てて出荷するバイヤーズコンソリデーション業務を獲得しました。
 商社Aとベトナムのベンダーとの間の取引条件はFCA Bonded Warehouse, Haiphongであり、FCA以降に発生する諸費用は全て本邦で、当社が商社Aに請求する事となります。
 業務開始に先立っての商社Aとの協議の中で、下記の通り要請がありました。
・ハイフォンでの船積み確認後に、MT B/Lをハイフォンではなく東京で発行すること。 ・ベトナムの各ベンダーとの速やかな代金決済のため、当社ベトナム現地法人からベンダーにFCR(Forwarder's Cargo Receipt)を発行すること。  つきましては、海外発日本向け案件でのJIFFA MT B/Lの東京での発行、ベトナムでのJIFFA FCRの発行の注意点などについてご教示いただきたく、宜しくお願い致します。

回答:
 まず、貴社が貨物の引き受け地であるベトナムではなく、東京で商社AにJIFFA MT B/Lを発行する事の適否について考えてみましょう。運送書類は、運送人が貨物の引受国で発行する事が一般的ですが、今回の様に、ベトナム発日本向け海上運送に対して東京でJIFFA MT B/Lを発行する場合、予め、船積み明細等の変更の有無を含めた船積みに関する情報を確実に入手し、更に確実に船積みされたかの確認および記録のうえで対応する事が重要です。東京で発行したJIFFA MT B/Lが、万が一、後日不正確であった事が判明した場合、大きなトラブルに繋がりかねませんので充分に注意してください。

 次に、JIFFA FCRをベトナムで貴社現地法人が発行する際の注意点について考えてみましょう。ご質問のケースでは幾つかの注意点がありますので、一般的なFCR発行の注意点と共に以下に説明します。
1.JIFFA FCRの署名欄には、「As Forwarder」として、JIFFA会員(貴社)の英文社名が予め印刷されています。ベトナムでJIFFA FCRを発行する際、貴社英文社名の直後に貴社ベトナム現地法人名を記載し、その下に、その責任者が署名、更にその下に「As Agent for the Forwarder」と記載する事で、発行者である貴社ベトナム現地法人の立場を明確にする事ができます。 2.JIFFA FCR発行後も、発行を受けたベンダーが、例えば商社Aからの代金入金滞納等の理由で、JIFFA FCRを貴社ベトナム現地法人に提示し、貨物の返却を要求してくるなど、貴社が受託した物流ビジネスに関係のない商流でのトラブルに巻き込まれる危険性がある事には留意が必要です。 3.その様なリスクを避けるために重要な事が二つあります。  一つめは、顧客よりFCRの発行を伴う業務を依頼されたら、その顧客の信用状態に不安がないことをまず確認することです。信用状態に少しでも不安がある顧客とは、FCRを発行する仕組みを構築するべきではありません。FCRは、単なる貨物の受領書であり、MT B/Lのような有価証券や権利証券ではありません。そのため、顧客の信用度が十分でないのに、貴社(JIFFA会員)がFCRを発行する仕組みを構築すると、貴社が、物流費を回収できなくなるだけでなく、FCRを受け取ったベンダーも代金を回収できなくなるリスクが高まります。
 二つ目は、顧客の信用状態に不安がないことを確認した上で業務を開始したとしても、開始後に信用状態に変化が生じる可能性もありますので、業務開始の前に、「FCRとは、顧客(商社A)との取り消しできない事前の取り決めに基づき、フォワーダー(貴社ベトナム現地法人)が指定場所(ハイフォン)において納入業者等(ベンダー)より、貨物を船積み手配のために受け取った事を証する貨物受領書」である事をベンダーに正しく理解して戴くため、予め貴社から商社Aとベンダーに対して、FCRの性格をよく説明し、その内容を理解した旨の書状にベンダーが署名したものを、商社A経由または貴社が直接取り付けておく事で、ベンダーがFCRの性格を万一誤解したとしてもそれに起因するトラブルを防止する事ができます。ご参考までに、顧客が、FCRの性格をなかなか理解できないなかで、ベンダーからの書状取り付けを顧客に依頼してもうまくいかないのが実態ですので、貴社(JIFFA会員企業)が顧客の了解と口添えを得て、ベンダーから直接入手する事が現実的な手法でしょう。
(*)JIFFA発刊「やさしいJIFFA FCRの手引」P.J17, J18の書状のサンプル、参考和訳をご参照ください。
4.今回の受託では、顧客の信用状態に全く不安が無いことが前提となりますが、業務を今後続けていく過程で、商社A及びその顧客である量販店の信用状態に変化がないか、絶えず注意を払うことが重要です。入金の遅れや支払いサイトの延長要請などがあった場合、その理由を問い、納得できない理由であれば、取引をやめる等の措置が必要でしょう。 5.また、商社Aの顧客である量販店の販売動向、ベンダー企業に関する機密情報を取り扱う事となります。貴社および貴社ベトナム現地法人がそういった情報を不適切に管理する事によって機密情報が漏えいする様な事があれば、貴社はこれらの企業から巨額の損害賠償を請求される可能性があります。従って、貴社と貴社ベトナム現地法人は、業務受託の当初から、あらゆる情報の管理に万全を期し、情報漏えいを防ぐ手段を講じておく事が重要です。
 以上説明いたしましたが、JIFFA FCRの約款、活用事例と代金決済機能など、使用方法全般については、前出のJIFFA発刊「やさしいJIFFA FCRの手引」に詳しく記載されています。FCRを発行する業務を受託する前に是非通読ください。なお本手引は、JIFFA事務局で購入できますので、詳細は以下URLをご覧ください。
https://www.jiffa.or.jp/publication/publication.html

第77回 222号 2019年9月
    「輸出国と輸入国が近距離の三国間貿易で、2件のMT B/Lを同時に
    発行できないか。」

質問:
 当社は、JIFFA正会員のフレイトフォワーダーで、外航海運に係る利用運送事業者(NVOCC)として、JIFFA制定のMT B/Lを発行し積極的に利用運送事業を展開しています。長らく営業対象としていた在京の中堅貿易会社A社より、汎用化学品の釜山CYから青島CYへの海上輸送を当社に依頼したいとの内示がこの度ありました。
 貨物量が毎月20フィート・コンテナ7本程度で、3年以上継続の予定とA社より説明を受けました。
 本件は三国間貿易で、A社は、釜山近郊の化学メーカーB社から当該品を調達し、青島郊外にある日系企業の現地法人C社に販売する契約を成約したとのことです。
 当社への発注内示後、早速A社と打ち合わせをしたところ、釜山で青島向コンテナ船に船積み確認され次第、以下に示す2件のMT B/Lを同時に発行するようにとの要請がありました。

 1)1件目のMT B/L(本来最初に発行されるもの)
  荷送人:B社
  荷受人:A社
 2)2件目のMT B/L(いわゆるスイッチB/L)
  荷送人:A社
  荷受人:C社

 当社は、上記1)1件目のMT B/L原本全通を回収してから、2)2件目のスイッチMT B/Lを発行するのが方針であること、さらにある運送品に対して2件のMT B/Lを同時に発行すると、当該運送品に対する正当な権利者が2者存在することになり、到底受け入れられないと説明し、納得を得ようとしました。
 これに対しA社は当社に対して以下の説明とともに、再度強い口調で要請に応じるよう要求してきました。 ①釜山~青島は近距離で、コンテナ船の航海日数はわずか2~3日程度である。運送人が1件目のMT B/Lをまず発行し、その原本全通を運送人に差し入れた後に、運送人が2件目のMT B/Lを発行するのが、三国間貿易では一般的であることは承知している。しかしこの方式では2件目のMT B/Lが輸入者のC社に届くまでにかなりの日数がかかり、青島港でC社の貨物引き取りが大幅に遅れてしまい大きなクレームとなる恐れがある。 ②創業50年を誇る中堅商社で、経営は安定しているので心配しないでほしい。万一MT B/Lの2件同時発行によって何らかの問題が発生しても、NVOCCである貴社には絶対に迷惑をかけないことを約束する。もし必要なら補償状(Letter of Indemnity)を差し入れてもよい。 ③再度の依頼となるが、釜山で船積み後、上記で述べた1)と2)のMT B/Lを、同時かつ速やかに発行してほしい。もしどうしても協力できないというのなら、発注内示は無かったことにし、他のNVOCCを起用する。
 本件は、貨物量が比較的多く長期にわたって継続するので、当社としては非常に魅力があるビジネスであり、何とかA社の要請に応じ受注を確定させたいと願っています。しかし1件の三国間貿易につき、2件のMT B/Lを同時に発行することには、補償状(Letter of Indemnity)を入手できたとしても不安があります。
 本件は、どのように対処すべきでしょうか。A社の要求を断るのは簡単ですが、それでは当社の長期にわたる営業努力が無駄になってしまいます。上司からは知恵を出せと指示されましたが、良案が思い浮かびません。当社がリスクを負わないことを前提に、A社に納得してもらえるような良い解決策はないものでしょうか。例えば、MT B/L 2件を同時に発行しなくてもA社とB社が円滑に決済を行え、さらに仕向地で貨物をC社に迅速に引き渡しできるような方法は無いものでしょうか。ご教示の程宜しくお願いします。

回答:
 昨今、経済のグローバル化が益々進展しており、それに伴い本邦企業が仲介業者として取り組む三国間貿易が急増しています。もともと貿易は、自国と異なる言語、法律、商慣習、政治経済状況の国に存在する企業や人との取引であり、国内取引と比較するとリスクが多いのが実情です。さらに三国間貿易では、取引関係者が、売主(輸出者)、仲介貿易業者、買主(輸入者)の3者となり、通常の二国間での貿易に比べて取引が複雑なだけに、トラブル発生の頻度が高まります。そのため貴社がフレイトフォワーダーやNVOCCとして、三国間貿易に伴う国際輸送を引きうける際に重要な点は、貿易の仲介者、すなわちA社の信用度です。それが十分でないと、貴社のみならず、売主のB社、買主のC社も、大きなトラブルに遭遇します。

 貴社がA社より本件を受注される前に、必ずA社の信用度を十分調査してください。A社が会社設立後長い間営業していることは、信用しうる会社としての要素の一つですが、信用調査はあくまで総合的に行い判断することが肝要です。ビジネスの環境変化が大きい昨今では、長い歴史を持つ企業の経営状態が、実は余り良くないこともあります。新たに大きな取引をする場合、何か問題が発生した際には、A社の資本力や財務状況に照らして、堪えられるかという視点も必要です。信用調査会社等も起用した上で、A社に信用上の不安が無いことを、まずご確認ください。

 営業拡大志向が先行し、荷主の間違ったまたは不合理な要求に応じてしまった結果、フォワーダーやNVOCCが大きな損害を被った事例が少なくありません。リスクが無いと考えられるスキームとした上で、本件の海上輸送をお引き受けください。

 本件のように輸出国と輸入国が近距離の場合、同時に二つのMT B/Lを発行するよう要請されることがあるようですが、これに応じることは厳禁です。貴社がすでにご質問のなかで述べておられるように、同一の運送品に対して、異なる2者の権利者が存在するような仕組みは、どのような背景や理由があるにせよ、運送人として絶対に認めてはならないことです。

 その代わりとしてA社に提案する案としては、Forwarder’s Cargo Receipt(FCR)の利用が考えられますので、以下に説明します。

(1)FCRの発行
●釜山での船積みが確認された段階で、貴社の釜山代理店が、貴社のMT B/Lでなく、FCRをB社に対し発行します。このFCRを入手したB社は、それを船積みが完了した証拠としてA社に提示し、A社は決済を行います。 ●B社にとっては、船積み後にMT B/Lを入手した方が、商品に対する債権を確実に保全、回収するという観点から有利なので、FCRでの決済に応じるだろうかとの疑問があるかもしれませんが、A社の信用度が十分であれば、B社はFCRでの決済に応じるのが一般的です。 ●FCRは、三国間貿易において、スイッチMT B/Lのタイムラグを解消する方法として、近年注目を浴び、活用されるようになっています。 JIFFAが正会員のために制定したFCRがありますのでご利用ください。JIFFA FCRについては、以下のURLをご覧ください。https://www.jiffa.or.jp/documents/fcr.html ●ご承知のように、FCRの特徴(MT B/Lと異なる主な点)は以下のとおりです。 ・有価証券でない。 ・仕向地で貨物の引き渡しを請求する権利を表象するものでない。 ・運送契約の成立を示す書類でない。 ・仲介貿易業者A社の信用度が十分である限り、FCRのこの特徴が三国間貿易において、支障となることはまずありません。
(2)MT B/Lの発行 ・釜山で船積みが確認され次第、貴社または貴社の釜山代理店が、荷送人をA社、荷受人をC社とするMT B/Lを発行することにします。
(3)上記FCRを利用する案のメリット ・いわゆるスイッチMT B/Lは発行されないので、貴社が懸念しておられる1件の運送品に対して、2件のMT B/Lが同時に発行され、その運送品に対する権利者が2者存在するというリスクがありません。 ・一方、釜山で船積みが終わり次第、貴社または貴社の釜山代理店が荷送人をA社、荷受人をC社とするMT B/Lを発行し、A社に提示することでA社の要求に実質上応じることになります。

第76回 221号 2019年7月
    「荷主から運送人の下請け会社に貨物損害賠償が直接請求された場合について」

質問:
 当社は、JIFFA MT B/Lを使って利用運送事業を行っています。
 3ヶ月ほど前、20フィートコンテナ1本(精密機械、7m3、重量6t)を東京CYで引き受け、欧州のX港で陸揚げしたあと、X港と同一国にある内陸の都市Y市にある荷受人の倉庫(Door)までトレーラーで輸送する契約を、荷主Aと結びました。
 当該コンテナは、予定通りX港で陸揚げされ、当社の現地下請け会社BによりY市まで陸送されましたが、トレーラー運転手の前方不注意により、Y市内で道路下にある川に転落、当社の現地代理店手配によるサーベイヤーが検査したところ、精密機械は全損と判断されました。
 全損事故であることが判明した時点で、直ちに荷主Aにお詫びと報告に伺ったところ、本件の処理について以下のような考えが示されました。

 「当社は、貨物海上保険を、仕向地であるY市の荷受人倉庫まで付保すべきところを、誤ってX港のCY渡しまでしか付保していなかった。その結果、X港からY市DOORまでの区間で発生した当該事故については、貨物海上保険の対象外ということが判明した。」
「従って、本件に関しては運送人に損害賠償を請求することになるが、貴社に求償しても、B/L約款で責任限度額が定められていることを承知している。一方、現地の下請け会社Bに直接賠償責任を求めれば、損害額の全額またはそれに近い金額を求償できると思うので、荷受人の協力を得て、直接損害賠償請求をすることにした。」

 事故は陸上で起こったものの当社は複合一貫輸送のB/Lを発行していることから、荷主Aが当社を跳び越えて、直接当社の下請け会社Bに損害賠償を請求することができるなら、運送契約を結んだ当社の知らないところで、当事者間で損害賠償の内容が決まってしまうことになりその影響が心配です。
 このまま荷主Aの意向に従って処理をするに際し、当社が留意すべき点があればアドバイスをお願いします。

回答:
 荷主AがB/L発行者である貴社を跳び越えて、直接下請け会社Bを訴えることについてですが、JIFFA MT B/Lには以下の規定があります。

JIFFA MT B/L 裏面約款第25条第1項
(下請人、使用人、代理人その他の者の責任)

『(1)運送品の滅失又は損傷に関して、運送人の使用人若しくは代理人又はこの約款によって証される運送の履行のために、運送人がその役務を調達する全ての下請人及びその使用人若しくは代理人を含むその他の者に対して、訴訟が提起された場合には、これらの使用人、代理人又はその他の者は、運送人がこの約款の下で行使できる抗弁及び責任制限を援用できるものとし、この運送契約の締結に当たり、運送人は、それらの規定に関しては、自己のためのみならず、使用人、代理人、その他の者の代理人及び受託者として、契約を締結するものとする。運送人、使用人、代理人又はその他の者から賠償を得ることができる総額は、いかなる場合であっても、この約款に規定される制限額を超えないものとする。』

 荷主Aが直接運送人の下請け会社Bと争う場合は、両者間に直接契約が無い状態で下請け会社Bの不法行為責任を問うことになりますが、それでは、B/Lに記載された運送人の責任や運送人の責任限度などの規定が働かず、荷主Aが貴社(運送人)に対して賠償責任を問う場合と、契約のない下請け会社Bを不法行為責任で訴える場合とで、賠償の内容が異なってしまうという不都合が生じる可能性があります。そこで本条では、荷主Aが貴社の下請け会社Bを直接訴えることを妨げないものの、その責任の限度はMT B/Lに規定された運送人の責任限度額を援用できるとしています。つまり、荷主Aは、貴社に対しMT B/Lの約款をもとに賠償責任を問うても、下請け会社Bの不法行為責任を問うても、責任の限度額は同じ賠償額であると定めています。本条は、ヒマラヤ条項(Himalaya Clause(*))と称されるものです。

 次に、上記第25条第1項に加えて、同条第2項の規定を確認します。

JIFFA MT B/L 裏面約款第25条第2項
(下請人、使用人、代理人その他の者の責任)

『(2)荷主が運送人の使用人、代理人、その他の者及びその他の者の使用人並びに代理人に対して行った賠償請求に関して、これらの者が運送人に対し行う一切の賠償請求を運送人に補償するものとする。』

 本条第2項は、荷主Aが下請け会社Bに対し不法行為責任に基づく損害賠償請求を提起し、下請け企業がそれを支払った場合に、最終的に運送人の負担となることを防ぐため、荷主は運送人が、下請人・使用人・代理人及びその他の者に支払った賠償額を運送人に対して補償するとしています。この第2項は、環状補償条項(Circular Indemnity Clause(**))と称され、第1項を補完します。

 以上のことから、荷主Aが下請け会社Bと直接交渉することを望む場合には、貴社が運送人として、予め下請け会社Bに上記第25条1項及び2項を連絡・確認しておくことは、貴社と下請け会社Bとの間の不測のトラブルを避けるために重要なことと考えられます。

(*)、(**)・・・詳細は2014年4月発刊「JIFFA運送書類(2013年改訂版)解説書」p.65,66参照。

 なお、上記説明はJIFFA MT B/Lの運送約款に則り、我が国の法令や我が国が批准・加盟した条約等を前提としたものですが、国際複合一貫輸送契約については、海上輸送以外で発生した事故に対する損害賠償の範囲や限度について、国によって固有の法令・規則が定められていることがあります。従って、ご質問に関する方針を決定する際には、必ず当該国の法令・規則を確認するようにして下さい。 また、貴社が加入している賠償責任保険会社に報告・相談の上で対処をされることも重要と思われます。

第75回 220号 2019年5月
    「コンテナ内で発見された害虫らしきものによる輸入遅延損害について」

質問:
 当社はNVOCCであり、JIFFA MT B/Lを発行しています。ある顧客A社(輸出者)のブラジル/サントス港向け、ステンレスパイプの輸送において発生した事案についてご相談があります。A社が自社倉庫で輸出梱包・コンテナ詰め作業を行い、当社がコンテナ引取り以降サントス港までの海上輸送、輸入者倉庫までの一貫輸送を引き受けましたが、当該貨物が現地で税関の輸入貨物検査を受けた際にコンテナ内で害虫らしきものが発見されたとのことで、コンテナはヤードに留め置きとなりました。
 ブラジルではこのような場合、貨物は積戻しとなることが多いようですが、輸入者が税関及び関係官庁に、当該物品が現地で施工中の化学プラントの補修工事に緊急に必要な旨を訴えた結果、港湾施設内にて燻蒸処理することで、本船入港から30日後にようやく輸入者倉庫への納入に至ったとのことです。納入時、特に貨物自体にダメージはなかったことは確認しています。
 先日、顧客A社から突然、以下の連絡及び要求がありました。
「輸入者は、補修工事完了予定日に間に合わせるために施工する作業員を大幅に増員し、突貫で補修工事を行ったため、予定外の追加工事費が発生した。これは予定通り貨物が到着していれば発生しなかった費用であることから、NVOCC(当社)が負担すべき。」
 本船遅延によるクレーム経験はありますが、このような原因で港湾施設内に滞留したケースは今回初めてであったことから、当社の対応につきご教示ください。また、顧客に対して何かアドバイスできることがあるとすればどんなことでしょうか。

回答:
 まず、貴社は運送人として、JIFFA MT B/L裏面約款第22条(1)項により、運送の為に運送品を受取ったときから引渡時までの間に生じた運送品の滅失又は損傷について責任を負担することになります。そのため、本件の害虫らしきもののコンテナ内への混入が、貴社のコンテナ受領前に発生した場合には、貴社が責任を負担することはありません。また、特に本件では、輸出者であるA社が自社倉庫で輸出梱包の上、同倉庫でコンテナ詰め作業を行っていますが、荷主の詰めたコンテナの場合、JIFFA MT B/L裏面約款第28条(1)項は、発行した運送証券はコンテナの受領証に過ぎず、かつ運送人は中身に係る滅失又は損傷について責任を負わないと規定しています。そのため、貴社としてはコンテナの外装上に異常がないことを示すリマークなしの機器受渡証(Equipment Interchange Receipt、以下EIRと言います)等をA社に提示し、本件の害虫らしきもののコンテナへの混入が運送中に発生したものではないこと、つまりJIFFA裏面約款第28条(1)項により、責任を負担しないことを説明する必要があります。

第22条(運送人の責任)(1)項抜粋
(1)運送人は、運送のために運送品を受取ったときから引渡時までの間に生じた運送品の滅失又は損傷について、以下に述べる範囲で責任を負うものとする。
第28条(荷主の詰めたコンテナ)(1)項抜粋
(1)コンテナが運送人により詰められたものでないときは、本運送証券は、コンテナのみの受領証に過ぎず、かつ、運送人は、中身に係る滅失又は損傷について責任を負わず、かつ、荷主は、次の原因による運送人が被った滅失、損傷、責任又は費用を運送人に補償しなければならない。  (a)コンテナ詰めの方法
 (b)中身がコンテナ運送に不適当な物品であること、又は
 (c)荷主がコンテナ詰めのときに又は事前に相当な検査を行ったのであれば発見できたコンテナの不適合性又は欠陥。

 仮に運送中に害虫らしきものの混入があったとしても、JIFFA MT B/L裏面約款第22条(2)項(h)は、運送人が避けることができない原因又は事件であって、相当な注意をつくしても、その発生を防ぐことができない結果に関しては、責任を負担しないと規定しています。そのため、運送中の害虫らしきものの混入が貴社により防ぐことができない原因の場合には、同条項による無責主張も可能であると考えられます。また、A社の主張は貴社に対する遅延責任の追及と考えられますが、JIFFA MT B/L裏面約款第23条(6)項は、運送人の遅延責任を免責としておりますので、この点をA社に説明する必要があると思います。

第22条(運送人の責任)(2)項(h)抜粋
(2)運送人は、滅失、損傷又は引渡しの遅延が次の事由により生じたものであるときは、滅失又は損傷の責任を免除される。(中略)  (h)運送人が避けることができない原因又は事件であって、相当な注意を尽くしても、その発生を防ぐことができない結果。

第23条(責任の限度)(6)項抜粋
(6)運送人は、運送品が荷揚港又は引渡地に、特定の市場又は用途を満たすために、特定の時期若しくは時間内に到着することを保証するものではなく、かつ、運送人は、遅延その他の事由に基づくいかなる直接、間接又は派生的損失若しくは損害についても一切責任を負わない。上記の権利を害することなく、運送人が遅延に対して責任があることが判明した場合には、責任は、当該運送区間に適用される運賃を限度とする。
 フォワーダーの立場で顧客(荷主)にこのような貨物遅延を発生させないために助言できるとすれば、
1)船会社からコンテナを借り受ける際にEIRの発行を受けるが、これはコンテナの外観の状態を示すものにすぎずコンテナ内部の状態を示すものではないため、空コンテナ受領時にコンテナ内の洗浄状態や亀裂などの穴が無いかを目視等により今まで以上に注意して確認する事、 2)コンテナ詰め作業中に害虫混入の可能性が無いか、念のため現場倉庫に確認し、作業員へ注意喚起をする事、 3)また、輸出貨物に使用される木材梱包材は国際基準(*)に則って熱処理または臭化メチル燻蒸処理等による消毒ルールが設けられているが、当該梱包材が仕向け国のルールに従って処理済みであるか、決められたマークがあるかなどの確認をする事、 などが挙げられるかもしれません。
(*)ISPM No.15・・・http://www.maff.go.jp/pps/j/konpozai/index.html

 因みに、ブラジルでは農務省から発令された規範命令の強化に伴い、ブラジル輸入通関時に木材梱包材の対応状況について申告することが義務付けられており、B/L上のDESCRIPTION欄に次のような情報を記載しなければならないことになっています。
1.Wooden Package:Treated and Certified(対応・マーキング済)
2.Wooden Package:Processed(加工済み木材を利用)
3.Wooden Package:Not-Treated and Not-Certified(未対応・証明書未発行)
4.Wooden Package:Not-Applicable(in case it is not wooden material)(規制対象となる木材梱包なし)
注)これらの文言は船会社によって多少の違いはありますが、内容は同じです。

 今回のご相談はブラジル向け輸出貨物において発生した事案ですが、国ごとに動物検疫や植物防疫に関する規制が異なる場合もありますので十分ご注意ください。

第74回 219号 2019年3月
    「海上運送書類の印紙税の取扱いについて」

質問:
 当社は外航の第二種貨物利用運送事業許可を昨年取得し、現在運送書類としてJIFFAのMT B/LとWAYBILLを使用して海上輸出業務を行っております。
 当社では作成された運送書類の記載内容を責任者がチェックした後に署名し、社内ルールに則って決められた額の収入印紙を貼り付け消印の上、荷主に渡しておりますが、過去に税務調査を受けたことがなく、この社内ルールがはたして正しいのか不安です。また収入印紙を貼り付け運送書類を発行した後に、荷主から記載事項に関して多くの変更要請を受けた等の理由で、運送書類を再発行することが時々あります。
 つきましては以下の2点について、運送書類に貼り付ける収入印紙の正しい取り扱いをご教示願います。
1.当社は発行した運送書類の原本の一つに一律200円の収入印紙を貼り付けることを社内ルールとしておりますが、はたしてそれで間違いないのでしょうか。 2.運送書類の再発行に伴い、ボイドとなった運送書類に貼り付けられて無駄となった収入印紙は経費としてあきらめるしかないのでしょうか。

回答:
 ご質問によりますと貴社ではまだ税務調査を受けたことがないとのお話ですが、もし税務調査により納付すべき印紙税を 納付していなかったことが見つかりますと、その納付しなかった印紙税の額とその2倍に相当する金額との合計額(すなわち印紙税額の3倍)に相当する過怠税を、また、貼り付けた収入印紙を所定の方法によって消さなかった場合には、消されていない印紙の額面金額に相当する金額の過怠税を徴収されることになります。通常は過去3事業年度分を調べられるようですが、問題が見つかった場合は5年度分、悪質な場合は7年度分とも言われておりますので、場合によっては多額の過怠税を徴収される可能性があり、収入印紙の取り扱いに関しては十分な注意を払う必要があります。

 それではご質問の1.に対する回答として運送書類の発行に課せられる印紙税の概要について説明いたします。
 印紙税は、印紙税法(昭和42年法律第23号)に基づき、課税物件に該当する一定の文書(課税文書)に対して課される国税で、課税文書の種類によって印紙税が異なります。運送書類という一括りでの判断は大変危険です。
 まずMT B/Lの方ですが、こちらは印紙税法別表第一(課税物件表)に9号文書として記載されている「船荷証券」に該当いたします。印紙税額はMT B/L1件につき200円で、原本が何通発行されてもMT B/Lの第一原本だけに200円の収入印紙を貼り付ければよいことになっております。また、MT B/L上に運賃の記載が有っても無くても印紙税額は同じです。
 一方、WAYBILLについては明確な規定がなく、一般的には印紙税法別表第一(課税物件表)に1号文書として記載されている「4.運送に関する契約書」に該当すると考えられているようですが、まずは貴社の顧問税理士に相談して判断されるべきでしょう。
 もし貴社が1号文書の「4.運送に関する契約書」に該当すると判断された場合、印紙税額及び取扱いは以下のようになります。
①WAYBILL上に運賃額を表示せず、“As Arranged”と記載した場合、印紙税額は200円となります。 ②WAYBILL上に運賃額を表示した場合、その額に応じた印紙税が課されます。詳細は印紙税額一覧表をご覧ください(URLは以下のとおり)。  https://www.nta.go.jp/publication/pamph/inshi/pdf/zeigaku_ichiran.pdf ③WAYBILLの原本を複数発行する場合はそれぞれの原本に収入印紙を貼り付ける必要があります。
 このようにMT B/LとWAYBILLでは印紙税の取扱いが異なりますので、「運送書類の原本の一つに一律200円の収入印紙を貼り付ける」という貴社ルールは顧問税理士と相談の上、至急見直しが必要となるでしょう。もし過去に納付した印紙税が不足していた場合は、税務調査を受ける前に自主的にその旨を所轄税務署長に申し出れば、過怠税は納付しなかった印紙税の額とその10%に相当する金額との合計額(すなわち印紙税額の1.1倍)に軽減される可能性がありますので、直ちに必要な手続きを取るべきでしょう。

 次にご質問の2.に対する回答ですが、誤って納付した印紙税の還付申請は可能です。ただし還付の対象となる主なものは以下のとおりです。
1.印紙税の課税文書に貼り付けた収入印紙が過大となっているもの。 2.印紙税の課税文書に該当しない文書を印紙税の課税文書と誤認して収入印紙を貼り付けてしまったもの。 3.印紙税の課税文書の用紙に収入印紙を貼り付けたものの、用紙の書損、損傷等により使用する見込みのなくなったもの。
 貴社の今回のケースは上記の3に該当すると思われ、ボイドとなった運送書類に貼り付けられた収入印紙は印紙税の過誤納金として還付の対象となる可能性があります。
 それでは印紙税の還付を受けるために必要となる手続きについてご紹介いたします。
 還付を受ける場合には、まず印紙税について過誤納の事実があることについて所轄税務署長の確認を受けなければなりません。それには、「印紙税過誤納確認申請書」を納税地の税務署長に提出するとともに、印紙税が過誤納となっている文書を提示することが必要です。
 「印紙税過誤納確認申請書」の用紙は税務署に用意されておりますが、以下の国税庁ホームページから入手することも可能です。
 https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/inshi/annai/23120083.htm
 上記申請の後に税務署長が提示された文書について印紙税の過誤納を確認した場合、その文書に貼り付けられている収入印紙に「過誤納処理済」等と表示した印を押して返戻するほか、過誤納金を還付することとなります。この場合、還付は現金を直接渡すことはなく、銀行口座振込あるいは郵便局を通じて送金となるため、受け取るまでに若干の日数がかかります。

 最後に、印紙税を含めた国税に係る過誤納金の国に対する請求権は、その請求することができる日から5年を経過することによって消滅します(国税通則法第74条第1項)ので、その点注意が必要です。

第73回 218号 2019年1月
    「輸入コンテナ貨物の引取り拒否への対応について」

質問:
 当社は、英国の輸出者から現地代理店を通じて、大阪港CY渡しのアンティーク家具の海上輸送を引き受けました。
 日本向けの貨物のため、現地の当社代理店が「As Agent for the Carrier」として当社のJIFFA MT B/Lを発行しております。
 荷受人は、個人営業の輸入アンティーク家具販売店で取扱商品は安価なものです。今回輸送した貨物は、20Fコンテナ1本、英国のテーブル、椅子、チェスト等アンティーク家具25M3で、インボイス価格は100万円でした。
 大阪港に到着、陸揚げ後、荷受人に連絡したところ、詳細は明かしませんが輸出者とのトラブルを理由にコンテナの引き取りを拒否しました。その後、再三にわたって荷受人にコンテナの引き取りを求めましたが、ついには当方からの連絡に応じなくなりました。
 荷受人が引き取りを拒否したまま、フリータイムが切れ、1か月が経過し、デマレージも相当な金額に達しようとしています。
当社としてはどのような対応をすべきでしょうか。

回答:
 まず、船会社に対するデマレージについては、Master B/L上の荷受人である貴社もしくは荷送人である現地代理店が支払義務を負っていますので、一刻も早く貨物をCYから搬出し、デマレージの拡大を防止する必要があります。

 一方、引受業務の範囲において貴社にデマレージが発生した原因は無いようですから、実際の荷受人に引取りの請求をして一刻も早く貨物を搬出することをお勧めしますが、荷受人は明確に引き取りを拒否していることから、次善の策として、荷送人である輸出者に現地代理店を通じて引取りの請求をします。

 それでも引き取りがなされないときは、JIFFA MT B/L約款第19条(2)により、荷主に通知することなくコンテナから貨物を取り出し、保管することができます。この場合、引き渡しがあったとみなされ、運送人の責任が終了することになりますが、引き続きデバン後の貨物を保管することになり、費用負担の所在はともかく、デマレージの回収ができません。

 そこで、貨物の処分までを検討することになりますが、ここで、荷受人に対し相当の期間を定めて貨物の引取りの催告を行っておきます。催告は、後日のために、文書により内容証明郵便で送付することが一般的です。
 JIFFA MT B/L約款第31条(リエン)に運送人は、運送品および運送品に関する書類に対しリエン(留置権、先取特権)を有し、運送品が期間内に引き取られない時は、このリエンに基づいて競売ができる外、売却や破棄その他の任意処分ができる旨規定しています。したがって、貴社は同規定に基づいて、貨物を処分したうえで、不足分を荷受人又は輸出者に請求することを検討することになりますが、注意すべきは、同規定に基づく任意処分は常に認められる訳でなく、貨物を処分する各国の法律に従うことが必要となる点で、わが国では、留置権に基づく任意処分は認められませんので、裁判所に競売の申立をする必要が出てきます(民事執行法第195条)。
 この、裁判所による競売を介して貨物が売却できた場合には、未回収のデマレージの売却代金から優先的に弁済を受けることが可能となります。
 この貨物の場合、裁判所による競売において自家落札して、自ら廃棄せざるを得ない可能性がありますので、裁判所への競売の申立てに先立ち、できるだけ安い費用で廃棄できる廃棄業者を探し、自家落札後、速やかに廃棄できる体制を作っておくことをお勧めします。
 なお、本貨物は未通関のため外国貨物ということになりますので、関税法第45条に基づく「滅却承認申請書」を管轄の税関長に提出して承認を得ることを忘れず行ってください。

 本件のデマレージについては船社の取り決め料金に基づいて計算されますが、事情を船社に説明してデマレージの値引きの折衝をしてみることも考慮しながら、最終的にはこのような貨物引き取り拒否事例においては、諸般の事情を勘案し、速やかに競売の申立の上、貨物を処分することまでを考え、費用増大のリスク回避を要する必要があることを念頭においてください。

第72回 217号 2018年11月
    「船倉内積みを確約した貨物が甲板積みされたことに因る事故の運送人の賠償責任」

質問:
 当社は、A社(荷送人)より工作機械のインド向け輸出業務を受注しました。受託内容は日本内陸地での貨物梱包、コンテナ積込、横浜CYまでの国内トラック輸送、横浜CYからムンバイCYまでの海上輸送、ムンバイCYからムンバイ郊外のA社顧客であるB社(荷受人)Doorまでの国内トラック輸送です。横浜CYからB社DoorまでのJIFFA M/T B/Lを発行しております。
 工作機械はA社の依頼により防錆措置を施した上で梱包、さらにブルーシートで完全に覆った上で輸送中シートが剥がれないよう厳重に固縛しました。貨物はOver Heightなため、フラットラックコンテナを使用し、A社からOver Height運賃を徴収しました。A社は船倉内積みを要求、当社も船社へその旨を通知した上で船倉内積みの確約を得ましたので、当社のHouse B/L表面に“Under Deck Stowage”の記載をしました。船社発行のMaster B/Lにも同様の記載がされております。貨物のインボイス価格はUS$100,000.00、総重量は1,000kgs、包は1ケースです。A社は同様の方法で同じ貨物を同地に輸送した経験が数度あり、貨物にダメージが発生したことは無かったと言っております。
 横浜CYで外装上異常なしでコンテナを船会社に引き渡し、日本からシンガポール経由でムンバイまで輸送されましたが、ムンバイ到着時には、梱包を被ったブルーシートが破れ、梱包も破損、工作機械が一部むき出しで、海水が乾いたと思われる塩分が付着し、濡損及び錆損が発生しておりました。
 B社手配のサーベイヤーの調査によると、シンガポールで別のコンテナ船に積替えが行われたが手違いでOn Deckに積まれたとの事。その理由は、当該貨物がOver Heightであったため、満船状態の本船の船艙の最上段に積んだため、貨物とハッチカバーの間に十分な空間(Clear Height)を確保することが出来ないことが荷役の直前に判明し、急遽甲板積みに変更したとのことで、当社手配のサーベイヤーからもこの事実の報告がありました。
 B社において貨物の破損部分の修理費用(US$40,000.00)および錆除去費用(US$5,000.00)が発生しましたが、船倉内積みがなされなかったことが事故の原因である事から、後日、同社より保険代位した貨物海上保険会社から損害賠償請求があるだろうと予想しております。
 本件に関し、当社の賠償責任の有無、そして有りの場合の賠償額、更に当社が荷主の賠償請求に備えておくべきことご教示ください。

回答:
 まず貴社の荷主に対する責任についてですが、①事故が貴社B/Lの責任区間である、貨物受取時から引渡時までに発生していること(*1)、②事故の原因が免責規定に当たらないこと(*2)から、貴社の責任は有りと判断されます。

(*1)JIFFA MT B/L 裏面約款 第22条第(1)項
(*2)JIFFA MT B/L 裏面約款 第22条第(2)項

 次に賠償額については、JIFFA MT B/L第23条「責任の制限」に規定される責任制限を主張できなくなる可能性がありますので、On Deckに積まれてしまった事情・理由を慎重に検討する必要があります。同条の責任制限が適用される場合は最大でも2,000SDR(≒US$2,806.34 (*3))です。しかしながら、荷送人が船倉内積みを求め、貴社がそれに応じたにもかかわらず、実際には貨物がOn Deckに積まれて貨物が滅失や損傷した場合は、損害が貴社自身の故意または無謀な行為によると認定され「責任の制限」を主張できない可能性もあります。その場合は予想される請求額(US$45,000.00)を賠償しなければなりません。更に、一般的には責任制限を主張できない賠償事故は、B/L賠償責任保険の対象外となる可能性があります(*4)。

(*3)JIFFA MT B/L 第23条(2)、2018年09月26日のSDRレート(1SDR=USD1.403170)適用。
(*4)一般的に貴社自身の故意または無謀な行為による損害は免責と規定されている。貴社の賠償責任保険会社に確認することをお勧めします。

 貴社のなすべきことは、保険代位した貨物海上保険会社から受けるであろう損害賠償請求を船社に確実に求償し、全額の回収を図ることです。荷主と貴社との契約/責任関係と、貴社と船社とのそれは同様の構図です。つまり、貴社が船社に船倉内積みを求め、船社がそれに応じたにもかかわらず、実際には貨物がOn Deckに積まれて貨物が滅失や損傷した場合は契約違反となり、損害が船社の故意または無謀な行為によると認定されれば、船社は「責任の制限」を主張できません。貴社の賠償額イコール船社からの回収額となれば、貴社の損害を抑えることが可能となります。貴社の主張を確実なものとするために以下を準備されるようお勧めします。

・貴社から船社への船倉内積み要求を裏付ける書類
 (例:貴社要求書面と船社受領記録)
・船社管理下に事故が発生したことを裏付ける書類
 (例:貴社手配サーベイヤーのレポート)
・貴社から船社宛てのクレームノーティス
・荷主(代位求償権者)からの請求書類一式

第71回 216号 2018年9月
    「ミュンヘン向け自動車部品の濡損による全損事故について」

質問:
 欧州内陸向け海陸一貫輸送途上で発生したと思われる貨物濡損事故への対応方法について質問させて戴きます。
 第二種貨物利用運送許可を持つ当社では、競争入札の末、自動車部品メーカーA社の自動車エンジン用基幹部品について、東京港からハンブルク港を経由してミュンヘン市郊外のA社客先であるB社ドア向けのコンテナ海陸一貫輸送を受託しました。当社は東京CY-ハンブルク-ミュンヘン・ドアをカバーするJIFFA MT B/Lを発行しており、運賃は元払いです。ドイツ国内のコンテナ輸送は、船社手配による鉄道及びトラックとなります。
 初回出荷から3ケ月の間は、何らの事故・トラブルも無く取り扱ってまいりましたが、先般出荷した40F HCコンテナ1本がB社ドアに到着後コンテナをあけた際、中身が濡損していた事が確認されたとの情報が、B社からA社を経由して(更にほぼ同時に当社ドイツ現地法人からも)入りました。A社は、このエンジン部品は、少しでも濡損があると品質面で大きな悪影響が懸念される為、当社の責任で代替品の貨物代金、B社からA社に請求される製造ラインストップに伴うペナルティ、及び、代替品の緊急航空輸送費用の全てを負担する様要求しております。このコンテナには、数量20ボックス、重量12,000キログラム、インボイス価格CIP 100万ユーロの自動車部品が入っております。またB社がデバン後の空バンをチェックした所、コンテナ天井に複数の亀裂破損が見つかり、ここから雨水等が入り込んだ可能性が高いとの事ですが、当社が賠償保険を付保している損害保険会社経由で、別途手配したサーベイヤーによると、この亀裂破損は、船社の管理下である海上輸送及びドイツ国内輸送中の間で発生したものと結論付けております。
 ここで当社が取るべきアクションや、今後この様なトラブルを事前に回避するための見積もり作成時、受託時の注意事項、当社をプロテクトする為の保険の付保の方法などを含めて、ご教示戴けます様お願い致します。

回答:
 まず、最初に取るべき行動は、A社に対して「B/L裏面約款に基づく賠償金額には限度がある事」(*1)及び「費用損害の責任はない事」(*2)を伝え、「貨物保険による求償」を依頼する事から始まります。

(*1)JIFFA MT B/L裏面約款 第23条(2)
 「運送人は、いかなる場合であっても、その原因のいかんにかかわらず、1包又は1単位当たり666.67計算単位、又は滅失又は損傷した物品の総重量の1Kg当たり2計算単位に相当する金額のうち、いずれか高い金額を超える運送品に係る一切の滅失又は損傷について責任を負わない。」
(*2)JIFFA MT B/L裏面約款 第23条(6)
 「運送人は、運送品が荷揚港又は引渡地に、特定の市場又は用途を満たすために、特定の時期若しくは時間内に到達することを保証するものではなく、かつ、運送人は、遅延その他の事由に基づくいかなる直接、間接又は派生的損失若しくは損害についても一切責任を負わない。上記の権利を害することなく、運送人が遅延に対して責任があることが判明した場合には、責任は、当該運送区間に適用される運賃を限度とする。」

 この結果、貴社の損害賠償額は責任限度額のEUR28,885.44(2SDR × 12,000kg × EUR1.20356で計算。SDRは8月22日付EUR換算率を適用)までとなります。
 また、費用損害に関しては、貴社は原則的には遅延損害の責任を負いませんが、遅延に対する運送人の責任が積極的に立証された時に限り、当該運送区間に適用される運賃を限度として負担する事になる可能性があります。

 その次に、ドイツ側でマスターB/Lを発行した船社に対して、その船社への責任追及の権利を留保する為のクレームノ—ティスを出状してください。サーベイヤーによればコンテナの亀裂破損は船社管理下で発生しており、船社の責任は明確である事から同社への責任追及の権利を留保する為です。即ち、これは貴社が仮にA社にお支払いをしたとしても、船社から同額を回収できる権利を保全する行為です。
 A社が貴社への直接求償ではなく、同社付保の貨物保険による保険処理に進んだ場合、近い将来その保険会社から、MT B/Lを発行した貴社に対して代位求償が行使されると考えられます。貨物保険の条件にもよりますが、その際に、貨物代金のみならず、付帯費用損害(今回の場合はラインストップによるペナルティ)、及び、代替品の航空運賃も含めて請求してくるかも知れません。

 本件事故の発生状況から貴社の責任は免れないと判断できますが、一方で実運送人からの回収も可能と判断できますので、前述の通り付帯費用損害は対象外として責任限度額を上限に交渉し、同時に船社と交渉して回収を図り、最終的に支払額がゼロとなる事を目指します。
 各交渉においては、貴社がB/L賠償責任保険を付保している保険会社、更に、必要に応じて法律事務所に相談しながら進める事が重要です。

 最後に、今後、運送人たる貴社をプロテクトする為に貴社が取るべき対策と致しまして、
①提出する見積書の条件欄に、「貨物保険の付保」が受託の条件となる旨を記載する事。可能であれば、「第三者求償権放棄特約付き貨物保険の付保」が受託の条件となる旨を記載し、 ②更に同条件欄に、「貨物事故が発生してしまった場合、お客様付保の貨物保険を使って戴く」旨を記載する事、 が重要と思われます。

第70回 215号 2018年7月
    「同一貨物に対して、Forwarder’s Cargo Receipt(FCR)と運送書類の
    双方を発行してよいか?」

質問:
 当社は、大手量販店A社がアジア数か国においてFCA(Free Carrier, 運送人渡)条件で大量に調達する商品を、A社の指定フォワーダーとして調達国よりA社の国内物流センターまで輸送する業務を今回受注しました。A社と具体的な業務手順を打ち合わせるなかで、当社の積地代理店がアジア各地で商品を受け取った段階で、納入業者に対してForwarder’s Cargo Receipt(FCR)を発行すること、さらにA社に対しては、同一本船に積む商品をまとめて、積地から国内物流センターまで1件のSea Waybillを発行するよう求められました。
 当社は今まで同一貨物に対して、FCRと運送書類の双方を発行したことがないため、漠然とした不安があり、社内で相談したところ、以下の意見でした。
①同一貨物に対して、FCRと運送書類の双方を発行することは不適切かもしれない。 ②当社代理店が商品を受領した証拠書類を納入業者に提示するよう求められているのなら、Sea Waybill上の荷送人を、「納入業者名 on behalf of 大手量販店A社」とすることについて、A社の事前了解を得た上で、Sea Waybillを納入業者ごとに発行するのが良く、こうすればFCRの発行が不要となる。荷送人を「納入業者名 on behalf of 大手量販店A社」とする方法は、実際に中堅の小売業の海外調達で採用したことがあり、本件でも推奨したい。  同一貨物に対して、FCRと運送書類の双方を発行することは不適切なのでしょうか。FCRと運送書類は機能が異なるので、同一貨物に対して双方を発行しても問題が無いようにも思うのですが如何でしょうか。ご教示いただきたく宜しくお願いします。

回答:
 結論から申しますと、同一貨物に対して、FCRと運送書類(Sea Waybill又はMT B/L)を発行することは、何ら問題なく、ごく一般的に行われています。大手量販店A社の要請どおりFCRを発行されるようお勧めします。さらに同一本船に積む商品をまとめて、積地から国内物流センターまで、1件のSea WaybillをA社に対して発行することも何ら問題ありません。

 ご質問のなかで述べておられるように、FCRと運送書類は機能が異なります。FCRはフォワーダーが指定場所で、船積み手配のために貨物を受け取ったことを証する受領書です。

 海外調達国においてフォワーダー又はその代理人が、納入業者より商品を受け取った証拠として発行するのがFCRです。大手量販店の海外調達では、納入業者数や発注件数が多いのが通例であり、フォワーダーが商品を受領した証拠としてFCRを発行する仕組みが簡便で、採用されることがよくあります。

 一方Sea WaybillやMT B/Lの運送書類は、荷主と運送人の間で運送契約が成立したことと、運送人が荷受地または荷受港で貨物を受け取り、仕向け港または荷渡地まで輸送することを約束した書類です。

 また、貴社社内のご意見②についてですが、Sea Waybill上の荷送人を「納入業者名 on behalf of 大手量販店A社」とし、それを納入業者に発行する方法は、一部小規模な海外調達では行なわれているようです。FCA条件で調達したが、海外の引渡指定地から本邦への輸送にフォワーダーを選定し、輸送を依頼するほどの調達件数や貨物量が無い場合、納入業者に対して調達者の代理人として、運賃着払いで海上輸送の手配を依頼することがあります。この場合、Sea Waybill等運送書類上の荷送人は、「納入業者 on behalf of 調達者」とするのが通例ですが、今回ご質問の事例では、この方式は不適切です。

 A社はアジア数か国においてFCA条件で本格的な調達を行い、指定フォワーダーとして貴社に引渡指定地から国内物流センターまでの輸送を発注しています。この場合、納入業者のA社に対する義務は、A社の指定する場所で、A社指定のフォワーダーである貴社またはその代理店に商品を引き渡すまでです。貴社と貴社の代理店は、商品を受領したら日本にあるA社の物流センターまで輸送することになりますが、この行為は、あくまでA社の為であり、Sea Waybill上のShipperとして記載すべきは、あくまでA社のみとなります。

第69回 214号 2018年5月
    「本船座礁による遅延責任と航海過失免責について」

質問:
 当社は第二種利用運送事業(外航)の許可を受けて、主に欧米向けの輸出貨物を扱うNVOCCで、JIFFA MT B/L並びにJIFFA WAYBILLを使用しています。
 先日、永年サポートを頂いている機械部品メーカーである荷送人Xより、横浜CFS受けハンブルグCFS渡しのLCL貨物(4ケースの展示会出品用の機械部品)のブッキングを頂き、当社の仕立てた混載コンテナに積み込んで船会社Aのコンテナ船Bに船積みし、荷送人XにはJIFFA MT B/Lを発行しました。しかし、コンテナ船Bはハンブルグの手前のロッテルダム沖で濃霧のため座礁してしまいました。幸い船体の損傷は軽微で、ロッテルダム港で船体の検査と必要な修理を行なったのち航海に復帰しましたが、予定より2週間遅れてハンブルグに入港し、貨物の引渡しも公表スケジュールより2週間遅れてしまいました。
 事故発生当時は、どの程度本船のスケジュールが遅れるか情報が取れなかったので、荷送人Xは展示会に間に合わせるべく代替品を空輸し、展示会は無事開催されたとの連絡がありました。
 その数日後、荷送人Xは、座礁の原因が濃霧の中での船員の操船ミスであったと現地で報道されていること、また、定期コンテナ船のサービスが2週間も遅延することは、荷主の許容できる範囲を超えているとして、代替品を空輸した航空貨物運賃と、追加で要した通関費用等を当社に請求すると通知してきました。
 本件について質問させて頂きます。
①当社は、このような遅延責任を負わなければならないのでしょうか。仮に責任を負うとしたら、どの様な場合に責任を負わなければならないのでしょうか。 ②運送人が遅延責任を負わなければならない場合、賠償の範囲についてご教示下さい。
回答:
 まず、ご質問の①、どのような時に荷主は遅延責任を問えるかを見るために、JIFFA MT B/Lの約款を確認します。JIFFA MT B/L裏面約款第23条には以下の記述があり、運送人は到着の時期を保証せず、遅延によって生じる損害に対して責任を負わないとしています。

【JIFFA MT B/L 裏面約款第23条6項(責任の限度)】
 『運送人は、運送品が荷揚港又は引渡地に、特定の市場又は用途を満たすために、特定の時期若しくは時間内に到着することを保証するものではなく、かつ、運送人は、遅延その他の事由に基づくいかなる直接、間接または派生的損失若しくは損害についても一切責任を負わない。(以下、略)』
一方、JIFFA MT B/Lが摂取しているHague-Visby Rulesを見ると、遅延について記載がありません。しかし、「規定がない」ということは、Hague-Visby Rulesにおいて運送人が遅延責任を負わないという意味ではなく、その責任については各国の法律に委ねるという趣旨であるとされています。そこで更に、Hague-Visby Rulesを取り込んでいるわが国の国際海上物品運送法を確認すると、次の通り運送人の遅延責任を明らかにしています。

【国際海上物品運送法第3条】
 『運送人は、自己又はその使用する者が運送品の受取、船積、積付、運送、保管、荷揚及び引渡につき注意を怠ったことにより生じた運送品の滅失、損傷又は延着について、損害賠償の責を負う。
 2.前項の規定は、船長、海員、水先人その他運送人の使用する者の航行若しくは船舶の取扱に関する行為又は船舶における火災(運送人の故意又は過失に基くものを除く。)により生じた損害には、適用しない。』

 つまり同法第3条1項では、運送品の滅失、損傷のみならず、運送人が貨物を取扱う上で注意を怠ったことにより生じた延着に関し責任を負担させています。ここで、「延着」の意味については条文上明らかではありませんが、「約定の日時」または「通常目的港に到着して引き渡されるべき日時」に運送品が引き渡されないことを意味すると解釈されています。そのため、同法の「延着」の意味については実務に照らし、通常目的港に到着して引き渡されるべき日時に運送品が引き渡されたか否かで判断されることとなります。ご質問の件では、定期船であるコンテナ船の到着が2週間遅れることは実務上希有であることから、通常目的港に到着して引き渡されるべき日時に運送品が引き渡されてないと評価しうる事案であり、同法第3条1項の「延着」に該当する可能性が高いと考えられます。
 しかしながら、同法第3条2項は、「船長、海員、水先人その他運送人の使用する者の航行(中略)により生じた損害には、適用しない。」と規定しています。すなわち、船長や乗組員による操船に起因、所謂「航海上の過失」に起因して発生した遅延損害については運送人の責任を免責されることとなります。この「航海上の過失」について運送人を免責とするという考え方は、古くから海運業で認められてきたものです。その背景は、操船を含む航海上の過失は大きな海難事故に発展することが稀でなく、一旦海難事故が発生すると賠償額が膨大になることもあるので、海には固有の危険があることも考慮して、運送人に船長らの行為による損害に対して賠償責任を負わせるのは酷だという考え方に基づくものです。
 ご質問の件では、本船の操船ミスによる座礁が遅延の原因ですから、航海上の過失による遅延に該当し、運送人は免責を主張できると考えられます。したがって、荷送人X請求の代替品を空輸した航空貨物運賃と、追加で要した通関費用等に関しては、「航海上の過失」によるものとして、貴社は免責主張が可能となります。 なお、ご質問の件においても、B/L等の約款に拘らず、見積りの提示やブッキングを受ける際に、運送人が荷主に本船の揚げ地の到着予定日や貨物の引渡しの予定日を約定していた場合は、運送人は遅延の責任を免れることが出来ない可能性があります。スケジュールのご案内であっても貨物の到着予定日を約定したと誤信する荷主もいます。そのため、見積もりやスケジュールの案内を送る際、『表示したスケジュールはあくまで目安であり、到着や引き渡しの期日を確約するものではありません。』などの注記を入れることをお薦めします。

 次に、ご質問の②、遅延責任が認定される場合の賠償の範囲について国際海上物品運送法とJIFFA MT B/Lの約款の該当部分を確認します。

【国際海上物品運送法第12条の2第1項】
 『運送品に関する損害賠償の額は、荷揚げされるべき地及び時における運送品の市場価格(商品取引所の相場のある物品については、その相場)によつて定める。ただし、市場価格がないときは、その地及び時における同種類で同一の品質の物品の正常な価格によつて定める。』

 この通り国際海上物品運送法では、運送品に関する損害賠償の額は荷揚地及び荷揚時の市場価格に限定しています。そのため、遅延損害の賠償は、貨物の市場価値の減少分、つまり市場価格の下落相当額が賠償の対象となります。

 一方、JIFFA MT B/Lには次の記載があり、延着の場合には、当該運送区間に適用される運賃を賠償責任額の限度としています。

【裏面約款第23条(後段)】
 『運送人が遅延に対して責任があることが判明した場合には、責任は、当該運送区間に適用される運賃を限度とする。』

 このようなことから、実務的な対応としては、貴社が遅延損害の賠償を避けられない場合には、双方をベースに賠償額を計算し、有利な方を賠償額として提示して交渉をされては如何でしょうか。

第68回 213号 2018年3月
    「第三国経由でEPA締約国原産品を輸入する際にEPA税率を適用する為の運送条件」

質問:
 EPA・FTAが脚光を浴びている昨今ですが、EPA・FTA締約の際に合意された特恵関税を享受するためには、締約国から本邦への直送が条件であり、第三国を経由してはならないと聞きました。直航と積替え輸送では海上運賃に大きな差があります。弊社としては輸送コスト削減を強いられているため、航海途中の第三国で積替えのうえ本邦に原産品を輸入し、合法的にEPA・FTA税率を適用する手段はないか思案しています。
 ご助言をお願いします。

回答:
 原産国から本邦に直航する本船を利用しなくても、本邦輸入時にEPA税率を適用させることが可能か、とのご質問にお答えいたします。その前にEPA・FTAについて、簡単に説明させてください。まず、FTAとはFree Trade Agreement(自由貿易協定)の略称で、締約国・地域間の貿易において関税、輸入割当などの制限を一定期間内に撤廃、削減する協定です。EPAはEconomic Partnership Agreement(経済連携協定)の略称で、自由貿易に関する取り決めの他、投資や知的財産権など、サービスに関する内容を含む協定になります。EPAはFTAに比べてその適用範囲が広いといわれていますが、法的に大きな違いはないため本回答では、以下EPAと称することにします。

 それでは、今回のご質問についてですが、結論から申し上げると、第三国を経由する輸送でも、原産地規則の「積送基準」を満たしていることが証明できれば、輸入通関時にEPA税率の適用を受けることができます。「積送基準」とは、EPA税率の対象となる原産品が本邦に到着するまでに、原産品としての資格を失っていないかを判断する基準のことです。積送基準は二つあり、一つは「原産品が本邦に直送されること」と、もう一つは「第三国を経由する場合には、当該第三国において許容される作業は、積卸し及び産品を良好な状態で保存するために必要なその他の作業のみであること」です。これらは、EPA締約国と取り交わす協定書内に設けられている「原産地規則」に定められた貨物輸送に関する規則です。原産国で製造された、あるいは採取された物品等が、その状態を保ったまま本邦に輸入されることが条件となります。本邦到着前に第三国で加工、改良を加えたり変形させたりした物品は、原産地基準に従い原産地(国)の変更となり、その時点で締約国原産品の資格を失います。

 本回答の第二段落で、結論として第三国を経由する輸送でも積送基準を満たせば、EPA税率で輸入することは可能であると申し上げましたが、この場合、本邦での輸入通関の際、積送基準を満たしていることを証明する「運送要件証明書」の提出が必要となります。但し、課税価格の総額が20万円以下の物品の場合は提出が免除されます。(関税法施行令61条第1項第2号ロ)運送要件証明書として提出が必要な書類は(1)~(3)のいずれか一つです。

(1)通し船荷証券の写し
(2)積替え国の税関・官公署が発給した証明書
(3)税関長が適当と認るもの(※(1)、(2)が入手できない場合)
1.積替え地等について記載された原産地証明書 2.原産国→第三国、第三国→本邦 の運送書類 3.第三国の倉庫管理責任者による非加工証明書や税関管理下の保税地域への貨物搬出入記録等 (注)第三国を経由した場合の非加工証明等は入手困難なケースも多いようです。その場合は、輸入地を管轄する税関への事前相談が望まれます。
 日本は2018年1月時点で、15の国・地域とEPAを締結済で、いずれも発効しています。どのEPAにおいても物品の原産地に関する規則(原産地規則)を設けており、その三大構成要素の一つとして「積送基準」があります。このほかに「原産地基準」、「手続的規定」があり、これらすべてを満たして、はじめてEPA税率による貨物輸入が可能となることにご留意ください。

 これまで述べてきました「積送基準」を含め、原産地規則について不明な点がある場合は、貨物の輸入申告予定地を管轄する税関に事前に相談することが望まれます。


第67回 212号 2018年1月
    「自社の運送書類を発行できない海上輸出貨物で運賃収入を得ることが可能か?」

質問:
 当社は第二種貨物利用運送事業者(外航)の許可を得てJIFFA運送書類(JIFFA MT B/L、JIFFA WAYBILL)を発行しています。
 この度、既存荷主から、運賃前払いの条件で、新たな仕向地への海上輸出FCL貨物の引き合いを受けました。この貨物量は多く、継続するビジネスのため船会社からは大変安い運賃を獲得できたので、当社はこのビジネスで高収益を上げたいと考え、競争力のある海上運賃を荷主に提示したところ、無事合意を得ることができました。しかしながら、現時点では、この仕向地には当社の代理店が無いため、自社の運送書類を発行することができません。早急に代理店を見つけたいと考えていますが、それまでは、貨物利用運送事業者としてではなく、貨物取次事業者として対応せざるを得ません。当社が自社の運送書類を発行することができるようになるまでの間、船会社の運送書類を荷主の名義で発行し、運賃表記をAS ARRANGEDとし、当社と荷主との間で合意された海上運賃にその他取扱料等を合わせて請求したいと考えていますが、このような方式に問題はないでしょうか。

回答:
 結論を先に申し上げますと、貴社が意図している方法には後述するように大きなリスクがあるので、絶対に避けるべきです。また、本件のように貨物量が多く継続するビジネスであれば、現在の貴社の体制では、荷主から取引を見直すと今後言われることになったとしても決して不思議ではありません。本件に関し今後貴社が取るべき対応方法としては、当該貨物の引受けが始まる前に、何としても当該仕向地の代理店を選定し(参考1)、この輸送を貨物利用運送事業者として扱う体制を整えるべきであるとお答えします。

 それでは貴社が意図している方法にはどのようなリスクがあるのでしょうか。そのリスクを正しく認識するためには、まず貨物利用運送事業と貨物取次事業の定義とその相違点を良く理解する必要があります。

○貨物利用運送事業と貨物取次事業の定義
 国土交通省はそのHPで貨物利用運送事業を次のように定義しています。「貨物利用運送事業とは他人(荷主)の需要に応じ、有償で、利用運送(自らの運送機関を利用し運送を行う者(実運送業者)の行う運送を利用して貨物を運送すること)を行う事業をいいます。」
 すなわち貨物利用運送事業とは、自社では運送手段を持たず、荷主との間で運送契約を締結し、他の運送事業者の運送手段を使って物品の運送を行うことです。従って荷主に対する運送責任は全て貨物利用運送事業者が負うことになります。一方、貨物取次事業については同HPで次のように定義しています。「運送取次事業は、荷主に対して運送責任を負うものではなく、他人(荷主)の需要に応じ、有償で、自己の名をもってする運送事業者の行う貨物の運送の取次ぎ若しくは運送貨物の運送事業者からの受取(運送の取次ぎ) - 中略 - を行う事業です。」
 すなわち貨物取次事業とは、その取次事業者と荷主との間で運送契約を締結せず、荷主と運送事業者の運送契約を仲介することです。従って荷主に対する運送責任は運送事業者が負い、貨物取次事業者はその取次業務の範囲内で荷主に対して責任を負うにとどまります。

○貨物利用運送事業と貨物取次事業の相違点
(事業法による許認可に関して)
 貨物利用運送事業を行うには、貨物利用運送事業法に則り、国土交通大臣に登録(第一種)または許可(第二種)を受ける必要があります(貨物利用運送事業法第3条第1項、同法第20条)。一方、貨物取次事業を行うには、かつては貨物運送取扱事業法により事業者登録が必要でしたが、平成15年の同法改正によりその規制が撤廃され、現在は誰でも自由に営むことができるようになりました。但し、利用運送と誤認される恐れのある行為等は禁止されています(貨物利用運送事業法第51条第1項)。
(運送書類の発行に関して)
 上述のとおり、貨物利用運送事業の場合はその事業者が荷主に対する運送責任を負うことから、荷主との運送契約を証するものとして自社の運送書類を荷主に発行します。一方、貨物取次事業の場合は他の運送事業者が荷主に対する運送責任を負うことから、貨物取次事業者は運送書類を発行せず、別途取次契約を荷主と締結することになります。
(運賃収入と取次料金に関して)
 貨物利用運送事業ではその事業者が荷主との運送契約に基づいて自社の売値(運賃)を設定し、運賃収入を得ることができます。一方、貨物取次事業ではその事業者は取次契約に基づいた取次料金を収受するのみで、運賃については、船会社に支払った運賃を荷主に請求する立替行為となります。

 以上より、貨物利用運送事業と貨物取次事業の定義とその相違点を理解されたことと思いますので、最後に貴社が意図されている方法によってもたらされる二つの大きなリスクについて説明します。

(貨物取次事業の違反行為)
 上述のとおり、貨物取次事業を行いながら利用運送と誤認される恐れのある行為等は禁止されています。貨物取次事業者でありながら自社の海上運賃を設定し、運賃収入を得ることは荷主に対して貨物利用運送と誤認される行為であり、国土交通省から改善命令(貨物利用運送事業法第51条第2項)が下される可能性があります。
(貨物損害賠償責任)
 また、貨物に損害が生じた場合、損害賠償について交渉する過程で貴社が運賃収入を得ていたことが発覚すると、貴社は貨物利用運送事業者として荷主に対する運送責任が有るとみなされ、貨物損害に対する補償を荷主から求められる可能性があります。そうなると貴社は自社の運送書類を発行していないので、貴社の運送約款に記載された責任制限の規定を援用できず、多額の賠償金支払い義務を負う可能性があります。また、貴社が貨物利用運送事業者としての貨物損害賠償保険を付保していたとしても、貴社は運送書類を発行していないことから、貴社の保険会社は当該取引を貨物利用運送と認めず、保険金の支払いを拒否する可能性もあります。

 その他にも仕向地等により想定されるリスクが存在します(参考2)ので、繰り返しになりますが、貴社は当該貨物の引受けが始まる前に、何としても当該仕向地の代理店を選定し、この輸送を貨物利用運送事業者として扱う体制を整えるべきです。


(参考1)代理店の選定について
 代理店の選定方法に関しては、JIFFA NEWS 2017年7月号掲載のQ&A「海外代理店の見つけ方と信用調査について」に詳しく記載されております。
(参考2)想定リスク例(米国向け)
 米国向けに海上輸出する場合、船会社及び貨物利用運送事業者(米国の法制度上は、NVOCC)は、米国連邦海事委員会(Federal Maritime Commission=FMC)に対して自社の運賃を事前に届け出る必要があります。今回のご相談では荷主が貴社に支払う運賃と貴社が起用する船会社に支払う運賃(船会社がFMCへ届け出る運賃)は相違すると思われるので、貴社は運賃を届け出ずに貨物利用運送事業者(NVOCC)と誤認される行為を行ったとして、FMCから巨額の罰金を課せられる可能性があります。

第66回 211号 2017年11月 「運送書類上の価額申告欄の正しい使い方」

質問:
 当社は国際複合輸送を取扱うフォワーダーで、JIFFA MT B/LとJIFFA WAYBILL(以下、JIFFA運送書類)を発行しています。今まで、荷送人から運送品の価額を申告されたことがなかったため、JIFFA運送書類の価額申告欄(Marchant’s Declared Value)はブランクにしていましたが、ブランクではリスクがあると聞きました。どのようなリスクがあって、どのような対処をすればよいのでしょうか。
 また、荷送人から価額を申告された場合の対処につきましてもご教示いただけますと幸いです。

回答:
 ご理解のとおり、JIFFA運送書類には荷主(注)の価額申告欄(Merchant’s Declared Value)があります。荷主から価額の申告がない場合、ブランクにしているフォワーダーも多いようですが、以下のリスクがあることを理解して適切な対処をしましょう。

(注)荷主:荷送人、荷受人、運送品の所有者等、JIFFA運送書類裏面約款第1条(6)で定める者等(以下同じ)

 まず、価額申告欄に価額が記載されると、何らかの事故が発生した場合、JIFFA運送書類裏面約款第23条「責任の限度」に規定される運送人の責任限度額が適用されず、運送人は当該欄に記載された価額を限度に賠償責任を負うことになります。

 価額申告欄をブランクにしている場合、運送人の責任限度額が約款第23条の規定を超えるわけではありませんが、荷主または第三者が悪意を持って架空の金額を追記するリスクがあります。したがって、運送人は、荷主から価額の申告がない場合でも、無用のトラブルを避けるため、ブランクにはせず、運送書類には“NVD”(No Value Declaredの略、価額申告なし)と記載すべきです。

 次に、荷主から価額を申告された場合の対処について説明します。この場合、まず、実運送人に、価額申告前提での引受可否を確認します。この場合、従価運賃となることにご注意ください。次に、保険会社に対し、本件に関する賠償責任保険の引受可否を確認し、保険会社が引受可能な場合は、追加保険料を確認します。実運送人・保険会社とも引受が可能な場合、運送人は、会社として業務を引き受けるかどうかを検討します。運送人が引き受けると判断した場合は、荷主へ従価運賃の見積を提出し、運賃は前払を条件として折衝し、荷主がそれらの条件を全て了承する場合に引き受けることとするのがよいでしょう。

 なお、フォワーダーが輸出通関業務を合わせて請け負っている場合などは荷主から輸出通関用インボイスを受け取ることがありますが、それは価額の申告とはなりません。荷送人から書面により運送品の価額を申告されて、はじめて価額を申告されたことになります。

 近年米国では、運送契約一般に、価額を記載した合意価額約款、または責任制限約款により、運送人の責任を減免するためには、運送人は荷主に対して「料率選択権」を付与しなければならないという考えが有力となっています。つまり、運送品に事故があるときは、「実価に基づいて賠償を受けられる運賃料率」と「賠償額が一定限度を超えないことを条件とする運賃料率」の選択権を荷主に付与することが、責任制限約款が有効に成立するための要件とされ、海上運送契約についてもこの考えは適用されます。

 最近の判例には、米国海上物品運送法(US COGSA)が適用される場合であっても、料率選択権の付与がないことを理由に、US COGSAの責任制限の援用が否定される事例が増えていると言われています。本来、本運送証券の価額申告欄は、料率選択権を行使し得ることを明示し、荷主に公平な機会を与えるために設けられたものですから、その観点からも本欄をブランクにすべきではありません。

第65回 210号 2017年9月
    「運送品の損害通知期間に関する国際海上運送と国際航空運送の違いについて」

質問:
 当社は国際複合輸送および国際航空輸送サービスを提供しております。国際複合輸送においては、JIFFA MT B/L及びJIFFA WAYBILL(以下、「JIFFA運送書類」といい、JIFFA運送書類の表面及び裏面に定める条文を「JIFFA運送約款」といいます)を発行して事業を展開しております。
 私事ですが、今般、航空輸送から国際複合輸送営業担当に変更になりました。新業務に従事するなかで、運送品に滅失又は損傷が発生した場合の荷受人等からの損害通知の期限の考え方について、航空と海上で違いがあると聞きました。
 前業務の経験から、国際航空輸送の場合は、運送品の引渡し後14日を過ぎて提出された損害通知はAir Waybill(AWB)に摂取されたモントリオール条約を適用して、荷受人等からのクレームを拒絶することが可能と理解していますが、国際海上輸送や、海上と他の輸送モードを組みわせた国際複合輸送の場合でも、JIFFA運送約款第26条に規定された7日の通知期限を過ぎた場合は、同様にクレームを拒絶することができるのでしょうか。

回答:
 結論から申し上げますと、国際海上貨物や国際複合輸送貨物の場合、通知期限を過ぎたことを根拠として荷受人等からのクレームを拒絶することはできません。荷受人等の貨物受取時の事実を確認した上で対処するのが適当です。以下理由を述べます。

 JIFFA運送約款 第26条第1項(以下参照ください)に規定されている通り、運送人が損害通知期間を過ぎてから書面による損害通知を受取った場合、運送品が滅失・損傷なく引き渡されたと推定(「一応の証拠」)してクレームを拒絶することは可能です。 しかし、荷受人等が、運送品の滅失・損傷が運送品を運送人に引き渡してから受取る前に生じたことを証明できれば、「一応の証拠」を覆すことができ、その場合運送人は、無過失の事実を証明するか、免責事由に該当することを証明しなければなりません。

JIFFA運送約款 第26条 第1項 運送品の滅失又は損傷及びその概況がこの運送証券(運送状)の下でその引渡しを受ける権利を有する者の管理下へ移される前又はその時に、若しくは滅失又は損傷が外部から認められないものである場合には、その移転のときから連続7日以内に、引渡地において運送人に対して、書面により通知されないときは、その移転は、運送人がこの運送証券(運送状)の表面記載の運送品を引渡したことの一応の証拠となる。

 荷受人等が、運送品の滅失・損傷が運送品を運送人に引き渡してから受取る前に生じたことを証明するには、例えばリマークが入った荷受人の受領証の提示や、運送品の損傷等の状態が引渡しの際に荷受人と運送人またはその代理人の立会によって確認されていたこと等が考えられます。

 したがって、国際海上輸送や海上を含む国際複合輸送においては、荷受人の運送品受取時の状況を貴社担当者からヒアリングしたり、関係書類の確認等により事実関係を精査し、貴社の管理責任下で運送品の滅失・損傷が発生したか否かを十分確認した上で、荷受人等のクレームに対してどう対処すべきか判断することをお勧めします。


ご参考:損害通知期間に関する国際海上運送と国際航空運送の違い

国際海上運送

国際海上物品運送法 12条 第1項 荷受人又は船荷証券所持人は、運送品の一部滅失または損傷があったときは、受取の際運送人に対しその滅失または損傷の概況につき書面による通知を発しなければならない。ただし、その滅失または損傷が直ちに発見することができないものであるときは、受取の日から3日以内にその通知を発すれば足りる。

注1:荷受人等が通知を怠っても、損害賠償請求権は消滅しない。 注2:前述のように、JIFFA運送約款 第26条 第1項では、滅失、損傷が外部から認められないものである場合は、受取の日から7日以内に通知をすればよいと規定している。JIFFA会員は、海上貨物と他の輸送モードを組わせた国際複合輸送サービスに注力している。このサービスにおいては、運送品の滅失、損傷等が発生した場合、荷受人等が、運送品を受け取ってから3日で通知することは実務的に必ずしも容易でなく、荷受人等の便宜を考えて、通知期限を法定の3日でなく、7日としたものである。
国際航空運送

モントリオール条約(国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約)第31条
(1)略 (2)毀損があった場合には、引渡しを受ける権利を有する者は、毀損の発見後直ちに、遅くとも(中略)貨物についてはその受取の日から14日以内に運送人に対して苦情を申し立てなければならない(以下略) (3)略 (4)(2)に定める期間内に苦情の申立てがない場合には、運送人による詐欺があった場合を除くほか、運送人に対するいかなる訴えも受理されない。
注1:荷受人等が規定の通知を怠った場合は運送人の責任は消滅する。

第64回 209号 2017年7月 「海外代理店の見つけ方と信用調査について」

今回のテーマ採用の主旨:
・法務委員会では、2016年2月に「相互代理店契約標準書式(2016)」を発刊したところ会員各位の好評を博し、同書式はJIFFA会員が海外フォワーダーと代理店契約を締結する際のモデル書式としての地位を確立しています。 ・本書式を活用することにより、会員は紛争等が生じにくい完成度の高い代理店契約を比較的早期かつ容易に締結できるでしょう。 ・代理店契約締結に先立ち、信用度の高い優れたフォワーダーを選定することが先決であることはいうまでもありません。 ・海外代理店の探し方、信用調査の手法等について一般的な方法を紹介し、会員各位の海外ネットワーク拡充に役立ちたいと願っています。
質問:
 当社は、英国、中国、フランス及び米国のフォワーダーと相互代理店契約を締結していますが、それ以外の国には代理店がありません。当社が代理店を有しない国を仕向地として、ドアー・ツー・ドアー輸送を求められることが最近になって急に増えてきました。
 代理店が無い国向けのドアー・ツー・ドアー輸送依頼は、これまでは丁寧にお断りしていました。しかしこのままでは、ビジネス拡大のチャンスを逃すと気づき、早期に世界の主要30か国程度に当社の代理店を置くなど体制を整え、荷主からのドアー・ツー・ドアー輸送サービスの提供依頼に積極的に取り組むことを決断しました。
 海外代理店の選定に際しては、候補となるフォワーダーの信用調査が、非常に重要と聞いていますが、海外フォワーダーの信用調査は、どのようにして行うのでしょうか。さらに海外代理店を見つける方法についても合わせてご教示願えれば幸いです。

回答:
 グローバルに事業展開する荷主のパートナーであるフォワーダーにとって、海外代理店ネットワークの拡充は、極めて重要な課題です。早期に主要30か国程度に代理店を設置されることは、貴社ビジネスの拡大に資する素晴らしい決断と考えます。貴社と同様なお考えや疑問をお持ちの会員が少なくないと思われ、やや詳しく解説することにしました。
 ご承知のように、代理店の選定においては、そのフォワーダーの信用度・信頼度が、非常に重要なカギとなることはいうまでもありません。貴社の代理店候補となるフォワーダーの見つけ方や、候補を絞り込み最良の代理店を選定する際に不可欠となる信用調査について、以下に順を追ってご説明します。

1)代理店候補の見つけ方
 主要国では多数のフォワーダーが営業していますが、その中から信用度が高い優良フォワーダーを見つけることが重要です。候補となるフォワーダーは、貴社のニーズを満たすことができることを大前提に、以下の方法を併用して、できるだけ多くの(少なくても3社から5社程度)を見つけ、その中からベストを選択するようにしてください。

①貴社の既存代理店に紹介を依頼する
 貴社の海外代理店の内、信用度が高くサービス品質も優れているいわば優良フォワーダー(なるべく複数)に対して、以下a)とb)で述べる事項を打診します。打診先を貴社の代理店の内、優良フォワーダーに限定するのは、信用度が高く良いサービスを提供しているフォワーダーが、その海外代理店としているフォワーダーは、信用状態やサービス品質が良好であることが多いという経験則によるものです。

 a)貴社が新たに代理店を設けたいと思っている国に代理店を有するか否か。
 b)代理店を有する場合は、その代理店が信用度、サービス品質等で、優れておれば、ぜひご紹介願えないでしょうか。

 発展途上国で貴社の代理店を探す場合、その国の旧宗主国の貴社代理店に紹介を依頼するのが良いでしょう。例えば、ケニアで代理店を探す場合、ケニアの旧宗主国である英国の貴社代理店に相談することになります。
 先ほど候補フォワーダーは、できるだけ多くと述べましたが、発展途上国ではグローバルビジネスに対応できる有力フォワーダーの数は非常に少ないこがあります。その場合は、候補となるフォワーダーの数は余り気にする必要はないでしょう。ある発展途上国での有力フォワーダーは、日本の有力フォワーダー数社の代理店を兼任しているとのことです。

②大使館への紹介依頼
 貴社が代理店を設けたい国が、日本国内に設置している大使館等の商務部等に相談するのも良いでしょう。多くの国は、自国の産業振興に役立てるため、日本企業からの相談を歓迎しているといわれています。
 駐日大使館より紹介を受けて、貴社が海外フォワーダーに代理店候補とならないか打診すると、自国の駐日大使館からの紹介という点が貴社に対する信用度を高める場合もあるようです。その為しっかりした対応をしてくれることが多いでしょう。

③コンテナ船社への紹介依頼
 貴社が代理店を設けたいと思っている国向けに配船しているコンテナ船社の営業幹部に、現地フォワーダーを貴社代理店候補として紹介するよう依頼する方法があります。
 船会社にとって、貴社は、当該航路での荷主(または潜在荷主)であろうと思われ、船社としては協力して集荷につなげたいと考えるはずです。そのためコンテナ船社は今までの取引経験に基づき、評価の高い現地フォワーダーを紹介してくれることが期待できそうです。

④インターネット検索
 Google、Yahoo等使って、「Freight Forwarder in ○○(貴社が代理店を設けたい国の英語表記)」で検索する方法もあります。多くの場合多数ヒットしますが、玉石混淆の場合が多いことにご注意ください。ヒットしたフォワーダーのホームページの内容を見た上で、良さそうなフォワーダー数社にコンタクトすることになります。多くの国では、フォワーダー協会がありますが、フォワーダー協会が存在するにも拘らず、協会会員でないフォワーダーは、協会に加入しない合理的かつ貴社が納得できる理由の説明が無い限り、代理店候補からは除くのが賢明でしょう。
 ヒットしたフォワーダーの中から、良いと思われるところにコンタクトする際は、貴社の当該国との国際輸送ビジネス計画のハイライト、代理店に求める事項等を簡潔に述べた上で、貴社の英文ホームページのURLを紹介し、貴社の代理店引き受けに興味があるか否かを打診するのが良いでしょう。

2)信用調査

①信用調査の3Cまたは4C
 候補フォワーダーの信用調査を行い、信用不安等が無いことを確認します。信用調査の結果、良好と判断された企業が複数あった場合は、貴社ニーズに照らしあわせ、最良と思われるフォワーダーを選定し、代理店契約を締結することになります。
 信用調査で重要な事項は、信用調査の3Cまたは信用調査の4Cと言われますが、Cの意味は、次の段で説明するとおりです。CONDITIONS(相手国を取り巻く政治的、経済的な条件)を加えない場合は3C, 加えると4Cとなります。一般的に発展途上国での代理店選定では、信用調査は4Cとなります。その国の政治的、経済的な条件にも注意を払うことが非常に重要であるためです。
 CHARACTER(候補フォワーダーの誠実性)、CAPITAL(財務状態、資産状態)、 CAPACITY(営業力)、CONDITIONS(相手国を取り巻く政治的、経済的な条件)。

②信用調査の具体的方法 その1 商業興信所への依頼
 信用調査機関である商業興信所に信用調査を依頼する方法が、簡便です。さらに客観的な情報や評価を迅速に得ることができます。費用はかかりますが、広く活用されています。D&Bレポートなどで知られている米国Dun&Bradstreetが世界的に広く利用されています。
 Dun&Bradstreetの日本代理店は、東京商工リサーチです。URLは、以下のとおりです。
 http://www.tsr-net.co.jp/service/product/dnb_report/
 JIFFA会員には日本貿易振興機構(ジェトロ)の有料会員の方がかなりおられるようです。ジェトロ有料会員限定のサービスとして、コファスサービスジャパン株式会社が通常価格の約50%の割引きで、外国企業信用調査サービスを提供しています。本サービスは、ジェトロのホームページで紹介されており、そのURLは、以下のとおりです。
 https://www.jetro.go.jp/members/memberservice/option/creditcheck.html
 信用調査報告書の概要は、調査機関によりある程度異なります、一例をあげると会社の沿革、規模、主要株主、業界での地位、財務状況、安定性、成長性、経営者の資質等に関して、項目ごとの評価や総合得点が表記されています。

③信用調査の具体的方法 その2 信用照会先を要求しての信用調査
 もう一つの信用調査方法として、貴社の代理店候補であるフォワーダーに対して、信用照会先(Reference)を要求する方法があります。信用照会先として一般的には、取引銀行(Bank Reference)と3~5社程度の取引先(Trade Reference)の名称と住所、取引責任者の氏名、職名、電子メールアドレス、電話番号の提示を求めます。
 国際商取引においては、新たに取引を開始しようと思う相手に信用照会先の提示を求め、提示された信用照会先に対して、取引しようとする相手先の信用状態を問い合わせることが広く行われています。信用照会で得た複数の回答を総合的に評価・判断して、取引するか否か、さらに信用状態が良好な候補フォワーダーが複数ある場合、貴社代理店候補としてどこと優先的に交渉するかを決めることにします。
 信用照会先と全く取引がない貴社が、突然信用照会して回答が得られるか心配されるかもしれませんが、基本的に心配はないと考えてください。信用調査の目的を明確に述べて依頼すれば、回答するのが国際商取引でのいわば常識となっています。信用照会の書状や電子メールでは、「〇〇社(貴社代理店候補の社名)と当社は、日本との国際複合輸送で相互代理店契約を締結すべく交渉を開始したが、〇〇社は、信用照会先として貴銀行(貴社)を連絡してきた」と述べた上で、「守秘義務を遵守するので、〇〇社の信用状態や、いままでの取引経験に基づき、○○社の評価を率直にきかせてほしい。将来もし貴社が日本企業について信用照会が必要となった場合、その企業が当社の取引先であれば、信用調査に協力する用意がある。」などと述べると、ほとんどの場合率直な回答がきます。
 回答が来ない場合が稀にありますが、その場合の理由は、以下のいずれかである場合が多いようです。

・信用調査の対象となった会社の信用状態が良くないので、否定的な意見をいわざるを得ないが、それは言いたくない。 ・信用調査の対象となったフォワーダーとの取引関係が良好でない。 ・問い合わせを受けた人が、退職済や長期休暇中など。
 例えば、代理店候補フォワーダーの取引先の内、5社に信用照会したがいずれからも回答がない場合や、回答が1~2社のみと回答率が低く、回答の内容もやや否定的なニュアンスを含む場合は、貴社の代理店候補としてそのフォワーダーは外すべきでしょう。
 信用照会で使う英文書状・メールの雛形は、大規模書店等で販売されている「貿易英語」や「商業英語」等のテキストで信用照会の項に記述されていますので、必要に応じご参考になさってください。

④信用状態は変化することにご注意ください
 あるフォワーダーの信用調査の結果が良好であったため、貴社の代理店として契約を締結しても油断はできません。会社の経営状態は、時の経過とともに大きく変動することも少なくありません。そのため、代理店の信用状態の変化を見逃さないために、以下3案の内のいずれか、できれば複数の案を同時に採用することをお勧めします。

・独立監査人が監査した財務諸表の交換  毎年の決算終了後、独立監査人が監査済の旨を明記した財務諸表をすみやかに貴社に送付することを代理店に求め、貴社も同様に送付するのが良いでしょう。これにより代理店の業績の推移等が的確に把握できます。注意事項として、貴社代理店の事業規模が比較的小さい場合は、独立監査人の監査は一般的に求められておらず、代理店より財務諸表を送ってもらっても信頼性の点でやや難がありそうです。また貴社の財務諸表に独立監査人の監査意見がついていなければ、相手の代理店に独立監査人の監査済の財務諸表の送付を要求することは現実的でないかもしれません。 ・定期的、例えば年に1回は、商業興信所に信用調査を依頼すること ・年に1回程度は、主要海外代理店を実際に訪問し、その幹部と意見交換することで経営状態に変化がないことを確認する。
⑤カントリーリスクを忘れないことが大切です
 フォワーダーの信用度を考える場合、先進国のフォワーダーは別として、そのフォワーダーが本社を置く国のカントリーリスクを忘れてはなりません。
 世界の国・地域のカントリ―リスクの大小は、OECDカントリーリスク専門家会合で議論し、評価を決めそれを公表しています。同専門家会合に参加している日本貿易保険(NEXI)は、そのホームページでカントリーリスクを発表しています。URLは、以下のとおりです。
 http://nexi.go.jp/cover/categorytableview
 なお、カントリーリスクが大きい国で、代理店を選定の上代理店契約を締結する場合、貴社の顧客の依頼で行う仕向地までの輸送の運賃や仕向地の諸費用等は、日本での元払いを原則としてください。
 荷主が現地で運賃や諸費用を貴社代理店に支払うことを許容し、収受した運賃や諸費用の内、貴社の取り分を代理店が貴社に送金するスキームは、リスクが大きく避けるのが賢明です。

第63回 208号 2017年5月 「NVOCCのための賠償責任保険のカバーの見直しについて」

質問:
 当社は第二種利用運送事業(外航海運)の許可を得て、JIFFA MT B/Lフォーム等を使用してNVOCC事業を営んでいます。
 NVOCCの負う賠償責任については、JIFFA主催の研修会等に参加して重要性を認識しており、貨物賠償責任(※1:以下、Cargo Indemnityと言います)と第三者賠償責任(※2:以下、Third Party Liability=TPLと言います)について、いわゆるNVOCCを対象とした賠償責任保険を付保して必要な準備をしてきた積りでした。
 しかし、先日、受荷主が倒産し引き取られない貨物を競売に付したケースでは、競落価格より諸費用を差し引いて手元に残った金額が、船会社に支払うべきコンテナ・デマレージの額を下回ったため、当社は差額分を負担せざるを得ないというトラブルに巻き込まれました。また、昨年欧州向けに当社混載貨物をFCLに仕立てて船会社Aに積んだところ、その貨物を輸送中の本船が他の貨物船と衝突し、本船をに火災が発生したことにより船主は共同海損を宣言しました。混載貨物の中に個人を荷送人とする引越し貨物がありました。その個人荷主は、当社の強い要請にも拘わらず、Average Bond(共同海損盟約書)の差し入れを拒否し、当社は他の貨物の引き取りが遅延するのを避けるためにAverage Bondを肩代わりして差し入れたところ、その後その個人荷主と連絡が取れなくなるというトラブルにも巻き込まれました。後者の事例では、このまま個人荷主と連絡が取れなければ、精算後の共同海損分担金を当社は負担せざるを得ないと考えられます。
 これらを旧知の同業者の社長に話したところ、そのような負担を余儀なくされた支出は、今日一般的に損害保険会社が提供しているNVOCCに対する賠償責任保険でカバーできるはずだ、との指摘を受けました。本当でしょうか? 
 当社が付保しているCargo IndemnityとTPLが対象としていないリスクも対象とした賠償責任保険としてどのようなものがあるのでしょうか。さらに、そのうち是非付保しておくべきものがありましたら、併せてご助言をお願いします。

※1 Cargo Indemnity:
 貨物の滅失・損傷等に関して、荷主に対し法律上または運送契約上負うべき賠償責任
※2 TPL:
 第三者の身体・財物に対する不法行為上の賠償責任

回答:
 結論から申し上げると、貴社が現在付保されているCargo IndemnityとTPLだけの賠償責任保険では、最近遭遇された2件のトラブルについて保険の填補を受けることはできません。
 しかし、貴社がご相談された社長のおっしゃる通り、近年賠償責任保険は、カバーの範囲を広げたものが商品化されており、そのような賠償責任保険を付保しておけば、貴社は填補を受けることが出来た可能性が高かったと思われます。以下に順番に見て行きましょう。
 なお、特に断らない限り、「賠償責任保険」は、フォワーダーまたはNVOCCを被保険者とする賠償責任保険を指します。

 まず、賠償責任保険は、各保険会社が個別に商品を企画・開発して、フォワーダーやNVOCCに販売しています。各社が個別に商品開発をしていますので、保険会社ごとに付保の対象がかなり異なることもあり、リスクの計算も保険会社によって異なるでしょうから、保険料率も異なることが予想されます。
 一方、個々のNVOCCが、自身の事業に関わるリスクを洗い出し、損害保険会社と料率まで交渉するのは実際には難しく、さらに個別交渉は、JIFFAが提唱している賠償責任保険の普及という点でも必ずしも好ましいことではないかもしれません。そこで、損害保険会社は、フォワーダーやNVOCCが遭遇する賠償責任リスクを纏めて、それをパッケージとして顧客であるフォワーダーやNVOCCに提示するというスタイルが一般に広がってきました。
 実際、JIFFAの賛助会員のある大手損害保険会社は、以下の内容をパッケージにしたJIFFA会員専用の賠償責任保険を販売しています。


保険の対象となる契約:
◇被保険者が、JIFFA MT B/L, JIFFA WAYBILL, JIFFA FCRを発行して締結したすべての運送契約等。
支払いの対象となる損害:
◇貨物の滅失・損傷等に関して、荷主に対し法律上または運送契約上負うべき賠償責任(貴社が付保している、Cargo Indemnityの部分です。) ◇第三者の身体・財物に対する不法行為上の賠償責任(貴社が付保している、TPLの部分です。) ◇JIFFA MT B/L, JIFFA WAYBILL, JIFFA FCRの誤記等、被保険者の誤謬、脱漏に関して、荷主または正当なB/L所持人に対し法律上または運送契約上負うべき賠償責任 ◇受荷主の倒産・行方不明により貨物が引き渡せなかった結果、被保険者が最終的に負担を余儀なくされたその貨物の保管料・積戻運賃(ただし、L/C決済の場合を除きます。) ◇以下の諸費用(ただし、当該損害保険会社の事前了解が必要となります。) ・調査費用、訴訟・弁護士費用、及び損害防止軽減費用 ・誤配の場合の継送費用(航空運賃は最初の輸送が航空輸送の時のみ対象となります。) ・損傷貨物の廃棄費用 ・検疫・くん蒸費用 ・共同海損・救助費用(ただし、荷主から回収できなかった場合にのみ対象となります。)

 上記はJIFFA会員各社に一般的に紹介している保険商品であり、上記に過不足を感じた場合は交渉の余地はあると考えられます。
 対象とするリスクが拡大してきた理由は、コンテナ物流が高度化・複雑化し荷主のニーズも多様化してきたので、NVOCCは、大量の支配貨物をテコに、船会社から競争力のある運賃で仕入れたスペースを実荷主に売って利益を得るビジネスを基盤に、さらに、貨物を保管・梱包や、荷送人の倉庫や工場からCY・CFSまでの輸送を請け負うなど、関連する業務にも広く携わるようになってきた利用運送事業者の発展と軌を一にしています。フォワーダーやNVOCCの提供するサービスの範囲が拡がった結果、Carrier’s LiabilityやTPLでは不十分という声が高まり、その他のリスクも追加した賠償責任保険が広く販売されるようになりました。

 このような広がりは、新規のリスクを追加するだけではなく、従来からあったリスクについても、従来の枠組みではその保証が不十分となった場合に、独自のリスクとして扱う場合もあります。
 一例として、危険品に関する追加の約款が挙げられます。これは、実荷主やNVOCCの誤申告や申告漏れが原因で他の貨物を巻き込む大事故が発生した場合に対応するための約款です。従来このような事故は、TPLで処理されてきました。しかし、危険品に関する事故は、他の貨物や船体へのダメージに発展することが少なくなく、賠償金額は数億円、乃至はそれを超える事例も出てきています。このような高額な賠償に備えるため、危険品を扱うNVOCCは、このような危険品に関する事故を特に取り出して、特約として従来の保険契約に付加する、または個別契約を締結ことによってリスクに備えようというものです。

 貴社は業態から判断して、Cargo IndemnityとTPLでは付保の範囲が不十分であるとお気付きになったと思います。賠償責任保険は、フォワーダーやNVOCCのニーズに応えて填補されるリスクが追加されることもあるので、一旦契約したからといって決して放置せず、定期的に保険会社等より広く情報を求め、必要に応じて更新することが重要です。 今回の経験を糧として、社内に担当者を置き、定期的に保険を見直す仕組みを作られてはいかがでしょうか。

第62回 207号 2017年3月 「B/Lのバックデート」

質問:
 当社はJIFFA MT B/Lを使用するNVOCCです。

 当社は荷主から11月30日東京港出港予定の本船での海上輸送を受託し、貨物は11月28日にCYに搬入されました。ところが積載予定の本船がエンジントラブルのため2日遅れ、12月2日に東京港に入港し、同日、貨物が積載され出港しました。荷主へは事前に本船の遅延状況を伝えていましたが、荷主は、本船出港後突然、L/Cの買取条件における船積期限が11月末日になっているため、B/L Dateを11月30日としてB/Lを発行するよう当社へ要請してきました。

 荷主はL/G(Letter of Guarantee)を差し入れ、当社に一切迷惑をかけないと言っていましたが、上司よりはこの要請に絶対応じてはならないと厳命され、丁重にお断りしました。この機会に断るべき理由を復習しておくべきと考えていますが、忙しい上司に聞くと勉強不足をしかられそうなので、法務委員会Q&Aに対し、ご教示をお願いするものです。

回答:
 まず、B/Lは有価証券であり、有価証券に事実と異なる記載(虚偽記載)を行うことは法律違反であることを認識してください。事実と異なる日付をB/Lに記載することは、国際海上物品運送法第9条の不実記載、刑法第162条の有価証券虚偽記入罪にあたり、法律違反ですので、絶対に行ってはなりません。
 たとえ荷主から「自分(荷主)が全ての責任を取るのでB/L Dateをバックデートしてください」というL/Gを提示されたとしても、貴社が虚偽記載を行うわけですので、貴社が法律に違反することに違いはありません。

 今回の場合、輸出者である荷主は輸入者とL/C決済を行うため、L/Cの買取条件である11月のB/L Dateを要求しました。L/C決済は信用状統一規則に準拠するため、B/Lには船積日(On Board Date)を明示する必要があります。JIFFA MT B/Lは受取船荷証券(Received B/L)の体裁を取りますが、積込済日の付記(On Board Notation)の日付が船積日とみなされますので、貨物を受け取ったのが11月28日であっても、B/Lに示すOn Board Notationの日付は、貨物が本船に積載された12月2日でなければなりません。

 また、B/L Dateの虚偽記載は、貴社に思わぬリスクが発生する可能性があることを認識してください。例えば、到着地の輸入者がB/L Dateの虚偽記載に気がついて開設銀行との為替手形決済を拒否した場合、有価証券に虚偽記載した貴社が損害賠償を請求される可能性があります。もし逸失利益の補填などを請求されれば、貴社の賠償は莫大な金額になり得ます。
 更にもし荷主がその偽造有価証券を使用して買取銀行から現金を騙し取ったとして、詐欺罪を問われるようなこととなった場合、貴社はその荷主の詐欺行為に加担したとして、その罪を問われる可能性があります。

 なお、昨今はインターネット等で本船動静を容易に確認できるようになってきていますので、B/Lのバックデートが発覚する可能性は高くなってきていると言えるでしょう。
 船積後、船積された商品の市況が輸入国で大きく悪化した場合、輸入者が窮地から抜け出す手段の一つとして、B/Lのバックデートなどの不実記載がないかを調べることがあると言われています。
 以上のように、B/Lのバックデートは法律違反であるうえ、貴社に賠償責任が発生するリスクもありますので、荷主の要求には応じるべきではなく、貴社は正しい判断をされました。荷主に対しては、B/Lのバックデートでなく、L/Cのアメンドや、もしそれが難しいのであれば、買取銀行を通じて信用状開設銀行に買取の可否を電信で照会(開設銀行の応諾回答に基づき銀行買取が行われることとなる)するなどの対処をするよう、勧告することも一案でしょう。


(参考)
・国際海上物品運送法 第9条 船荷証券の不実記載
運送人は、船荷証券の記載が事実と異なることをもつて善意の船荷証券所持人に対抗することができない。 ・刑法 第162条 有価証券虚偽記入罪
1.行使の目的で、公債証書、官庁の証券、会社の株券その他の有価証券を偽造し、又は変造した者は、3月以上10年以下の懲役に処する。 2.行使の目的で、有価証券に虚偽の記入をした者も、前項と同様とする。

第61回 206号 2017年1月 「代理店の越権行為による時効延長は有効か」

質問:
 当社(NVOCC)がJIFFA MT B/Lを発行し、A国に輸出した貨物に損害が発生したとの通知が受荷主からあったとの報告を当社代理店B社から受けました。その後、特に当社に連絡がないまま貨物を引渡した日から1年が経過しました。

 その後、B社より、A国の受荷主から当社へ損害賠償請求があったとの報告がありました。既に時効が成立しているのではないかと追及したところ、B社が受荷主からの要求に応じて当社に無断で時効の延長に合意していたことが判明しました。

 当社は貨物クレームに対する交渉権限を一切、代理店に与えておりませんので、B社が無断で応じた時効の延長は法的に無効と思いますが、いかがでしょうか。なお、当社のB/L表面にA国における代理店としてB社の名称と連絡先を記載していました。

回答:
1)B社の行為について
 代理店に対してどこまで権利を委譲するかについては委託契約により定める委託業務の範囲によります。
 一般的には貴社の場合と同様に、貨物クレームに関して代理店には荷主に対する交渉権までは与えていないと思います。

 例えば、当協会制定の「相互代理店契約標準書式(2016)」では、出荷側の当事者(NVOCC)は顧客との貨物クレームを解決するものとするとし、また、出荷側の当事者は、荷受側の当事者(代理店)に対して、出荷側の当事者のためにクレーム処理交渉及び解決を指示することができると規定しています(第13条 カーゴクレーム)。

 損害賠償請求に関する時効の延長の合意は貨物クレーム交渉の一部であり、B社が貴社に無断で延長の合意に応じる回答を行なったのであれば、代理店としての受託業務を逸脱した行為となります。

2)「表見代理人」との取引
 一方、権限を与えられていない代理人であっても代理権があるような外観が認められる場合は、それを信頼して取引した善意の相手方は保護されるという法律上の考え方があります。これを「表見代理人」との取引といいます。

 代理人が権限を逸脱した場合において、当該代理人に代理人としての権限があると取引相手が信ずべき相当な理由があるとき、貴社は取引相手に対して責任を負わなくてはなりません(民法第109条、第110条)。

 英米法にもほぼ同様の考え方があり、代理人と相手の取引に影響を及ぼす代理人の権限を表見的代理権(apparent authority)といいます。

 本件では、貴社が代理店に対して権限を与えると外観上見える表示があったか、また、 第三者(クレーマント)がそれを知らずに取引したことについて善意・無過失であったかがポイントになると思われます。

3)本件の対応
 貴社のB/L上にB社が貴社の代理店である旨の表示がありました。受荷主はこの表示を見てB社に時効の延長を要請してきたものと考えられます。

 B社がどのように説明したかにもよりますが、受荷主は貴社とB社との代理店委託契約書の内容を確認する手段がないので、貴社がB/L上にB社を代理店として記載した事実は、受荷主が当該代理店をA国における貴社の法定代理人と信ずべき相当の理由があったとみなされる可能性は否定できないと思われます。

 従って、今回、B社が無断で行なった時効の延長については応じざるを得ない結果となることが考えられます。
 なお、越権行為を行なったB社の責任は貴社と代理店の間で残ります。B社の越権行為により、貴社が被った損害があればB社に対する損害賠償請求の対象となりえます。

 代理店であるB社には業務委託契約書上の委任業務の再確認を促すとともに、貨物損害賠償請求に関する時効の延長や示談、その他交渉を行なう場合は、必ず事前に業務委託主である貴社へ事前に連絡してその承認と指示を受けるように強く注意を喚起して再発防止を図ることが望まれます。

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